クレドール/マイクロアーティスト工房編 Part.2

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.01.16

SPRING DRIVE “EICHI II”

叡智誕生10周年を祝うPGケースバージョン

スプリングドライブ 叡智Ⅱ GBLT998
日本製腕時計の最高峰。2018年からは18KPGケースが追加されたほか、ケース製法に鍛造が併用された。写真が示す通り、内外装の仕上げは圧巻だ。価格は安くないが、それだけの価値はある。手巻きスプリングドライブ(Cal.7R14)。41石。パワーリザーブ約60時間。18KPG(直径39mm)。30m防水。430万円。

 惜しまれつつも生産中止となった叡智。最も大きな理由は、磁器製文字盤を製造するノリタケが、その製造をやめたためだった。しかし、幸いなことに、マイクロアーティスト工房で仕上げを担当する小口哲夫は、ノリタケの絵付け教室に通い、絵付けのノウハウを得ていた。彼は3年をかけて、ひと通りの技術を習得。その中で、文字盤のベースとなる磁器のプレートも、たまたま長野県で見つけたという。2013年、マイクロアーティスト工房は新しい磁器製文字盤を社内で試作。翌14年には、叡智の後継機である「クレドール スプリングドライブ 叡智Ⅱ」のリリースにこぎつけた。目指したのは、よりシンプルな時計、である。

 このモデルは、基本的に08年の叡智を継承している。トルクリターンシステムを踏襲することで約60時間のパワーリザーブを維持したうえ、ムーブメントの仕上げはさらに改良された。初代叡智のような分かりやすさはなくなったものの、面取りは一層深く広くなり、受けの上に施す筋目もいっそう均一になった。控えめに言っても、面取りの完成度は、現行品でもトップクラスである。

 加えてセイコーは、ケースの製法も改めた。14年のモデルはケースが切削仕上げだったが、18年の18KPGモデル追加に伴い、冷間鍛造が加わるようになった。理由は、素材の組成密度を高め、キメを整えるため。その上からザラツ研磨を施すことで、ケースの面は、従来の叡智に比べて一層整うようになった。

 わずか20年足らずで、第一級の時計を作り上げたマイクロアーティスト工房。残念ながら年産は多くないが、どのモデルも、手にするだけの価値を持っている。とりわけ、非凡な完成度を誇る叡智Ⅱは、日本の時計好きならば、一度は手にすべきではないか。これほどの時計が日本から生まれたことを、筆者は素直に言祝ぎたい。

(左)叡智Ⅱで惜しいのが、一部穴石の形状である。あくまで筆者の私見だが、油溜まりを大きく取った前作の穴石のほうがいっそう魅力的だ。もっとも単結晶のため、発色は良好だ。(右))マイクロアーティスト工房内で製作される文字盤。叡智同様、インデックスとロゴは完全に手書きである。小口が、白鳳堂による特注の筆を使って、色を載せていく。なお色も彼が調合したものだ。彩色が終わったら、工房内の窯で焼き上げて色を定着させる。

ケースサイド。造形は叡智に準じるが、冷間鍛造を併用することで、面の歪みは小さくなっている。ケースはやや厚くなったが、それでも10.3mmしかない。

(左)搭載するCal.7R14は、前作が採用した、Cal.7R08の改良版。受けの割り方が変わったため別物に見えるが、基本的には、パワーリザーブ針を文字盤側から、ムーブメント側に移植しただけである。しかしコハゼや、リュウズから角穴車までの巻き上げ比を変更したことにより、巻き感は前作より少しソフトになった。(右)叡智との大きな違いが、極めて深い面取りだ。受けに施す筋目を浅くすることで、面取りがいっそう残るようになった。その深さは独立時計師に比肩する。なお、前作と異なり、受けに使われる洋銀にはメッキが施されたほか、エングレービングへの色差しも金から青に変更された。

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