SPRING DRIVE “EICHI II”
叡智誕生10周年を祝うPGケースバージョン
日本製腕時計の最高峰。2018年からは18KPGケースが追加されたほか、ケース製法に鍛造が併用された。写真が示す通り、内外装の仕上げは圧巻だ。価格は安くないが、それだけの価値はある。手巻きスプリングドライブ(Cal.7R14)。41石。パワーリザーブ約60時間。18KPG(直径39mm)。30m防水。430万円。
惜しまれつつも生産中止となった叡智。最も大きな理由は、磁器製文字盤を製造するノリタケが、その製造をやめたためだった。しかし、幸いなことに、マイクロアーティスト工房で仕上げを担当する小口哲夫は、ノリタケの絵付け教室に通い、絵付けのノウハウを得ていた。彼は3年をかけて、ひと通りの技術を習得。その中で、文字盤のベースとなる磁器のプレートも、たまたま長野県で見つけたという。2013年、マイクロアーティスト工房は新しい磁器製文字盤を社内で試作。翌14年には、叡智の後継機である「クレドール スプリングドライブ 叡智Ⅱ」のリリースにこぎつけた。目指したのは、よりシンプルな時計、である。
このモデルは、基本的に08年の叡智を継承している。トルクリターンシステムを踏襲することで約60時間のパワーリザーブを維持したうえ、ムーブメントの仕上げはさらに改良された。初代叡智のような分かりやすさはなくなったものの、面取りは一層深く広くなり、受けの上に施す筋目もいっそう均一になった。控えめに言っても、面取りの完成度は、現行品でもトップクラスである。
加えてセイコーは、ケースの製法も改めた。14年のモデルはケースが切削仕上げだったが、18年の18KPGモデル追加に伴い、冷間鍛造が加わるようになった。理由は、素材の組成密度を高め、キメを整えるため。その上からザラツ研磨を施すことで、ケースの面は、従来の叡智に比べて一層整うようになった。
わずか20年足らずで、第一級の時計を作り上げたマイクロアーティスト工房。残念ながら年産は多くないが、どのモデルも、手にするだけの価値を持っている。とりわけ、非凡な完成度を誇る叡智Ⅱは、日本の時計好きならば、一度は手にすべきではないか。これほどの時計が日本から生まれたことを、筆者は素直に言祝ぎたい。