ドイツ軍に納入していたパイロットクロノグラフの復刻モデル3作目、ハンハルト「パイオニア 417C フライバック」

FEATUREWatchTime
2023.11.29

ハンハルトは、1950年代半ばにドイツ軍へフライバック機構を備えたクロノグラフを供給していた歴史を持つ。そのクロノグラフを復刻させた「417」シリーズの3作目が、今回紹介する「パイオニア 417C フライバック」だ。ブロンズとステンレススティールを組み合わせたケースを持つ本作の着用レビューをお届けする。

パイオニア 417C フライバック

ハンハルト「パイオニア 417C フライバック」
手巻き(Cal.Sellita AMT5100 MB)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約58時間。SSケース(直径39mm)。10気圧防水。世界限定150本。国内未入荷(参考価格2490ユーロ)。
Originally published on watchtime.net
Text by Jens Koch
[2023年11月29日公開記事]


1950年代半ばに誕生した、ハンハルト「417」シリーズの3作目

「パイオニア 417C フライバック」の着用レビューをお届けする前に、このモデルの歴史的背景に触れておこう。ハンハルトの「417」シリーズの歴史は、1950年代半ばに始まる。当時のドイツ軍は、パイロット用にフライバック機構を備えたクロノグラフを必要としていた。

 フライバック機構が搭載されていると、計測が継続していても下部のプッシャーで新しくスタートでき、従来のクロノグラフのように停止・リセットしてから再度スタートさせる必要がない。パイロットにとっては、三角飛行や楕円飛行をする際に重要な機能だ。

ハンハルト「417」

1950年代のハンハルト「417」。ドイツ空軍初のパイロット用クロノグラフとして活躍した。

 約10年もの間、ハンハルトはドイツ軍にこのクロノグラフを納入した。俳優であり、レースドライバーでもあったスティーブ・マックイーンもまた、この時計をプライベートや多くのレースで着用し、1962年の映画『地獄に堕ちた勇者ども』でも着用している。現存する数少ないオリジナルの417はコレクターが探し求めるアイテムとなり、オークションでも高値で落札されている。

 417の復刻モデルには、これまでふたつの仕様があった。ニッケルメッキの真鍮製ケースを採用した417と、ステンレススティール製ケースを採用した「417ES」だ。では新しいリミテッドエディション、パイオニア 417C フライバックのデザインを見てみよう。

パイオニア 417C フライバック

ステンレススティールとブロンズを組み合わせたケースがレトロな雰囲気を醸し出す、パイオニア 417C フライバック。

 パイオニア 417C フライバックは、ケース素材にステンレススティールとブロンズを採用した。ヴィンテージ調の蓄光塗料やゴールドカラーの針、ドーム型のサファイアクリスタル製風防と相まって、非常に魅力的なレトロデザインとなっている。文字盤はバイコンパックスで、針の形状や歴史的なハンハルトのロゴも正統派である。オリジナルモデル由来の直径39mmというケース径と、白いステッチが特徴的なカウハイドのレザーストラップも、レトロな雰囲気を醸し出している。

パイオニア 417C フライバック

針とインデックスに塗布されたブルーに光る蓄光塗料によって、暗所での視認性は抜群だ。

 必要に応じて取り外すことができるストラップのパッドは、時計が常に腕の中央にくるようにするためのもので、快適なつけ心地を担保する。尾錠はレトロな外観にマッチし、ケースサイドと同じサテン仕上げだ。ストラップの長さは注文時に決めることができ、さらに200ユーロを追加するとステンレススティール製ブレスレットを選ぶことができる。

パイオニア 417C フライバック

実用的で使いやすい尾錠。ホワイトのステッチがアクセントになっている。

 搭載されているムーブメントにはコラムホイールが付いているため、クロノグラフの使いやすさへの期待は非常に高かった。実際、スタート・ストップボタンの操作はとてもスムーズだ。一方で、リセットプッシャーは少し力が必要だった。幸いなことに、リュウズはねじ込み式ではないので、日常的な巻き上げは簡単にできる。また細かい刻みのおかげで、リュウズは回しやすい。もうひとつのうれしい特徴は、もし時計を巻き忘れたとしても、約58時間のパワーリザーブによって2日後でも確実に動き続けることである。

パイオニア 417C フライバック

レッドマーカーがついたブロンズ製のベゼルは両方向に回転する。

 両方向に回転するベゼル、追加時間の計測や時間のマーキングなどは、日常的な使用においてその価値を発揮する。目視飛行規則(衛星航法が確立される以前は、これが唯一の選択肢だった)に従って飛行計画を立てる場合、コースは飛行地図上にプロットされ、川や鉄道線路のような目立つ地形を通過してから次の地点を通過するまでの時間が地図上に記録される。ニーボードの地図は飛行中、現在地を把握するために使われていたのである。

パイオニア 417C フライバック

ケースに施されたポリッシュ仕上げとサテン仕上げ、ブロンズ製リュウズにあしらわれた歴史的なロゴなどのディテールが特徴的だ。

 パイオニア 417C フライバックのケースは、交互に施されたポリッシュ仕上げとサテン仕上げやマッシュルーム型のプッシャーなど、美しいディテールが特徴だ。ちなみに着用テストの間、ケースのブロンズ部分には経年変化は見られなかった。ハンハルトが採用するアルミニウムブロンズは、他のブロンズ合金ほど経年変化が早くない。

 レトロ調な時計である本作は、かなり頑丈な設計となっている。厚さ13.3mmという薄型のケースであるにも関わらず、水深100mまでの水圧に耐えることができ、ムーブメントはハンハート独自の衝撃吸収機能で保護されている。

パイオニア 417C フライバック

搭載されているムーブメントは、コラムホイールとフライバックを搭載したセリタ製のCal.AMT5100 MBだ。

 サファイアクリスタル製ケースバックから、見どころの多いムーブメントが鑑賞できるのは非常に好ましい。Cal.AMT5100 MBはセリタ製で、手巻きムーブメントであるため機構を隠してしまうローターはない。青焼きのコラムホイール、エレガントなストライプ仕上げのプレート、青焼きのネジなどが特徴だ。ムーブメントは23石で、現代的な2万8800振動/時で作動する。

 最後に魅力的な価格を伝えよう。コラムホイール搭載のフライバック機能を備えたムーブメントを搭載し、わずか150本の限定本数で展開され、サファイアクリスタル製風防とケースバックを備えながらも、2490ユーロという価格は非常にリーズナブルである。

 パイオニア 417C フライバックは、エキサイティングな歴史、優れた技術、素晴らしいムーブメントを備えた、成功したレトロウォッチである。ブロンズとステンレススティールの組み合わせは、見栄えは良いが目立ちすぎることなく、この時計を特別なものにしている。

パイオニア 417C フライバック

パイオニア 417C フライバックは世界限定150本で展開される。




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