オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ」。月の満ち欠けを友に、ぜいたくな時間を過ごす【着用レビュー】

FEATUREインプレッション
2024.01.01

オメガの代表的なコレクション「スピードマスター」に、月の満ち欠けを表示させた「スピードマスター ムーンフェイズ」を約2週間着用した。本作は、オメガの高性能ウォッチとして日常的に使いながらも、月の満ち欠けを友にできる1本である。

オメガ スピードマスター ムーンフェイズ

山田弘樹:文・写真
Text and Photographs by Kouki Yamada
[2024年1月1日公開記事]


ムーンフェイズを備えた「スピードマスター」

 ムーンフェイズは、16世紀ヨーロッパの置き時計ですでに見られた機構であり、1794年にはアブラアン-ルイ・ブレゲが懐中時計「ブレゲNo.5」に取り入れ、現在の腕時計にも同様のスタイルのムーンフェイズが普及している。

 その機能は太陰暦によって時間の経過を知ることだが、主たる目的は月の満ち欠けを複雑機構として楽しむ貴族的な風雅であり、これを搭載する時計はドレッシーな時計というのが相場だ。

 しかしここにひとつ、そのセオリーを堂々と無視して月を身にまとうことを許される時計がある。そう、世界で初めて月に到達した実績を持つ「スピードマスター」だ。

 そして今回は、その名もずばり「スピードマスター ムーンフェイズ」を、約2週間かけてインプレッションしてみた。

オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ」
自動巻き(Cal.9904)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径44.25mm、厚さ16.85mm)。10気圧防水。172万7000円(税込み)。


見た目の印象

 スピードマスターがプロフェッショナル名義となった第4世代(Ref.ST 105.012)から続く、エッジが効いたリュウズガード付きの非対称ケース。その直径は44.25mmと、同じシェイプの元祖ムーンウォッチ(Ref.310.30.42.50.01.001)に対して2mmほど長い。加えて自動巻き機構を重ねる垂直クラッチ式クロノグラフCal.9904を、さらにボックス型のサファイアクリスタルの風防とシースルーバックで挟むことでその厚みも、16.85mmとかなり分厚い。

 しかしこれを見たとき筆者は、先だって着用した「スピードマスター'57」の方がはるかに大きいと感じた。実寸はスピードマスター'57がケース直径40.5mm、厚み12.99mmと、とても小さい。しかしラグ長を豊かに取った'57に対してスピードマスター ムーンフェイズは時計全体のまとまり感が高く、大きさを感じさせないのだ。

 その要となっているのは、前述した伝統のケースデザインだ。

 真正面から見たラグは内側のブラッシュ仕上げの部分が細く、外側のポリッシュ部分が反射することでボディ全体をシャープに見せる。

多彩なバリエーション展開を行うオメガらしく、「スピードマスター ムーンフェイズ」にもさまざまなモデルが用意されている。今回インプレッションしたステンレススティール製ケースにアリゲーターストラップを組み合わせたモデルの他、セラミックスやゴールドなどを素材として用いたモデルもラインナップされる。

 これは現代の自動車デザインと似ている。衝突安全の基準から年々上下方向に厚みを増すドアのパネルを、プレスラインでぎゅっと絞って細く見せる手法だ。オメガはすでにこうした見せ方を、1967年から採用していたのだから恐れ入る。

 そして6時位置のムーンフェイズ用小窓が、大ぶりな2カウンターとバランスを取ることで、ダイアル面が間延びしない。まるで子供が口を尖らせたかのようなコウモリ型の小窓の形状も、時計の表情を和らげていて愛らしい。

 手首に載せる前に、もう少しだけ細部を見てみよう。

 横からの眺めは、スピードマスターらしい無骨さが魅力的。風防は平べったいセラミックベゼルを起点にしてポコンと盛り上がり、まるで「おでん鍋」のようだが、それがむしろ愛嬌満点だ。この中に高性能なCal.9904が詰め込まれているかと思うと、機械好きな筆者はワクワクする。

 シースルーバックからの眺めも心をくすぐる。

「スピードマスター ムーンフェイズ」に搭載されるのは、マスター クロノメーター認定機である自動巻きムーブメントCal.9904だ。シースルーバックの恩恵によって、オメガの高性能を追求するウォッチメイキングの姿勢が表れるムーブメントを、目で楽しめる。

 内部機構が見えない垂直クラッチ式クロノグラフのシースルー化は最初疑問だったが、そんな時計好きの気持ちをオメガは理解しているのだろう。放射線状にマシニングしたコート・ド・ジュネーブ処理は美しく、受け板の上をローターが軽快に動くことで光がキラキラと反射するさまは目に楽しい。

 また受け板にはシルバーに映える赤文字で、「BARREL ONE」「BARREL TWO」「FIFTY FOUR(54)JEWELS」そして「COLUMN WHEEL」と、そのスペックが几帳面に記されている。そして実際にプッシャーを押せば、小窓からのぞくコラムホイールが律儀に回転する。加えて、忙しく動く、耐磁性を備えたシリコン製テンプが見えるのである。


腕に載せて

 Dバックルにはめ込むようにブルーのアリゲーターストラップを通し、ベルトホールにストッパーを押し込む。真ん中で分割してスプリング式としたステーが、パチンと精緻にはまる。

 革ベルトの採用で製品重量は120gと軽く(ブレスレットモデルは202g)、腕振りは軽やかだ。ベルトは剛性が高いためねじれが起きず、フィット感は少ないが装着感は風通しがよくて爽快。使い込むことで若干なじみは出るだろうが、そもそものシッカリ感が強い。

 また表面が上質なマット仕上げであるのに対し、裏地の革がシボ加工となっているため、滑りにくい。だから余裕を持たせた締め具合でも時計がうまく固定できる。

文字盤色に合わせて、ブルーのアリゲーターストラップが組み合わされた本作。ステッチはホワイトだ。

 オメガの現行モデルの金属ブレスレットは装着感の高さが話題だが、革ベルトもかなりの出来映え。ボディそのものの重心はかなり高いが、それをベルト全体で支えてくれている。

 そして、視認性を含めて見た目がとにかくいい。

 サンブラッシュ仕上げの青文字盤は、普段は青黒く落ち着いた雰囲気。そして光が反射すると、美しい光の筋を盤面に写し込む。

 その際、メタルトリムの針やアワーマーカーたちも一緒に浮かび上がり、強い光を受けても時間を正確にキャッチできる。両面に無反射コーティングが施されたサファイアクリスタルも、影ながらその視認性を支えている。

 カレンダーは、9時位置のインダイアルでスモールセコンドと同軸にある。一般的な小窓表示ではなく、赤く塗られた二股針で31日スケールを指すタイプだ。細かいことを言えば偶数日がドット表示となり、その日を二股針が捉える見栄えはあまり良くないが、デザイン的には四角い小窓が文字盤にあるより、こちらの方がスタイリッシュだと筆者は感じる。また、青文字盤に対して、赤い針の視認性も高い。

 “スピーディ”の真骨頂であるクロノグラフの操作性は、プッシャーの感触が興味深かった。スタート/ストップボタンはその伝統にのっとった、固めの押し心地。スプリングの遊びにプリロードを掛けたあと、パチッと音を立てて起動する操作感は、ツールウォッチのお手本だ。誤操作を防ぎやすい機構になっている。

 対して帰零ボタンの感触は少しだけ柔らかく、コクッと心地よいタッチとともに、瞬時にクロノグラフ針を帰零させた。個体差なのかバネレートがソフトなのかは不明だが、上級機種としてプレミアム感のあるタッチだと思えた。

 3時位置のクロノカウンターは、12時間積算計と60分積算計針が同居しており、小さな時計のようだ。だから長時間の計測では時間の経過を、直感的かつ瞬間的に読み取ることができる。

 垂直クラッチのメリットを推し量るのは難しいが、度重なる使用でも針飛びが起こらなかった。クロノグラフ機能を多用しても、定時観測での時間のずれがほぼなかった。

 ちなみに、その精度は2週間の着用(夜は20時以降平置き)で、10日経った時点でわずかに+2秒ほど。毎朝8時30分に実測してほぼズレがなく、5日目で+1秒、10日目の確認で+2秒であった。秒針はスモールセコンドだからそこまでムキになる必要もないのだが、遅れないのはやっぱりうれしい。そしてこれがパワーリザーブ約60時間を誇る、ツインバレルの威力かと驚かされた。ゼンマイの有効トルクバンドが長いため、精度が安定しやすいというわけだ。

アストロノートの足跡が浮かぶ月と、背景の銀河がムーンフェイズの小窓からのぞく。こういった美観を備えたディテールが、本作への所有欲を刺激するだろう。

 肝心のムーンフェイズは、リュウズを一段引いて12時方向に回すことで、月の満ち欠けを調整できる(逆回転でカレンダー)。

 いまどきはスマートフォンのアプリケーションなどで月齢を簡単に知ることができるから、新月から今が何日目かわかれば、その数だけリュウズを回せばいい。

 小窓から見える月のデザインは写実的。ルーペで目をこらすとスケール感は違うが、アストロノートの足跡が見えるのも小技が効いている。

 手首を見るたびに「今日は上弦の月」、「今日は満月か」と空を意識して、実際の月と照らし合わせてみるのはとてもぜいたくだった。

 総じてスピードマスター ムーンフェイズは、ラグジュアリースポーツウォッチの傑作だと言える。

 落ち着きのある色使いと、普遍性のあるスポーティなデザイン。そして装着感の若々しさ。最大1万5000ガウスの耐磁性と10気圧の防水機能、コーアクシアルムーブメントの高い耐久性。そして垂直クラッチの実用性の高さをもって、一番身近なコンプリケーション機能であるクロノグラフを、ちゅうちょなく使い倒すことができる。

 その上で月の満ち欠けを、新たに友とすることができるのだ。

 そのゆとりがひとつ加わるだけで、ツールウォッチであるスピードマスターの深みが、倍増したと筆者は感じた。


Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400


2023年 オメガの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/93395/
オメガの広報担当者が人気モデルからおすすめを厳選! 1位はスピードマスター。2位は?〜メンズ編〜

https://www.webchronos.net/features/106940/
オメガ「スピードマスター ’57」は、原点回帰を超えて未来を語れる新たなアイコンとなったのか?

https://www.webchronos.net/features/105750/