オメガ「スピードマスター ’57」は、原点回帰を超えて未来を語れる新たなアイコンとなったのか?

2023.12.08

1957年に登場した初代スピードマスターのアイコンを随所に受け継ぎながらそれを最新のコースシャル技術で駆動させる「スピードマスター’ 57」。このエンスージアスティックかつ最新のバイコンパックスクロノグラフを2日間使い続け使い勝手や精度のみならず、どこまでその趣味性を満足させるかインプレッションしてみた。果たしてスピードマスター’57は、原点回帰を超えて未来を語れる新たなアイコンとなったのか?

オメガ「スピードマスター ’57」

オメガ「スピードマスター ’57」
初代スピードマスターをモチーフにしたコレクションの最新作。あえてクロノグラフ積算計を60分/12時間の同軸とし、インダイアルをバイコンパックスレイアウトとすることで、レトロ感を強調した。手巻き(Cal.9906)。44石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約60時間。SS( 直径40.5mm、厚さ12.99mm)。5気圧防水。146万3000円(税込み)。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
山田弘樹:取材・文 Text by Kouki Yamada
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


スピードマスターの歴史を深く味わいながら本物の計器として使い倒せるクロノグラフ

 スピードマスターの始祖Ref.2915をモチーフとして、そのネーミングに1957年のバースイヤーを冠した「スピードマスター'57」。ブロードアローの時針とステンレススティール地のタキメーターという鉄板のクラシックアイコンで見た目をアピールしながら、その中身には最新のコーアクシャル マスター クロノメーター キャリバー906を納め、なおかつ高精度な垂直クラッチでクロノグラフを駆動させる、なんとも話題が尽きないタイムピースだ。

スピードマスター ’57

バーガンディの文字盤は黒いバイコンパックスサークルおよび外周目盛りと同系色のため、一見すると地味で暗めな印象。しかし長時間装着すると、この落ち着いた風合いが目になじみ、メッキ処理された針の視認性がとても高いことが分かるようになる。

 そんなスピードマスター'57のコンセプトをクルマに例えるならば、それは「現代の技術でリメイクしたクラシックカー」とでも言えるだろうか。ご存じスピードマスターには伝説のキャリバー321と、第1/第3/第4世代のケースおよびダイアルを完全復刻させたヘリテージラインがある。対してスピードマスター'57は初代スピードマスターのテイストを受け継ぎながらも、冒頭の通りオメガ最新の技術でその中身を動かしている。

 それはポルシェで例えれば73年製カレラRSを手本に、ダックテールをはじめとしたクラシカルな内外装を施しながらも、パワートレインには3・7L水平対向ツインターボ(550PS)を搭載した「911スポーツクラシック」とでも表現できようか。ちなみにこのポルシェ911はトランスミッションをあえての〝7速MT〞としており、操作のひと手間に喜びを感じる趣味性の高さまでもが、手巻き式へと回帰したスピードマスター'57のパッションと重なる。

スピードマスター ’57

ブレスレット同様、その歴史を意識させるボックス型の風防はサファイアクリスタル製。その重さで重心が高まる点はヘサライトに比べ不利だが、防水面では経年変化にも強く、傷も付きにくい。ボックスの立ち上がりが文字盤まで深くおよんでおらず、視認性がきちんと確保されているのには感心した。

 そんなスピードマスター'57を腕にはめた第一印象は、ひとこと「大きい」だった。ただしそれは、決してネガティブな意味ではない。ケースの直径自体は40.5㎜と、現代水準で見れば標準的なサイズだ。そして手巻き式となったことからその厚みも12.99㎜と、従来モデル比で3㎜以上薄型化されている。

 しかしながらこのクロノグラフが実寸より大きく見えるのは、まずポリッシュされた伸びやかなラグが全長を49.6㎜まで引き上げていることがひとつ。愛らしい鉄鍋のような真横からの眺めに対し、腕に乗せた真上からの見た目はこの足長なラグが、美しさを際立たせている。

スピードマスター ’57

スピードマスターの歴史をイメージさせる3連キャタピラブレスレットは中央がサテン、両サイドはポリッシュ仕上げ。リンクはバックルに向かうに従い両側が細くなり、かつ各リンクの天地幅を小さく取りながら横方向に若干の遊びを持たせることで腕なじみがとても良い。ただしその分だけ、腕毛が挟まる傾向あり。

 さらに縦長のアワーマーカーが視覚的にダイアルのサイズ感を強調し、3時位置と9時位置に置かれたふたつのサークルが、枠内で目一杯クロノグラフの存在を主張する。また、その盤面に配置される針たちの視認性も極めて高い。大ぶりなブロードアローが物理的に見やすいのはもちろんだが、それぞれの針は山折りかつダイヤモンドポリッシュ&メッキコートされているため、反射で素早くその居場所を指し示してくれるのだ。総じてその少し大ぶりなボディとダイアルが、純粋な計器として機能しているあたりも実にスピードマスターらしい。

 それだけに、ブレスレット調整は念入りに行いたい。薄型化を図ったとはいえ、ヘッドは相変わらず重心が高く、バックルをカウンターウェイトに用いないブレスレットも相まって、約134gの軽さでも腕振りに対するイナーシャ(慣性重量)は小さくない。だからこそ小ぶりで微調整が効き、腕に吸い付く装着感を持つキャタピラブレスレットは、納得するまでフィットさせるべきだ。そしてもし腕がむくんだら、1ノッチだがコンフォートリリース機能で2㎜広げればいい。

純粋な時計としての装着感はヘッドがやや重く、見た目も大ぶり。だがリュウズの巻き上げ感と同様に、これこそがクロノグラフの機能性を高める条件であり、スピードマスターらしさだと分かれば、この装着感が心地よさに変わる。また純然たる計器として生き続けるCal.3861のストイックさに対し、スピードマスター’57は盤面や針の設えがきらびやかであり、かつ視認性に優れているのが素晴らしい。

 スピードマスターの代名詞であるクロノグラフ機構は、さすがの扱いやすさだ。スタート/ストップおよび帰零ボタンの押し応えはカッチリと固めで、押せばいかにも計測機を動かしているという満足感が得られるだけでなく、常用時の誤操作をも未然に防いでくれる。筆者は仕事柄クルマで撮影現場や試乗会場まで1時間以上の長距離移動をこなすことが多いのだが、60分/12時間が組み合わさる同軸積算計は、運転中でもその経過時間を直感的に読み取らせてくれて実に使い心地がよかった。はたまたコーヒー豆を蒸らす30秒間を正確に計測してみたり、日常的な生活のひとコマを事あるごとにプッシャーで切り取ってみたりすると、日々の生活が俄然楽しくなる。それはスピードマスター'57に限った話ではないかもしれないが、少なくとも同作の扱いやすさが、クロノグラフの使用頻度を格段に上げていることは確かだ。

 約60時間の駆動を可能とするツインバレルの巻き上げ時間は、少々長めだ。メッキ処理されたリュウズのエッジがやや滑りやすく、ベゼルも突出していることから、巻き上げそのものもスムーズさには欠ける。しかしこれこそがスピードマスターなのだと納得できれば、そのひと手間が愛おしくなる。そしておよそ2日後の巻き上げが、少し待ち遠しくなった。ちなみに着用2日目の日差は+2秒、その翌日は日差+3秒と抜群の精度だった。

 遊びが適度な分針は、文字盤外周の目盛りに合わせやすい。クイックチェンジのないカレンダーは一見不便だが、時針のみを調整可能なタイムゾーン機能は渡航時の時刻合わせをスマートにこなせる。1万5000ガウスという高い耐磁性と、日常的には十分な5気圧防水を備えたスピードマスター'57 は、その見た目と操作性にヴィンテージモデルの味わいを楽しみながらも、ストレスフリーに常用できる極めて現代的なクロノグラフだ。 (山田弘樹:モータージャーナリスト)


Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400


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