クロノス日本版、2019年の腕時計トレンドを振り返る(後編)

FEATUREその他
2019.12.30

LIGAが変える機械式時計のパフォーマンス

他にこういった新しい技術が、性能を変えた例ってありますか?

クロナジーエスケープメント

ロレックス「クロナジーエスケープメント」

LIGAかなあ。LIGAプロセスで作られた歯車やバネですね。普通、歯車やバネって、プレスや切削で作るじゃないですか。一方、LIGAはメッキの一種なんです。だからより精密に部品が作れる。じゃあ、歯車自体を肉抜きしてバネ性を持たせたら、歯車を抑えるバネなどいらなくなるでしょう。2019年のパテック フィリップのCal.26-330は3番車に、そういうLIGA製の歯車を使っている。ジャガー・ルクルトもそうですね。

ただ、LIGAの歯車は、すでにロレックスのデイトナが載せているCal.4130や、ブライトリングのB01が使っているはずですよ。新しいロレックス32系の「クロナジーエスケープメント」もLIGA製です。歯車を抑えるバネがいらないから、クロノグラフのパフォーマンスは上がります。デイトナの4130なんて、昔と今では別物ですよ。

ちなみにこのLIGAは2019年にパテック フィリップが使ったので、以降真似するメーカーは増えるでしょうね。宝飾の分野で言うとカルティエ、時計の分野で言うとパテック フィリップ。この2社が採用すると、真似っこが増えるんですよ。

「ザ・シチズン キャリバー 0100」もLIGA使ってますよね?

ザ・シチズン キャリバー 0100

シチズン「ザ・シチズン キャリバー 0100」

「ザ・シチズン 0100搭載機」は素晴らしいの一言ですね。値段は安くないけども、年差±1秒をたたき出せる量産機は他にないから仕方ない。仰るとおりLIGAをバネなどに使ってますね。もしLIGAを使わなかったら、1秒ごとの正確な運針は不可能だったと思います。ちなみにシチズンの人たちは、スイスに子会社があるから、スイスの技術を採用しやすくなったと話してましたね。

ラ・ジュー・ペレのことですか?

そうそう。ラ・ジュー・ペレとアーノルド&サンを傘下に収めて以降、シチズンの時計作りは良い方向で変わってきてますよね。個人的に、アーノルド&サンとその兄弟会社であるアンジェラスは好きですね。数を作っていないから、なかなか見る機会は少ないですけども。


2019年、国産メーカー4社はどうだったのか?

シチズンついでに国産メーカーについても聞きたいと思います。

エコ・ドライブ ワン

シチズン「エコ・ドライブ ワン」(2019年モデル)

これも今さら良くないですか?(笑)じゃあまずはシチズンから。シチズンはエコ・ドライブにフォーカスしすぎて、セイコーみたいな金属文字盤を作れなくなってたんですよね。じゃあ、問題なのかというとそんなことはなくて、シチズンはエコ・ドライブの文字盤をものすごく良くしたんですよ。エコ・ドライブを含むソーラー時計の文字盤って、素材がポリカーボネートなんです。つまりプラスチックね。だからそもそも質感を上げるの難しいんですよ。しかし、シチズンはその地味な作業を続けてきた。

一番いいのは「エクシード」や「ザ・シチズン」の白文字盤でしたが、「エコ・ドライブ ワン」ではベースにサファイアを使って、さらに質感を上げた。ザ・シチズンの0100搭載機はポリカーボネートですけど、まず金属文字盤との違いは分からないですよ。これにはちょっとビックリですね。

2019年のセイコーはどうですか?

SBGZ003

グランドセイコー「エレガンスコレクション スプリングドライブ20周年記念モデル SBGZ003」

グランドセイコーは言うことないでしょう。時計としてはものすごく良くできている。基本的に外れなし。10年ぐらい前まではピカピカさせていたんですが、以降はメリハリを付けるようになって、造形が引き立つようになってきた。文字盤も、ラッカーを厚く重ねるのがグランドセイコーの定石ですけど、その厚みを深みに変えるようになってきた。これはスイスのメーカーに真似できないと思いますね。レクサスの塗装ぐらい厚く吹いて、それを研いでるのです。たぶん、スイスメーカーの10倍以上厚みがありますね。

ただ弱点はありますよ。安全マージンを取り過ぎているから、ケースが厚いんです。スプリングドライブを製造しているエプソンは、ケーシングを工夫して薄くしようと努力してますけど、自動巻きで11mmの壁は切れていない。あと、ブレスレットはそろそろ改良した方がいいですね。グランドセイコーのブレスレットは、縦100㎏、横100kgの強さで引っ張ってもバラバラにならない丈夫なブレスレットなんですけど、弓管とケースの隙間はまだ詰められるし、バックルも変えられるでしょう。

なお2019年の新作で個人的にいいなと思ったのは、スプリングドライブを載せた手巻き(エレガンスコレクション スプリングドライブ20周年記念モデル)ですね。薄いし、出来は素晴らしいです。

ではカシオはどうなんでしょう?

G-SHOCK GMW-B5000

カシオ「G-SHOCK GMW-B5000」

カシオは絶好調。何しろメタルのGが当たりましたよね。これもクロノスを読めば分かりますので、よろしくお願いします(笑)2019年はチタン製の「GMW-B5000」を追加したけど、限定数少なすぎ。ただ、チタンでなくとも、普通のプラ製のG-SHOCKでさえも、金型が良くなったので、仕上げはすごく良くなりましたよ。誰も注目していないけど、きっちり手を入れてくるのはカシオらしい。金型のつなぎ目がわかりにくくなっている。ちなみにカシオは今後、メタルのG-SHOCKをさらに拡大させると思いますね。

勢いを増しつつあるエプソンはいかがですか?

スポーツ コレクション ダイバー

オリエントスター「スポーツ コレクション ダイバー」

エプソンはTRUMEとオリエントをやってますね。前者はハイテク時計、後者は機械式時計にフォーカスしようとしている。個人的により面白いのは後者ですね。オリエントって、作りは良くて面白いのに、値段は控えめっていう特徴があるじゃないですか。これはエプソンに吸収されて以降も変わってないですね。しかも、昔のぶっ飛んだ路線に戻ろうとしている。具体的に始動するのは2020年からですが、面白くなると思いますよ。お買い得感はものすごくある。

ただ、オリエントの機械はパワーリザーブが短いですね。一部は約50時間に延ばしましたけど、60時間は欲しいなと。ちなみに2019年のオリエントスター「スポーツ コレクション ダイバー」は値段手頃だけど丁寧に作ってあって、値段は9万円ですからね。いい時計だと思います。