クストス これからのラグジュアリーを模索する時計界の挑戦者

FEATURE本誌記事
2022.06.06

進化を遂げたトノーケース・スモールセコンド

 チャレンジ シーライナーコレクションを見ると、ケースサイドにもサファイアクリスタルが埋め込まれている。もちろん、他コレクションと同じく防水性は100mのままだ。クストスの防水性を高めるノウハウは唯一無二と言って良いが、なぜ、あえて気密性の低いトノーケースを選び続けてきたのか。

「率直に言うと、フランク ミュラーの影響を受けたわけではないのです。パテック フィリップやロンジン、ヴァシュロン・コンスタンタンなど、かつては各ブランドにトノーケースの時計が多く存在しました。そして私は、単純にこの形状が好きなのです」

 テラノヴァは腕をまくってみせた。「私は腕が太くないのです。ですから、丸型の時計だと腕上で落ち着かないのです。対して優れた設計のトノーシェイプであれば、自分のような細い腕にもフィットします。それにサイズを大きくできるから、視認性も上げられる」。

 確かに、湾曲したトノーケースであれば、ラグを極端に短くすることが可能だ。そして、全長を抑えて、サイズを拡大できれば、視認性も高められるに違いない。もっとも、熟練したケース設計者だったテラノヴァは普通のケースに満足できなかったのだろう。事実、クストスのケースは、05年の初作と、22年の現行品では全く別物に進化を遂げた。部品点数が増え、複雑になる一方で、部品のかみ合わせは精密になったのである。

スペーサー

現在のクストスはムーブメントではなく、支えるスペーサーの設計を簡潔にすることで、スケルトンを思わせる肉抜き感と、スポーティーな時計に求められる頑強さを両立させるようになった。メーカーとしての成熟を感じさせる部品である。
スモールセコンド針

動きを強調するようになったクストス。その象徴がカラフルなスモールセコンド針だ。決して軽くないが、磁石で動きを制御するため、極めてスムーズに回転する。また、姿勢差誤差も起きにくい。

 2015年以降、クストスはさらなる個性を加えた。それが動きである。「チャレンジ ジェットライナーⅡ P-S オートマティック」や「チャレンジ シーライナー P-S オートマティック」を見ると、6時位置に大きなスモールセコンドが備わっている。スポーツウォッチであれば、センターセコンドにするのが定石だ。しかしクストスは、あえて小秒針を選び、しかも、そのサイズを拡大してみせた。

「このスモールセコンドは、押さえバネではなく、磁石で動きを規制しています。輪列に小さな抵抗を加えつつ、それをできるだけ小さくしたかった」。一見奇抜に思えるが、採用の理由は至って真っ当だ。ベースとなったセリタのキャリバーSW300は、文字盤側の11時位置にガンギ車がある。そこから動力を取って6時位置に回すには中間車を増やす必要がある。さらに規制バネで動きを押さえると、抵抗が増えてしまう。スモールセコンド針が重ければなおさらだ。

 そこでテラノヴァは、磁石でスモールセコンド針の動きを安定させるという離れ業に取り組んだ。スモールセコンドを回す歯車を磁石で支えることで、重いスモールセコンドは、わずかな抵抗で制御できるようになったのである。スモールセコンドを軽く小さくすれば不要だが、動きを見せるため、テラノヴァはあえて磁力を選んだのだ。「理屈としては簡単ですが、ムーブメントに磁力の影響を与えないのは困難でした。共同開発したセリタのおかげですね」。

チャレンジ シーライナー

2013年以降のクストスは、ミドルケースの外側に別部品を固定する、まったく新しいケース構造を採用するようになった。それを端的に示すのが「チャレンジ シーライナー」(上)と「チャレンジ クロノ」(下)である。上は、気密性を高めるため一体成形されたケースに、18KRG製の飾りプレートを固定している。下はミドルケースの外側に、チタン製の外殻をはめ込んでいる。凝ったケースにもかかわらず、どちらも100m防水をキープする。

チャレンジ クロノ


今後は、モダンさに加えて、古典のエッセンスも加えていく

 テクニカルでありつつも、ライフスタイルを志向する今のクストスには、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチでは見られないディテールが盛り込まれるようになった。それが磁石でコントロールされる巨大なスモールセコンドであり、鏡面仕上げのインデックスだった。スモールセコンド同様、スポーツウォッチにポリッシュ仕上げのインデックスを合わせるのはかなり珍しい。

「確かに一般的なスポーツウォッチは、インデックスを筋目仕上げにしたり、マイクロブラストを施したりします。ポリッシュを与えるのは珍しいですね。でも、私たちの時計では、光を与えると視認性が上がるのです。それと、ポリッシュ仕上げだと上質に見えるでしょう」。少なくとも、今のクストスが、ありきたりのラグジュアリースポーツとは異なる何か、を志向していることは間違いない。

 陸、海、空という方向性を強調することで、ついに明快な個性を打ち立てたクストス。そして17年に及ぶ熟成は、その完成度をさらに高めたのである。ではこの次、クストスはどの方向に向かうのだろうか? そのひとつはシーライナーに追加されたハイコンプリケーションの「チャレンジ シーライナー ダブル トゥールビヨン」だ。写真が示す通り、3時位置と9時位置には、巨大なキャリッジが搭載されている。振動数も、スポーツウォッチらしく毎秒8振動だ。もっとも、テラノヴァはさらなる進化を考えているようだ。「今後は、モダンさに加えて、古典のエッセンスも加えていく予定です」。明確な口ぶりが示すのは、挑戦が成功を収めた自信があればこそ、だろう。

チャレンジ シーライナー ダブル トゥールビヨン

チャレンジ シーライナー ダブル トゥールビヨン
クストスの今後を指し示す超大作は、ギガヨットの世界を盛り込んだトゥールビヨン。4つの香箱と、セラミックベアリングを用いたディファレンシャルギアが、直径16.2mmもあるふたつのキャリッジを毎秒8振動で回す。手巻き(Cal.CVS8550)。55石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(縦53.7mm×横41mm)。100m防水。2860万円(税込み)。



Contact info: フランク ミュラー ウォッチランド東京 Tel.03-3549-1949


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