5人の有名オークショニアとChrono24に聞く「時計の資産価値」緊急アンケート

FEATURE本誌記事
2022.12.28

Bonhams(ボナムズ)

ティム・ボーン

ティム・ボーン[ボナムズ香港 時計部門国際ディレクター]
ボナムズ香港を拠点とする時計の国際ディレクター。世界的に有名な競売人であり、20年以上の経験を持つ高級時計の専門家。サザビーズのロンドンと香港に拠点を置く時計部門の国際責任者、クリスティーズの時計部門の国際共同責任者として活躍した後、ボナムズに加わった。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. 時計は全体的にパンデミックの危機全体を通じて非常に好調であった。特定のブランドやモデルだけではなく、時計収集の全体的な広がりが利益を得ているのだ。パテック フィリップやロレックスという優良企業の名前は非常に強力なままである一方、独立マニュファクチュールであるフィリップ・デュフォーやF.P.ジュルヌなどの独立時計師も並外れて好調で、注目に値するブランドである。

小規模生産のマニュファクチュールは、コレクターたちが自分たちの投資が正しく、世界の他のほとんどの人々が同様のモデルを持っていないことを熟知し、満足な気分になることに大いに役立っているのだ。



Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. これがバブルだとは考えない。時計は長い間、投資価値の高い収集カテゴリーであった。時計はグローバルに広く評価されている製品であり、認知され、優れた“DNA”を持ち、芸術的な要素だけでなく、驚くべきエンジニアリングを内包し、非常にファッショナブルでもある。この世界でそう言える製品は多くはない! コレクターは稀少で、極めて高品質で、美しく作られたものを求めている。そして投資家はその需要に従っている。

いくつかの点で、それは財産を所有することに似ていて、中長期的に、時計は賢明かつ鋭い鑑識眼をもって購入、獲得される堅実な資産であることが証明されていて、今後もそうあり続けるだろう。リサーチが必要で、熟練したビジネス交渉は最も重要であるが、それが達成できれば、かなりの恩恵を受けることができる。



Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

A3. これはよく受ける質問だが、良い投資利益を得るために、将来どの株を買うべきかを知りたいのと少し似ている。投資のヒントは提供しないが、コレクター市場という観点から言えるのは、優良企業は確実に残り、それはおそらくより安全な選択だということだ。

我々は今2021年に生きているが、2000年以前にすでに尊敬を集めていた高品質のブランドは、人々の関心を引き、今後さらに需要が高まる可能性がある。優れた血統を持ち、そのエンジニアリングに対して優れた評価を得ているブランドを特定し、そのブランドから初期のモデルを選択する。ほとんどの場合、ブランドは創設されたばかりなので、生産数は比較的少ない。そして、これらの時計のコンディションが極めて重要であることを常に確認し、可能ならば、オリジナルの箱と証明書があるとなお良い。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. 今後ますます、特別に製作された時計のトレンドが高まり、独立系に強力な需要が生まれるであろう。コレクターの購買力は膨大だが、彼らの需要はますます高くなりつつある。そこにはふたつの要素があるだろう。

まず、素晴らしいディテールにコンセプト、そしてデザインに向けられた配慮、さらに美学と素晴らしい機械的驚嘆の総合的な連動により、非常に特別なピースはもはやアートの対象となりうる。これは手首に着用するピースとしてだけでなく、見せびらかしたり、友人とシェアしたり、コレクターの家庭に“人を感動させるような要素”を生み出す、より大きな視覚的傑作となり、このようなものを評価できるコレクターに成長させる可能性がある。

ふたつ目のトレンドは、さらにファッション愛好家の人たちに対してである。パテック フィリップのノーチラスの流行やオーデマ ピゲのロイヤル オーク、そしてロレックスのプロフェッショナルモデルは、2021年のヒットとなる新作モデルを探すファッションコレクターを生み出す。多くのファッションコレクターの時計が箱の中で着用されないままなので、おそらくこれはNFT(非代替性トークン)のかたちで爆発するであろう。この傾向は、ますます人気のある購入方法と多数の暗号通貨の進化と相まって、時計収集の未来の世界をさらに魅力的で中毒性のあるものにするだろう。


ANTIQUORUM(アンティコルム)

ジュリアン・シアラー

ジュリアン・シアラー[マネージングディレクター兼ウォッチエキスパート]
16歳の時、ジュネーブのオークションハウスで働き、経験を積む。世界的に有名なオークションハウスで成功を収めた後、2005年にアンティコルムUSAにウォッチディレクター兼エキスパートとして参加。10年、アンティコルム・ジュネーブのマネージングディレクターに昇進。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. 時計は今、日常的に身に着けることのできる美しいものとしても、またさまざまなポートフォリオの中で所有する価値のある代替資産としても、興味深い資産であり続けている。それは世界中で取引できる資産であるだけでなく、金融危機を通じて価値を維持することも証明されている。

現在、ヴィンテージのロレックスのプロフェッショナルウォッチとオーデマ ピゲのロイヤル オーク、そして独立系ウォッチメーカーが、極めて大きな成功を収めている。



Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. 過去3年間で大幅に上昇した価格もあるが、経済的に困難な時期でさえ、価格調整はあるものの、通常平均約10~20%なので、私は“バブル”とは呼ばない。



Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

A3. すでに述べたように、主にロレックスのプロフェッショナルモデル(小売店で新作を入手するのが難しいヴィンテージと新品)、オーデマ ピゲのロイヤル オーク、F.P.ジュルヌ、ジェラルド・ジェンタ、初期のダニエル・ロート、初期のロジェ・デュブイとパテック フィリップのスポーツスティールモデルである。多くの場合、選ぶ理由は、興味を駆り立てるトレンド、デザイン、市場価値だ。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. 個人的には、現時点で市場は安定しているものの、非常に珍しいピースや例外的な状態のもの、またはニューオールドストック(新古品)は、オークションで記録的な価格を維持し続けるだろう。

新型コロナウイルス以前に流行したブランドは今もまったく同じだが、最も人気の高いモデルの価格は上昇している。時計が依然として男性の貴重なアクセサリーのひとつであること、そして時計にヴィンテージの様相を与える風格は、再現が難しく、さらに長期的耐久性を保証している。


Chrono24(クロノ24)

ティム・シュトラッケ

ティム・シュトラッケ[創業者兼共同CEO]
ドイツ生まれ。大学卒業後、アメリカでMBAを取得。2006年に設立した価格比較サービスのMentasysGmbHを売却後、ベンチャーキャピタルを設立。2010年3月からはChrono24の共同CEOに就任。Chrono24を世界100カ国以上から約50万点の高級時計が提供される世界最大の時計売買プラットフォームに成長させた立役者。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. 昨年、新型コロナウイルスに関する危機が世界を襲ったとき、私たちは世界的に急速なダウンシフトを目撃した(平均して-20%前後の急激な減少。もちろん、人々には深刻な懸念があり、時計どころではなくなった)。彼らは自分たちの安全と愛する人の健康に気を配っていたが、10〜12日後、私たちは回復の最初の兆候を目撃し、さらにその傾向は続いた。結局、2020年は歴史上最も成功した事業年となった。

つまり、こう言うことができる。危機は需要を変えてはおらず、以前とは異なる時計を人々が購入するようになった、というようなことはない。新型コロナウイルスによる危機の最中に売れ行きの良い上位モデルが大幅に変わらなかったのもそのためだが、いくつかの興味深い進展がある。

  • オメガ「スピードマスター」東京

    2020 522.30.42.30.06.001の販売は、前年比350%増加した。昨年、東京ではコロナの危機のためにオリンピックが開催できなかったため、オメガ スピードマスター 東京はいわゆる「ミスプリント」となり、さらに人気を博した。

  • パテック フィリップ「ノーチラス」

    その価格と販売数は危機の間、非常に安定したままであったが、Ref.5711は、その生産中止についての噂が出た際、価格が25%上昇し、公式発表の日にはさらに31%上昇した。したがって、こういった噂があった際に価格に上昇が見られたり、人々の需要が高まったりするといったメカニズムは、危機によって変わることがないことが、今回の危機から証明された。



Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. パンデミックを“バブル”だとは思わないが、社会を数年先に進めたとは思っている。例えば、通常のカテゴリ以外のオンラインショッピングも、ますます当たり前のこととなった。このような需要の急増と価格の急騰が見られる理由は複数ある。このクレイジーな時代に、多くの人々は、パンデミックの前よりもさらに、無限の耐久性と持続性を備えた何かを強く求めているようだ。

そして最近では、世界の通貨への信頼は低下しているかもしれないが、時計などのハードアセットへの需要は高まっている。



Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

  • ロレックス「GMTマスターII」

    このモデルは、Chrono24でのロレックスの売上高でトップの座を占めている。GMTマスターIIは、定価をはるかに上回っているため、安全な投資だ。

  • オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ」

    ファーストオメガインスペース(Ref.311.32.40.30.01.001)
    これはかなり興味深いオプションだ。このモデルは、Chrono24で最も人気のあるオメガウォッチの売上高トップ10に入っており、過去3年間で60%値上がりした。

  • ロレックス「デイトジャスト」Ref.126334

    ステンレススティールのロレックスは広く人気があり、デイトジャスト(Ref.126334)も例外ではない。さまざまなデイトジャストのモデルの中で、スティールケースとブルーの文字盤を備えたバージョンは特に切望されている。過去3年間で、このエディションの価値は約30%増加した。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. 数年後までのパンデミックによる長期的な変化がどのようなものかは誰にも分からなかったが、変化はあるはずだ。高級時計を投資として購入した場合でも、純粋な情熱から購入した場合でも、高級時計はますます求められるようになっている。購入者の情熱は途切れることなく、オンライン販売にますますシフトしている。

私は、パンデミックが世界の電子商取引を3年前倒しにしたと推定している。高級時計業界を前進させるためのeコマースの価値はもはや無視できない。この活況を呈する傾向は、人々があらゆる種類の製品をオンラインで購入することに慣れてきたために、危機が過ぎ去った後もずっと続くだろう。

バーチャル ショールーム

Photograph by Masanori Yoshie
Chrono24が提供するアプリケーションの機能のひとつ「バーチャル ショールーム」では、オメガ「スピードマスター プロフェッショナル」やIWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」といった人気の高い12モデル(2021年5月時点)について、スマートフォンを通して“試着”することができる。腕に巻いている紙ベルトは公式サイトからダウンロードできる。


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