あなたも「ロレックスマラソン」に出走したい!? 再びのロレックス・ブーム、その“本当の価値”を考える

2022.12.19

ネットやマスコミで話題の「ロレックスマラソン」。現行品のみならず、ヴィンテージモデルも“投資対象”として人気が高まり、二次流通市場での価格が高騰している。この、コロナ禍におけるロレックス・ブームについて、その背景と本質を考察する。

渋谷康人:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
三田村優:写真 Photograph by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2021年7月号掲載記事]


コロナ禍でのロレックス・ブーム、その背景と本質は?

 今や、ネットやマスコミで「ロレックスマラソン」という言葉が飛び交うほど、ロレックスを筆頭に、一部のブランドのスポーツウォッチやいわゆる“ラグジュアリースポーツウォッチ”の人気が沸騰し、それに伴い、価格も高騰している。だが、振り返れば、ロレックス・ブームは今回が初めてではない。では一体、これまでと何が違うのか? 時計ジャーナリストの渋谷康人氏が、ロレックス・ブームの背景とその本質を分析・考察する。

テレビ番組も“注目する”ロレックス人気

 昨年末からこのところ、民放キー局のバラエティー番組において、ロレックス、それもヴィンテージ(アンティーク)・ロレックスの“ブーム”がネタになっている(※注)。局を越えて何度も取り上げられるのは、何年間かテレビ番組の企画に関わった自身の経験から言えば、「瞬間視聴率が良いネタ」からだろう。

 日本テレビとTBSの番組が話題にしたのは、富裕層の間で人気だというヴィンテージ・ロレックス。そして、銀座にあるその専門店とその顧客、彼らのコレクションを紹介していた。テレビ東京の番組では、どちらかといえば現行品がメインのようであった。登場したのは、ロレックスのファンだというタレントのユージ氏。そして彼の口から、探しているロレックスを求めてお店をハシゴする「ロレックスマラソン」という言葉と、「購入した金額よりも高値で転売できる」ロレックスの魅力が語られた。TBSの番組では、出演したタレントも自身の「ロレックス愛」を語り、またアナウンサーが「ロレックス女子」なる言葉も紹介していた。つまり、テレビは「投資対象」としてロレックスを取り上げたのである。

 話題になったのは当然のことかもしれない。遅すぎるという人もいるだろう。すでに数年前からネット上には、時計に投資する人々が現れ、自身のページで時計への投資を呼びかけている。そこで「投資対象」になっているのが、ロレックスのプロフェッショナルモデルや、パテック フィリップの「ノーチラス」と「アクアノート」、そしてオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」など、一流時計ブランドの現行モデル、それもステンレススティールのモデルだ。

 ロレックスが日本でブームになったのは、もちろん今回が初めてではない。1980年代末からいわゆる「バブルバック」、30〜50年代の自動巻きモデルのブームが起きた。また、タレントの木村拓哉氏が主演するトレンディドラマで「エクスプローラー」を着用したことから、プロフェッショナルモデルのブームが起きている。

※注/「人気高級時計ヴィンテージ・ロレックス! 不況でも価格高騰中のワケ」(日本テレビ系「マツコ会議」2020年12月26日)
「高級時計をめぐって全国で起きている珍現象『ロレックスマラソン』の真相」(テレビ東京系「じっくり聞いタロウ」2021年4月22日)
「話題の『ロレックス投資』の実態を体当たり調査」(TBS系「有吉ジャポンⅡ ジロジロ有吉」)

「人気No.1」の理由は「ステイタス性」と「資産価値」

 ところで、そもそもロレックスは、なぜこんなに人気があるのだろうか?

 ヴィンテージ(ヴィンテージとアンティークは厳密な意味では違うが、簡略化するために以下、ヴィンテージに統一)はもちろん、現行品でも定価の何倍も払ってオークションで購入する人が絶えない。果たしてその理由は?

 また、ロレックスの「本当の魅力と価値」とは何だろうか?

 そもそもロレックスはブームとは関係なく、全世界で「不動の人気No.1」の座に君臨し続ける時計ブランドだ。時計ジャーナリストとして語らせていただければ、純粋に時計として評価した場合、ロレックスの素晴らしさは、「時代に先駆けた先進性と機能性」にある。

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(スイスフランベース、モルガンスタンレー調べ)

 ロレックスの創業者のハンス・ウイルスドルフはまだ懐中時計が主流の20世紀初頭にいち早く腕時計の将来性に気付き、高精度な腕時計を他社に先駆けて開発して製品化した。さらに最大の故障の原因だった防水性も「オイスターケース(1926)」で解決。さらに「止まり」や精度を安定化させるための自動巻き機構でもやはり時代の先を行く全回転ローター式の「パーペチュアル(1931)」を開発。実用時計として腕時計を完成させた。

 つまり先進技術による優れた機能によって、「高精度で実用的な腕時計の決定版」として、世界No.1の評価を獲得したのである。これが、ロレックスが世界で人気No.1になった、最初にして最大の理由だった。

 しかも、驚くべきことに、この「時代に先駆けた先進性と機能性」をロレックスは今も守り続けている。耐蝕性、耐候性に優れたオイスタースチール製ケース。優れた耐磁性を実現するパラクロム・ヘアスプリング。より優れた精度を実現するクロナジーエスケープメント。こうした大きな進化ではないものの、ロレックスが常に細かな改良、仕様変更を積み重ねていることは、時計技術者ならよくご存じだろう。

 その結果、機械式時計としての技術的な先進性、信頼性、品質の高さは飛び抜けている。この先進性、信頼性、品質の高さこそ人気No.1の理由である、はずだ。

 ロレックスは人気ばかりでなく売上高でも不動の世界No.1の地位を守り続けている。しかも、ロレックスの一般的なモデルの価格設定は、時計のプロフェッショナルなら誰もが認めるだろうが非常に良心的で、製品価格は適正だ。それで世界No.1に君臨しているのは、お世辞ではなく、本当に素晴らしいことだ。

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(モルガンスタンレー調べ)

 しかし実際、ロレックスが人気No.1なのは、これが理由ではない。人気の最大の理由は、「ステイタス性の高さ」と「変わらない資産価値」だ。まず、ステイタス性の高さとは何か。それは1980年代から90年代の、下品な言い方をすれば「威張りが利く」ということ。つまり、着ける人の社会的、経済的な地位、その優越性をアピールできるファッションアイテムだ、ということだ。

「ロレックス=ステイタス」という認識は、全世界共通の話だ。欧米の著名なビジネス誌にはCEOなどのエグゼクティブがロレックスを着けて登場する。そして、ビジネス界では「ロレックス=成功者の時計」という定義が確立されている。

 では「変わらない資産価値」とは何か。「購入して何年か使っても、価値が下がらない。時に購入した以上の価格で買い取ってもらえる」ことだ。タレントのユージ氏がロレックスの魅力として挙げたのも「この変わらぬ資産価値」だ。

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(モルガンスタンレー調べ)