ジラール・ペルゴ/ヴィンテージ 1945

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.10.25

新たなデザイン性を加味するスケルトナイズのアプローチ
Vintage 1945 XXL Largedate & Moonphase

ヴィンテージ 1945 XXL ラージデイト&ムーンフェイズ
2015年発表のカラーバリエーション。透過させた文字盤からのぞくのは、非常に優秀な設計を持つジャンピングアワーモジュールである。仕上げも優秀だ。自動巻き(Cal.3300-0105)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(縦36.1×横35.25mm)。30m防水。177万円。

 実に多くのデザインに取り組んだルイジ・マカルーソ。現行品で、その要素を最も色濃く受け継いでいるのが、「ヴィンテージ 1945 ラージデイト&ムーンフェイズ」ではないだろうか。ケースの形状は従来のモデルに同じ。しかしインデックスはさらに拡大され、文字盤もスケルトナイズされた。そのデザインは、一見従来のジラール・ペルゴからは離れているように思える。しかし、大胆さを盛り込む手法は、ルイジ・マカルーソが好んだものだ。彼の精神的遺産を踏襲したモデル、とは言い過ぎだろうか。

 搭載するのは、キャリバー3000の改良版であるGP3300。リリース当初は安定しないムーブメントだったが、現在は素材や設計が改良され、優れた安定性を持つに至った。現在の基準から見るとパワーリザーブなどは短いが、精度は良好なうえ、現行品とは思えないほどの薄さは、この時計に優れた装着感をもたらしている。かつこのジャンピングデイトとムーンフェイズモジュールも、初出は2001年だ。ちなみにこのモジュールは、ルイジ・マカルーソの肝入りで設計されたもの。1の位のディスクは、透明で厚さが0.1㎜しかないため、ラージデイトにもかかわらず、表示のつなぎ目は見えない。またこのラージデイトは、数百分の1秒で切り替わる、という特徴を持っている。そのための動力は長い時間をかけて小さなスプリングに蓄えられており、振り角への影響は最小限に抑えられる。

 筆者の見る限り、最もルイジ・マカルーソのデザインを、本質的に受け継いだであろうヴィンテージ 1945 ラージデイト&ムーンフェイズ。当然だが、この新作は彼が手掛けたものではない。しかし彼が今にありせば、きっとこの時計を喜んだのではないか。

(左)ヴィンテージ 1945 デイト&スモールセコンド
最も日常使いに適したモデル。薄いケースと薄いブレスにより、着け心地は極めて良好だ。近年の同社が好む、強い筋目のダイアルを持つ。自動巻き(Cal.3300-0035)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(縦33.3×横32.46mm)。30m防水。112万円。
(中)ヴィンテージ 1945 レディ
1996年初出。小さなケースに合わせて、ムーブメントもわざわざ小さなものを用意している。ブレスレットの完成度も高い。自動巻き(Cal.2700-0003)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約36時間。SS(縦28.2×横27.86mm)。30m防水。163万円。
(右)ヴィンテージ 1945 XXL スモールセコンド
最もベーシックなモデル。外装に力を入れるようになっただけあって、文字盤の発色は大変鮮やかだ。自動巻き(Cal.3300-0059)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(縦36.2×横35.25mm)。30m防水。109万円。

 今年70周年を迎えた「ヴィンテージ 1945」。デザインは従来にほぼ同じだが、クォリティは年々向上している。一例がダイアルの立て付けだ。以前はケースとの隙間が均一でないものも見られたが、最近のコレクションは、チリが完全に詰められた。湾曲した文字盤を持つ時計で、ここまでチリが詰められたものは珍しいのではないか。またケースの磨きも、以前よりも大きく改善された。結果として、現在のヴィンテージ 1945は、きちんと正常進化を遂げたという印象を与える。もちろん優れた装着感という美点は、従来にまったく同じだし、ムーブメントの信頼性も、初出から20年経った現在も、際立って高いと言えるだろう。

 もっとも弱点はいくつかある。その最大のものは、現在の基準からするとケースが小さいこと。「XXL」と銘打ったモデルでさえ、ケース幅は36㎜程度しかないのである。「もう少し大きなモデルがあれば、アジアでもっと売れるのに」と、あるリテーラーが漏らした理由も分からなくはない。

 

(左)ヴィンテージ 1945 XXL ラージデイト&ムーンフェイズ
右ページモデルのカラーバリエーション。このモデルは2014年に発表されたもので、グレー地のスケルトナイズドダイアルを持つ。自動巻き(Cal.3300-0105)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(縦36.1×横35.25mm)。30m防水。177万円。
(中)ヴィンテージ 1945 XXL ラージデイト&ムーンフェイズ
個人的には、コレクションで最も好ましいモデル。視認性の高いラージデイトと、良好な装着感、そして現行品らしい高い質感を持つ。自動巻き(Cal.3300-0105)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(縦36.1×横35.25mm)。30m防水。326万円。
(右)ヴィンテージ 1945 XXL クロノグラフ
小振りなクロノグラフ。ムーブメントが傑作Cal.30C0でないのは残念だが、外装の仕上げは相変わらず優秀だ。自動巻き(Cal.3300-0064)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。18KPG(縦36.95×横36.00 mm)。30m防水。349万円。

 ただしこれには理由がある。ルイジ・マカルーソは一貫して、ケースサイズとムーブメントサイズの乖離を好まなかった。ケースのサイズはムーブメントに比例すべきというのが彼の考えで、そのためジラール・ペルゴの時計は、過剰なまでに大きなケースを持つことがなかったのである。その伝統は、今なお、ヴィンテージ 1945では良く守られていると言えるだろう。

 今年でリバイバルから20年を迎えたヴィンテージ 1945。優れた装着感と、良くできたデザイン、そして枯れた機構は大変に魅力的だ。正直プライスレンジはかなり上がってしまった。しかしそれでもなお、この時計は抗しがたい魅力を湛えている。



Contact info: ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791