ジェラルド・ジェンタの全仕事

FEATUREアイコニックピースの肖像
2021.02.28

GERALD GENTA
SUCCESS PERPETUAL “Skeleton”

ジェラルド・ジェンタ サクセス・パーペチュアル・スケルトン
1989年初出。ジェラルド・ジェンタ創業20周年を記念して作られたモデル。「ゴールド&ゴールド」コレクションの意匠を踏まえながら、より立体感を増している。立体的なケースを持つサクセスは、以降ミニッツリピーターや、ミニッツリピーター・トゥールビヨンなどのバリエーションも増やしていった。自動巻き。18KYG(直径35mm)。個人蔵。

 ジェラルド・ジェンタの最高傑作は何か。異論があることを承知で言うと、1989年発表の「サクセス・パーペチュアル」だろう。基本的なデザインは、八角形のケースを持つ「ゴールド&ゴールド」シリーズに依っている。しかしケースをより立体的に改め、加えて風防に八角形のファセットを与えた点が大きく異なる。

 60年代後半以降、ジェラルド・ジェンタは薄型時計のデザインで成功を収めた。続いて彼が取り組んだのは、薄型時計の立体化である。ベゼルとケースを分けるのではなく、一体化させ、そこに立体感を加える。ジェンタはゴールド&ゴールドにブランパン風の(段を与えた)ベゼルを加えることで、薄型化と相反する課題、立体感に対してひとつの解答を与えた。しかしサクセスでは、ケースサイドやベゼルを太らせることで、いっそう立体感を強調してみせた。薄型時計の限界に挑んだ造形、と言えるかもしれない。

 自身の言とは逆に、ジェンタは常にコストを念頭に置いて時計のデザインを行ってきた。「ラグを延ばすと製造コストが増す」と漏らした彼が、他社向けにこれほど立体的な意匠を試みた例はない。しかし当時のジェラルド・ジェンタSAは貴金属ケースの時計以外を決して作らなかった。加工しやすい貴金属ならば、造形の可能性は大きく広がるだろう。

 確かにサクセスは大きな成功を収めた。この時計に使われたモチーフを、以降のジェンタが幾度となく転用したことからも、それは理解できる。2001年発表のジェラルド・チャールズ「カレ」も、そう言って差し支えなければ、サクセスの焼き直しである。

 薄型時計で名声を得たジェラルド・ジェンタ。そのキャリアの頂点がサクセス・パーペチュアルであるのは間違いないが、以降のジェンタがこの時計を超えられなかったことも、また事実なのである。

スケルトナイズされた文字盤。搭載する永久カレンダーモジュールは、ピエール・ミッシェル・ゴレイの設計によるもの。放電加工機ではなく、手作業で切り出された、繊細なバネ類などに特徴がある。この優れたモジュールは、カルティエなど複数社にも供給された実績がある。

全面に彫金が施されたムーブメント。ベースはフレデリック・ピゲ製の極薄自動巻き、Cal.71。当時は80名の従業員中、20名がジュエリーセッティングや彫金などに携わっていた。オフセットされたローターにはジェラルド・ジェンタのイニシャルである「GG」のロゴが見える。

ケースサイドとベゼル。側面から垂直に伸びるバーがアクセントとなっている。長年ケースサイドを裁ち落としてきたジェンタ。しかしサクセス以降は立体的に仕立てたモデルも見られるようになった。厚く見えるが、実際には薄く、重心も低いため、装着感が極めて良い。

八角形にカットされた風防。風防の外側ではなく、内側を8面に切り出している。なおジェンタのデザイン画を見ると、カット面に光が当たり、反射している様が描かれている。八角形を好んだジェンタが、このモチーフにこだわり抜いた点からも、この時計はジェンタの代表作だろう。