ルイ・ヴィトン/タンブール

FEATUREアイコニックピースの肖像
2022.01.10

TAMBOUR MOON
ケース側面のボリューム感を反転させたニューフォルム

タンブール ムーン GMT ブラック

タンブール ムーン GMT ブラック
薄型ケースの新定番モデル。立体的な造形を持つが、ケース厚は9.93mmに留まった。そのため取り回しは非常に良好である。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41.5mm)。50m防水。予価59万8000円。

 2017年に新しく加わったのが、ケース側面を大きくえぐった「タンブール ムーン」である。「新しいケースを考えた際に参考にしたのは、車のデザインだった。たとえば今のBMWは、ボディの側面が大きくえぐれている。触発されてケースのプロトタイプを作ったところ、遠目で見たら、ケースが膨らんでいるのか、凹んでいるのか分からなかった。この形ならタンブールの新しいバリエーションになると思った」(シャティ)。まったく違うフォルムながら、タンブールのDNAを色濃く残したタンブール ムーン。ケースが薄くなった結果、装着感も改善された。加えてルイ・ヴィトンはケースの仕上げも改めた。従来はサテンとポリッシュを併用していたが、男性用がサテン、女性用がポリッシュと仕上げの質を別種のものとした。そのために、ケースサプライヤーはまったく新しいツールを開発したという。シャティが胸を張るだけあって、磨きの水準は、既存のタンブールよりもう一段優れている。また、自社工房であるラ ファブリク デュタン ルイ・ヴィトン(LFTLV)で製造されるブラック文字盤も、極めてクォリティが高い。普通、ブラックは塗装で仕上げるが、塗膜の厚みを嫌ったルイ・ヴィトンは、技術的に難しいメッキ仕上げに取り組んできた。メッキだと鮮やかな黒色は出しにくいとされるが、その豊かな色味は、各社が取り組むブラック文字盤の中でも今やトップクラスだろう。しかも膜が薄いため、文字盤の下地に施された繊細な仕上げも良くニュアンスを残している。

 2002年以降、着実に進化してきたタンブール。その現時点における完成形が、新ケースのタンブール ムーンとなる。質感やまとまりの良さ、そして他にはないユニークなデザインは、ルイ・ヴィトンという名前がなくとも、手に取るだけの価値を持っている。

タンブール ムーン GMT ブラック

(左)トランスパレントに変更されたケースバック。注目すべきはリュウズ周りの切り欠きである。タンブールはリュウズが飛び出していたため、引き出しやすかった。対して本作はケースに埋め込まれている。そこでリュウズ周りに切り欠きを与えて、爪が入りやすくした。地味な改良だが、ルイ・ヴィトンの成熟を感じさせる好ディテールだ。(右)立体的なプロファイル。ケースの側面を「コンケーブ」状に成形することで、薄さと立体感の両立に成功している。ケース側面の仕上げは、おそらく研削によるものだろう。筋目の均一さを見れば、加工水準の高さは容易に想像できる。

タンブール ムーン GMT ブラック

ケースサイド。従来のモデルに比べると、ケースの薄さは一目瞭然である。またリュウズの位置が示すように、時計自体の重心も低く抑えられている。

タンブール ムーン GMT ブラック

(左)新しく採用された交換式のストラップ。プレートをスライドさせると簡単に外せる。プレートだけでバネ棒を押さえているため耐久性は気になるが、2万回のひっぱりとねじりテストに耐えたとのこと。またプレートとそれを支える部分は樹脂と金属の混合材でできているため、汗をかいても腐食しない。(右)精密さを増した文字盤。インデックスはいっそうシャープになり、文字盤の下地も明瞭に出ている。また、ブラックの文字盤にイエローの印字を載せているにもかかわらず、発色は明瞭だ。