パテック フィリップ/年次カレンダー

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.02.05

ANNUAL CALENDAR[Ref. 5396]
シンプルに徹し切った96系カラトラバ

年次カレンダー Ref.5396

年次カレンダー Ref.5396
2006年初出。年次カレンダー表示をディスク表示に改めたモデル。小ぶりなため使いやすく、ケースや文字盤の質感も向上した。自動巻き(Cal.324 S QA LU 24H)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KRG(直径38.5mm)。3気圧防水。523万円。

 歯車でカレンダーを動かすパテックフィリップの年次カレンダー。大きなレバーを使わないためレイアウトの自由度は増すが、テコの原理が効かなくなるので、重いディスクを回すのは難しい。

 そのさらに矛盾を克服したのが、2006年のRef.5396だった。これはRef.5146の曜日と月表示針をディスクに替え、6時位置に24時間表示を追加したモデルである。10年には文字盤をバーインデックスに改め、一層の人気を博した。

 少し脱線したい。パテック フィリップの年次カレンダーと永久カレンダーには、リュウズを回すだけで、すべてのカレンダーを早送りできる機構が備わっていない。明確な理由は不明だが、おそらくは、カレンダー機構に負荷がかかることを嫌ったのだろう(この機構は、リュウズを早回ししすぎると必ず壊れる)。そのためカレンダーが止まったらプッシュボタンを押して表示を早送りするが、そのためには、あらかじめ針を6時に合わせることが推奨されている。6時はカレンダーの切り替え禁止時間帯ではないため、プッシュボタンを押してもカレンダーは絶対に壊れない。その後、針を進めて時間を合わせる手間はあるが、壊れないことを重視したのは、いかにもパテック フィリップではないか。

 なおRef.5146で消えた24時間針が、Ref.5396で復活した理由は明確だ。前者は6時位置にロゴがあるため、24時間針を付けたら、ロゴが隠れてしまう。対して12時位置にロゴが戻った後者は、6時位置に24時間針を付けても問題はない。

 曜日と月表示が小ぶりなため、本作の視認性はRef.5146ほど高くない。12時位置にパワーリザーブ表示がないのもやや残念だ。しかし、パテック フィリップらしいデザインと高い実用性を両立した本作は、好事家向けの実用機として申し分ない。

年次カレンダー Ref.5396

(右)カラトラバらしい意匠の文字盤。仕上げは表面を荒らしたシルバー・オパーリンである。文字盤上のインダイアルを省いた結果、長いインデックスを持てるようになった。ただ筆者の好みを言うとロゴは大きすぎるか。時分針も、やはりカラトラバらしいドフィーヌ。一見地味な造形だが、加工精度が極めて高いため、表面に歪みは全くない。筆者はプレーンなダイヤカット針を好まないが、現在のパテック フィリップは数少ない例外のひとつだ。(左)6時位置には24時間針が復活した。インデックスには、かつてパテック フィリップが使った書体に近いものが使われている。この時計がクラシカルに見える一因である。なお曜日と月をディスク表示に改めた結果、日付表示は文字盤から少し奥まって置かれた。対して、日付表示の周りを額縁状に落とし込むことで、文字盤との距離を感じさせない。

年次カレンダー Ref.5396

ケースサイド。Ref.5146に比べてラグの湾曲は抑えられた。

年次カレンダー Ref.5396

(右)ミドルケースから裏蓋にかけて。ここ10年で、パテック フィリップのケースはさらに加工精度を高めた。写真が示すとおり、鏡面には歪みがほぼ見られない。(左)裏蓋はねじ込み式から、スナップバックに変更された。しかし防水性能は、今までに同じ30mである。