【86点】ブランパン/エアコマンド

FEATUREスペックテスト
2023.03.24

エアコマンド

クラシックな外観のエアコマンド。航空機のパイロットが使用する計器として作られ、細かな目盛りが文字盤の精密さを物語る。

 ブランパンは、ブランドを代表するダイバーズウォッチ「フィフティ ファゾムス」に続き、1950年代のモデルを復刻することに成功した。オリジナルの様式を忠実に踏襲したパイロットウォッチ「エアコマンド」が再び空に舞い上がる。空軍用腕時計に求められる要件に則ってフライバッククロノグラフの機能を有し、4時位置のプッシャーを押すと、計時中にクロノグラフの動作を停止することなく再スタートさせることができる。このフライバッククロノグラフは、飛行時に貴重な時間を節約できる機能だ。

 両方向に回転するカウントダウンベゼルは、ナビゲーション時に時刻を確認する役割を担う。ベゼルの周囲にしっかりと溝が切ってあることから、グローブをしたままでもつかんで回すことができる。暗いコックピット内で必要な情報を確実に表示するための蓄光塗料も、このパイロットウォッチが歴史的な背景にインスパイアされていることを感じさせてくれる。

 リュウズは大きく、ねじ込み式ではないので操作しやすい。巻き上げ時にわずかに抵抗が感じられるのも、クロノグラフプッシャーのクリック感のある押し心地同様、メカ好きにはたまらない。

エアコマンドのヴィンテージモデル

1950年代に製造された、エアコマンドのヴィンテージモデル。今回テストを行った最新作は、ヴィンテージに倣ってデザインされたことがよく分かる。

高い品質が魅力

 このエアコマンドではすべてが上質で、ディテールの隅々まで品質の高さを実感できる。直径42.5mmのケースはチタン製なので重量は82gと軽く、快適な装着感を約束する。グレード23のチタンはあまり使われることのない合金だ。ステンレススティールに似た色味で、歴史に名を刻む名機の復刻版にふさわしい素材である。ミドルケース、裏蓋、ベゼルに施されたサテン仕上げや、ラグの面取り部、リュウズのレリーフ彫り、プッシャーの先端などに施されたポリッシュ仕上げは、いずれも秀逸な仕上がりである。さらに、両方向回転ベゼルのセラミックス製インレイはカラーが文字盤と一致しており、蓄光塗料が塗布されたインデックスは暗所でも明るく発光する。

エアコマンド

ケースは非の打ちどころのない仕上がり。特に、サテン仕上げの表面は、ラグ、プッシャー、リュウズに施されたポリッシュ仕上げとのコントラストにより、エレガントさが際立っている。

 手縫いのカーフスキン製ストラップはケースと同様に上質なものだ。しっかりとした芯が入っているため、最初のうちは少し堅く感じられるが、ラバー製の内張りは心地よく、開閉用プッシュボタン付きのダブルフォールディングバックルには高級感がある。サテン仕上げとポリッシュ仕上げが丁寧に施されたクラスプもケース同様の美しさだが、ドライバーがないとストラップの長さを調節できないのが弱点である。これは、ストラップの穴に差し込むピンが、下から幅が広いネジの頭で固定されているためである。

 これ以外に、作り込みの秀逸なパイロットクロノグラフ本体における唯一の欠点を挙げるとするならば、視認性にやや難がある点だろう。最も重要な情報である時刻は、たっぷりと塗布された蓄光塗料の恩恵により明確に判読することができる。しかし残念ながら、ドーム型サファイアクリスタル製風防の縁の部分が強く反射してしまう。3本のクロノグラフ針はスティールカラーで、ダークブルーの文字盤とのコントラストに欠け、文字盤周囲にはタキメータースケール、ミニッツスケール、クロノグラフの秒目盛りが微細に印字されている。視力に問題がなければ、毎秒10振動のエアコマンドが提供する、0.1秒単位の計時を楽しむことができるだろう。

高精度のムーブメント

キャリバーF388B

フライバッククロノグラフ機能、3万6000振動/時のハイビート、フリースプラングテンプ、シリコン製ヒゲゼンマイ、コラムホイール、垂直クラッチなど、キャリバーF388Bは実用性に特化した高機能ムーブメントだ。

 ブランパンによる自社製の自動巻きムーブメント、キャリバーF388Bは3万6000振動/時のハイビート機で、理論上高い精度が期待できるのがメリットである。ウィッチ製歩度測定器で行ったテストでは、平均日差がわずかプラス2秒/日、最大姿勢差は4秒と、これが単なる理論上の話ではないことを証明してくれた。クロノスドイツ版のテストでも珍しい、非常に優れた数値である。

 ちなみに、スイス公式クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)や多くのブランドが5つの姿勢でムーブメントの検査を行うのに対し、ブランパンはクロノスドイツ版と同様、6つの姿勢で測定している。時刻を読み取るときのポジションである「12時上」の姿勢が顧慮されないことが多い中、ブランパンは検証を怠っていない。エアコマンドに搭載された自動巻きムーブメントは、ハイビートやフライバッククロノグラフ機能といった点に加え、クロノグラフの制御に伝統的なコラムホイールを用いて、針飛びを抑える垂直クラッチ方式を採用している。加えて、約50時間のパワーリザーブを保持する主ゼンマイを備え、精度の面だけでなく、モダンなイメージの仕上げや設計においても印象的である。

エアコマンド

ケースバックはトランスパレント仕様。搭載するキャリバーF388Bには、過度な装飾は施されておらず、渦巻き状のヘアライン仕上げがメインである。

 また調速機にも工夫が凝らされている。両持ちのブリッジに取り付けられたテンプにより安定性が確保され、外観も近代的だ。フリースプラング方式が採用されており、歩度の微調整は18Kゴールドで出来た4本の調整ネジで行う。ヒゲゼンマイはシリコン製で、衝撃や磁気、温度変化などの影響をほとんど受けない。通常のシリコン製部品のようにヒゲゼンマイが青くないのは、帯電を防止するコーティングが施されているためである。

 ムーブメントは伝統的と言うよりも、堅牢かつ機能的に設計された調速機と同様、その大半が最新のエンジニアリングを結集させたような仕上がりで、この腕時計が機能重視のミリタリーウォッチにインスパイアされていることを物語っている。ローターがスケルトン加工されているため、控えめながらもしっかりと仕上げられた渦巻き状の模様(スネイリング)や、ゴールドカラーを使わない控えめな文字の刻印を見ることができる。ここでコート・ド・ジュネーブやペルラージュといったクラシカルな装飾が採用されていないのは、コスト削減のためではなく、デザイン上の理由によるものであろう。ムーブメントの完成度は、ケースや文字盤、ストラップの高い品質に見合うものだ。

 ブランパンのエアコマンドは、デザイン面だけでなく、品質においても成功を収めているのである。