自動巻き腕時計が選ばれる理由とは?時計史に名を残す傑作も

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2023.05.11

機械式ムーブメントの種類には、手巻きと自動巻きの2種類がある。腕に着けて使っているだけでゼンマイが巻かれるタイプが自動巻き腕時計だ。その仕組みや歴史、さらには時計史に残る傑作ムーブメントなど、自動巻き腕時計の特徴や魅力を解説する。


身に着けていれば止まらない「自動巻き腕時計」

機械式腕時計は、巻き上げられたゼンマイが元に戻ろうとする力を利用して動いている。手巻きはユーザーがゼンマイを巻き上げる必要があるが、一方の自動巻きは、時計を身に着けて日常生活を送っていれば自動でゼンマイが巻き上がる。

パーツの組み合わせだけで勝手に時計が動く自動巻き腕時計の仕組みを理解するとともに、自動巻きムーブメントの歴史も知っておこう。

ゼンマイが自動で巻き上がる仕組み

ETA2824

写真のムーブメントはETA2824。写真左に見られる、ムーブメントを覆い隠している半円状のパーツがローターで、これが回転することによりゼンマイが巻き上がるようになっている。

自動巻きムーブメントには、ローターと呼ばれる半円状のプレートが組み込まれている。手巻きムーブメントにはないパーツだ。

自動巻き腕時計の着用中は、腕が動くたびにローターが回転する。この回転運動のエネルギーが歯車を通じてゼンマイに達し、ゼンマイが自動で巻き上がる仕組みだ。

自動巻きには、片方向巻き上げと両方向巻き上げの2種類がある。大半の自動巻きは両方向巻き上げだが、普段あまり体を動かさない人には、腕の動きが小さくてもよく巻き上がる片方向巻き上げも向いている。

自動巻き機構の歴史

パーペチュアルローター

ロレックスが開発し、1931年に初めて採用されたのが、自動巻きシステムのパーペチュアルローター。手首を動かすたびに半円状の錘が回転し、この運動エネルギーがゼンマイを自動的に巻き上げる仕組みで、現在の自動巻きシステムの先駆けとなった。

自動巻きが時計史に初めて登場するのは、1776年に時計師アブラアン-ルイ・ペルレが開発した自動巻き懐中時計とされている。天才時計師と称されるアブラアン-ルイ・ブレゲも、ほぼ同時期に自動巻き懐中時計を製作し、「ペルペチュエル」と命名している。

1924年には、時計師ジョン・ハーウッドがローター回転型自動巻き機構を初めて腕時計に搭載した。この時計は後に「ハーウッド」の名前で商品化されている。

31年にロレックスが発表した360度全回転式自動巻き「パーペチュアル」は、自動巻き機構に画期的な進歩をもたらした。43年には、ムーブメント製造会社であるフェルサが両方向巻き上げを開発している。


自動巻き腕時計の魅力

巻き上げの手間がかからないこと以外にも、自動巻き腕時計にはさまざまな魅力がある。手巻きと比較した自動巻き腕時計の魅力を見ていこう。

毎日リュウズを回す必要がない

ビッグ・パイロット・ウォッチ・ヘリテージ

写真は約168時間のパワーリザーブを備える、IWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ・ヘリテージ」。ダイアルの3時位置にはパワーリザーブインジケーターがレイアウトされており、巻き上げの状態がひと目で確認できる。自動巻き(Cal.52010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。Tiケース(直径46.2mm、厚さ15.4mm)。6気圧防水。184万8000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868

自動巻き腕時計の最大の魅力は、何といっても手間がかからないことだ。毎日リュウズを巻かなくても、腕に装着して生活するだけでゼンマイが巻き上がる。

パワーリザーブインジケーターが付いていれば、巻き上がりの状態を確認できるため、巻き上げが足りないと感じた場合は様子を見ながら手動で巻き上げればよい。

ただし、ゼンマイを巻き上げる感触に魅力を感じている人は、自動巻き腕時計を物足りなく感じることもあるだろう。リュウズを巻きながら腕時計と対話する感覚を楽しんでいる愛好家は、少なからず存在する。

時計の精度が安定しやすい

手巻き腕時計は巻き上げの強度に差が出やすいため、ゼンマイから供給されるエネルギーが不安定になりやすく、時計の精度が安定しにくい。

一方、常にゼンマイが巻き上げられている自動巻き腕時計は、ゼンマイから安定したエネルギーが供給される。結果として時計の精度も安定しやすいのだ。

自動巻き腕時計は、1日10時間程度着用することで精度が安定するといわれている。朝から夕方まで着用すれば、時間のズレを気にせずに過ごせるだろう。

豊富なラインナップから選べる

現在の機械式腕時計は自動巻きが主流となっており、多くのメーカーが自動巻き式のモデルをラインナップしている。幅広い価格帯で展開されているため、お気に入りの1本を探しやすい。

一方の手巻き腕時計は、展開しているブランドやデザインが限られている。手巻きに魅力を感じていても選択肢が少ないことから、気になるモデルが見つからないケースもあるだろう。

近年は手巻きにも多機能モデルが増えているが、自動巻きの多機能モデルの豊富さにはとても及ばない。さまざまなモデルを吟味したい場合は、自動巻き腕時計から探すのがおすすめだ。

時計内部の美しさを楽しめる

マリーン オーラ・ムンディ 5557

ワンプッシュで目的地の時刻が瞬時に確認できる、インスタント・ジャンプ・タイムゾーン機構を搭載した、ブレゲの「マリーン オーラ・ムンディ 5557」。搭載するCal.77F1には、船の舵輪を想起させるローターが備わり、スポークの間からは丁寧なムーブメントの仕上げも楽しめるようになっている。自動巻き(Cal.77F1)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRGケース(直径43.9mm、厚さ13.8mm)。10気圧防水。1049万4000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211

機械式腕時計はムーブメントのメカニズムを鑑賞できることが魅力だが、自動巻きはローターがムーブメントの大部分を覆い隠してしまうため、長い間ローターが邪魔者扱いされていた。

しかし、近年は各メーカーがさまざまな工夫を凝らし、ローターでムーブメントが隠れないようにしたモデルも増えている。

また、モデルによってはローターに装飾や仕上げを施し、ローターも魅せる要素のひとつにしているケースもあるほどだ。自動巻き腕時計を比較する際は、ローターに注目してみるのもよいだろう。


自動巻き腕時計の注意点

自動巻き腕時計は、時計愛好家を惹き付けるに十分な魅力を備えている。ただ、自動巻きであるがゆえのデメリットも覚えておこう。愛用の1本を探す前に、知っておくべき注意点を紹介する。

分厚く重いモデルもある

トンダ PF マイクロローター

2021年に発表されたパルミジャーニ・フルリエの「トンダ PF マイクロローター」。搭載するCal.PF703にはプラチナ製のマイクロローターが組み込まれ、エレガントな表情にふさわしく、ケースの厚みも7.8mmのスリムサイズを実現した。自動巻き(Cal.PF703)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径40mm、厚さ7.8mm)。100m防水。345万4000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com

自動巻き腕時計にはローターが搭載されているため、ローターの分だけ厚さや重さが加わりやすい。そのため、薄型のドレスウォッチには向かない機構とされてきた。

しかし現在は自動巻き腕時計の薄型化が進んでおり、パテック フィリップの「ノーチラス」やオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」など、手巻きにも劣らない超薄型モデルが誕生して久しい。

自動巻きの薄型化に大きく貢献したのが、マイクロローターである。マイクロローターとはブリッジと同じ階層に置く小型ローターのことであり、ムーブメントの高さを抑えられる特徴を持つ。

メンテナンス費用が割高になりがち

自動巻きムーブメントは手巻きに比べてパーツ数が多いため、不具合が生じた場合にメンテナンス費用が割高になる。また、パーツ同士が摩耗しやすいことから、故障する可能性も高い。

そのため、各メーカーは耐久性や耐衝撃性を高めたより堅牢なモデルを開発している。ムーブメントを守るためにケースを強固にしているモデルは多い。

もっとも、機械式ムーブメント自体がデリケートな機構であるため、自動巻きか手巻きかに関わらず、丁寧な取り扱いが必要だという点は覚えておきたい。


自動巻きムーブメントの傑作

自動巻きムーブメントは時代とともに進化を続けており、その過程で数々の傑作ムーブメントが生み出されている。時計史に名を残す、代表的な薄型自動巻きムーブメントを紹介しよう。

オーデマ ピゲ「Cal.2120系」

Cal.2121

Cal.2120にカレンダー機能を加えたのが、写真のCal.2121。このムーブメントを搭載した代表的なモデルが「ロイヤル オーク」で、1972年の誕生から50年にわたってCal.2121が採用された。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。

「Cal.2120」は、オーデマ ピゲとルクルト&Cie(現ジャガー・ルクルト)、ヴァシュロン・コンスタンタンが共同で開発したムーブメントだ。誕生から数十年にわたり、世界最薄のセントラルローター付自動巻きムーブメントとして君臨していた。

分針を動かす2番車がムーブメントの中心にあると、通常はムーブメントの厚みが増してしまうのだが、Cal.2120では2番車をムーブメントの中心に据えながら薄型化に成功している。

ローター真を小型化した上で、真と外周でローターを支える構造もユニークな設計だ。薄型ながら複雑機構に対応している点も特徴である。

ブレゲ「Cal.502系」

Cal.502系

ローターの軸をずらしてムーブメントの薄型化を図ったのがCal.502系。基本設計は半世紀以上も前だが、その後も度重なる改良が行われ、現在も第一線で活躍するムーブメントとなっている。写真はCal.502.3 DR1。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。

ブレゲの「Cal.502系」は、今から半世紀以上前に誕生したCal.70/71系をベースとするムーブメントである。

ローターの軸をムーブメントの中心からずらして薄くしている点が、Cal.70/71系の大きな特徴だ。誕生当時は画期的な機構として賞賛され、ローターの軸をずらす思想は今なお有用である。

Cal.70/71系は1980年代からCal.502に名を変えて採用され、現在までアップデートし続けている。手作業で行われる優れた仕上げも、ブレゲらしいポイントである。

ロンジン「Cal.L990」

Cal.L990

1977年に発表されたロンジンのCal.L990。ヌーベル・レマニアはこのムーブメントを手に入れた後にCal.レマニア8810と改称。その後は、兄弟会社であったブレゲとエベルがこのムーブメントを積極的に採用した。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。

ロンジンが1977年に発表した「Cal.L990」は、優れた量産性を備えた自動巻きムーブメントの傑作だ。遅咲きの大器として知られる名作である。

誕生当時はクォーツ全盛期であったため、ロンジンはCal.L990をヌーベル・レマニア(現ブレゲ)に売却した。しかし、その後はブレゲのモデルに採用され、ロンジンの手から離れた後にようやく実力を発揮したのだ。

高速回転する香箱と、ふたつの香箱を並列に置く設計が、Cal.L990の特徴である。香箱のスピードを上げる思想は今や多くのメーカーが採用しているが、設計思想の先駆けはロンジンのCal.L990だったのだ。


自動巻き腕時計を保管する際のポイント

自動巻きの腕時計を手に入れれば、多くの時計ブランドが労を尽くして開発してきた自動巻き機構の歴史を体感できる。気に入ったブランドやモデルから選べば、長く愛用できる1本となるだろう。ただ、保管にも自動巻きならではのポイントがあることを覚えておきたい。

磁気の影響を考慮する

自動巻きムーブメントの中にあるひげゼンマイは、磁気の影響を受けやすい。ひげゼンマイが磁気帯びを起こすと規則的な運動が乱れ、時計の精度に影響を及ぼす恐れがあるのだ。

磁気帯びをした時計には磁気抜きが必要となる。時計が磁気の影響を受けないようにするためには、できるだけ磁気を発する電化製品の近くに置かないことが重要である。

ただ、近年は磁気の影響を受けにくい耐磁時計も数多く販売されている。耐磁時計を選べば置き場所に気を使う必要がないため、安心して保管できるだろう。

ワインディングマシーンを活用する

自動巻き腕時計を数日使わずに放置していると止まってしまうため、ゼンマイを巻き上げる手間が発生する。数日使わない場合は、ワインディングマシーンを使うのもおすすめだ。

ワインディングマシーンとは、時計をセットして回転させ、使わない間も自動で巻き上げてくれる機器のことである。複数本収納タイプや収納スペースが付いたものなど、さまざまな種類が存在する。

磁気対策の機能が備わったワインディングマシーンを使えば、保管中に磁気帯びを起こす心配もない。所有本数や目的に合ったワインディングマシーンを選んでみよう。


歴史や傑作を知れば自動巻きを深く語れる

自動巻き腕時計を選べば、毎日リュウズを巻く必要がなくなる。時計の精度が安定しやすいことや、豊富なラインナップから選べることも、自動巻き腕時計の魅力だ。

自動巻きムーブメントの仕組みだけでなく、その歩みや時計史に輝く傑作も知っておけば、自動巻きを深く語れるようになるだろう。


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