ロンジンの2025年新作、「コンクエスト ヘリテージ」のブラウンダイアルモデルを実機レビューする。1954年に誕生した初代モデルのデザインを受け継ぎつつ、モダンなサイズと最新スペックのムーブメントを搭載した本作は、ブラウンダイアルが個性的な1本だ。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年7月8日公開記事]
ロンジンのロングセラーモデル「コンクエスト ヘリテージ」がリニューアル
1954年5月5日、スイス知的財産協会に「コンクエスト」という商標名が登録された。申請をしたのはロンジン。当時の同社は、手巻きムーブメントで高い名声を得た一方で、自動巻きムーブメントの開発においては、他社に一歩遅れを取っていた。そんな中、コンクエストという名前は、新開発の自動巻きムーブメントCal.19ASを搭載して送り出された高級機に与えられた。自動巻きムーブメントの搭載だけではなく、防水や耐震などの高い実用性を備えたコンクエストは、その後も時代に合わせて進化を遂げていく。メタルブレスレットを採用したモデルやエレガントなクォーツモデルをはじめ、現在も同社の主力コレクションのひとつとして人気を集める「ハイドロコンクエスト」など、多くのモデルが生み出されていった。
復刻時計の名手として知られるロンジンが、初代コンクエストを復刻したのは2014年のことであった。直径35mmというケースサイズや特徴的なくさび型のインデックスをはじめ、オリジナルのデザインを忠実に再現したそのモデルは、「コンクエスト ヘリテージ」と名付けられ、数量限定で販売された。いわゆる“デカ厚”が幅を利かせていた頃であったが、クラシックウォッチを求めるファンが多かったのだろう。後に若干の仕様変更を加えたレギュラーモデルが発表され、ロンジンの定番機として認知されていく。
コンクエストの誕生から70周年を迎えた2024年、同社は特徴的なパワーリザーブインジケーターを備えた「コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ」を発表し、やや地味な立ち位置であったコンクエスト ヘリテージにスポットライトを当てた。ドレスウォッチへの注目が集まる昨今のトレンドも後押ししたのだろう。2025年には直径38mmと40mmの3針モデルのカラーバリエーションを一気に拡充させた。落ち着いた色味で表現されたグリーンやブルー、ブラウンの新色ダイアルは、コンクエスト ヘリテージのこれまでのイメージを刷新するに十分なインパクトをもたらした。
しかし2025年のロンジンは、モダンなスポーツウォッチとして進化したコンクエスト(ヘリテージではない)や「ロンジン スピリット」、「ミニ ドルチェヴィータ」など、他にも魅力的な新作を数多く発表した。それ自体は喜ばしいことだが、コンクエスト ヘリテージへの注目が分散してしまっただろうことは想像に難くない。だからこそ今回は、新作ブラウンダイアルの実機を用いてその魅力をお伝えしたい。

直径38mmのケースにノンデイト仕様のブラウンダイアルを組み合わせた、「コンクエスト ヘリテージ」の2025年新作。実用時計を作り慣れた、ロンジンらしい安定した実力のモデルだ。自動巻き(Cal.L888)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38mm、厚さ10.8mm)。5気圧防水。45万2100円(税込み)。
上品さと個性を兼ねたブラウンダイアル
ダイアルの基本的なデザインは、初代コンクエストやこれまでのコンクエスト ヘリテージに共通している。大型のくさび型インデックスにドーフィン針、やや中央寄りに配されたミニッツマーカーは、一目でそれと分かる意匠だ。現代の感覚では、本作のデザインはややドレッシーと言えるだろう。しかし、コンクエストがロンジンにおける防水や耐震構造を有した自動巻きの初期モデルであること、後にハイドロコンクエストへ派生することを考えると、むしろ当初のコンクエストはオールラウンドなスポーツウォッチの先駆けであり、少々主張の強いインデックスのデザインも、視認性を重視した結果であるように思える。
今回からコンクエスト ヘリテージに加わったブラウンダイアルは、少し赤みが差したような深い色味。サンレイ仕上げによって表情豊かにまとめられており、ピンクゴールドカラーのインデックスや針と相まって、上品な印象だ。個人的には、日中の野外よりも、レストランやバーのような薄暗い空間の中でこそ、より魅力の増す時計だと感じる。時分針の中央とインデックスの端には、控えめながらも蓄光塗料が塗布されており、暗所での視認性も確保されている。時分針はフラットのように見えるが、中央に稜線が走っており、左右の2面で光を受けるように設計されている。
パッと見ただけでは分からないが、ダイアルの構造はなかなかに複雑だ。ミニッツマーカーの外側、12個のインデックスをなぞるようにサークル状に仕上げが与えられ、さらにその外側はボンベ状に湾曲している。風防も同様に、カーブした形状を与えられている。中央には、“Automatic”と“Conquest”の文字、そしてロンジンの立体的なロゴが配されているのみで、すっきりとした見た目と余白が好ましい。
力強さを秘めたシンプルなラウンドケース
直径38mmのオーソドックスなラウンド型ケースは、現代のメンズサイズとしては標準か、やや小ぶりなサイズ感だ。厚みは10.8mmに抑えられており、汎用機をベースとした機械式自動巻きムーブメントを搭載したものとしては、比較的薄型と言えるだろう。ベゼルとケースバックは薄く、結果としてミドルケースに厚みが集中しているため、手にした時に感じる程よい重さと塊感が心地よい。
さらにチャームポイントと言えるのが、短く突き出た太めのラグである。その上面は、なだらかな曲面に仕上げられ、少し丸みを帯びた先端へとつながっている。短いラグは時計の全長を短くし、細腕の方でも着けやすくなるというメリットをもたらす。実際、本作の全長は45.6mmであり、同じケース径の他のモデルと比較しても短めである。複数のエッジで構成されたラグだが、シャープさはあまり感じられない。ネガティブな意味ではなく、恐らく、ヴィンテージ感を創出するために意図的に角を落としているのだろう。見た目に柔らかさを感じさせる処理だ。
リュウズの直径は、実測で約6mm。程よく摘まみやすいサイズだ。トップにはロンジンのロゴが刻まれている。
ケースバックは、12角形に整えられたねじ込み式。シースルーではないが、中央には18Kゴールド製のメダリオンがセットされている。これは、初代コンクエストのステンレススティールケースモデルにあしらわれていたものと同じデザインであり、水面から顔を出す魚をあしらっている。半透明のグリーンは、恐らくオリジナル同様エナメルだろう。

本作が搭載しているのは、ロンジン専用に開発された機械式自動巻きムーブメントのCal.L888だ。ベースとなっているのは、ETA社の薄型ムーブメントであるCal.2892-A2。シリコン製ヒゲゼンマイを採用することで、磁気や温度変化に対する耐性を獲得したハイスペックなムーブメントだ。約72時間のパワーリザーブも心強い。
ベルトは、アリゲーターレザー製。ダイアルの色味に調和したブラウンのものがチョイスされている。ブランドロゴをあしらったピンバックルが、クラシカルさを強調する。
デイリー向きの実用ドレスウォッチ
本作の装着感は、日常使いにふさわしいストレスフリーなものだ。ラグの短い直径38mmのケースは、腕上で過度に主張することなく、厚みもないため長時間の着用でも腕への負担が少ない。アリゲーターレザーストラップが新品のためか、少々硬さを感じたものの、1カ月程度毎日着用すれば、ストラップのしなやかさは増すだろう。
視認性に関しても問題はない。針やインデックスのピンクゴールドカラーとブラウンのダイアルは、近い色味のためコントラストがはっきりしていないようにも思えたが、実際には多面カットで幅広なインデックスが光を受けて煌めくため、しっかりと時刻を読み取ることができる。
約72時間のパワーリザーブは、複数の時計と一緒にローテーションして使いやすく、シリコン製ヒゲゼンマイがもたらす高い耐磁性は、パソコンやスマートフォンなど、身近に電子機器の多い現代においても安心して使用することができる。さらに5気圧の防水性は、手を洗う場合や小雨に降られるくらいの日常的な範囲であれば不便に感じることはない。実用的な腕時計に求められるスペックを持ち合わせ、さらにアイコニックなデザインを与えられた本作は、まさにデイリーウォッチとして理想的な存在と言えるだろう。
ひとつ個人的な意見を付け加えたい。今回レビューした温かみのあるブラウンダイアルは、秋冬の季節にこそ真価を発揮するものだろう。少なくとも筆者のセンスでは、今のような夏場に着けこなすことはなかなか難しい。その点で、より高い汎用性を求めるならば、ブラックやシルバー、ブルーのダイアルを選択肢に入れてみると良いだろう。
70周年を迎え、さらに存在感を示すコンクエスト
一目でそれと分かるアイコニックなデザインを持ちながらも、これまであまり注目される機会の少なかったコンクエスト ヘリテージ。今回のカラーダイアルの追加は、その流れを変えるものとなるに違いない。ドレスウォッチへと回帰する昨今のトレンドを追い風として、コンクエスト ヘリテージの存在感がジワジワと増していくことを期待したい。