1963年にリリースされ、日本の時計を大きく変えた「セイコー5」。そもそもは若者向けの時計だったが、その完成度の高さ故に、やがてセイコーの世界戦略機となった。そんな5を、若者向けに取り戻そうとした試みが、68年初出の「5スポーツ」だ。堅牢なムーブメントにユニークなケース、そして鮮やかな色使いは、半世紀以上を経た今、世界中の時計好きたちの心をつかむようになった。

Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]
SEIKO SPORTS-MATIC 5
1963年に誕生したセイコー5の原型機

1963年9月に発売されたセイコー5と5スポーツの祖。驚くほどの戦略的な価格で防水ケースと自動巻き、日付曜日表示を実現したほか、日本メーカーとしては初めてメタルブレスレットを標準装備した。自動巻き(Cal.410、後に606 B)。21石。1万8000振動/時。SSケース。10m防水。当時の定価8300円。参考商品。
2019年のリニューアル以降、たちまちセイコーのアイコンとなった「5スポーツ」。その祖に当たるのが1963年発売のセイコー スポーツマチック 5(後のセイコー 5)」だ。後にこのコレクションは主に輸出用となるが、そもそもの意図は、新しい5スポーツに受け継がれた。
1960年代に入り、セイコー(当時は服部時計店)は外装の設計基準である「SEIKO外装ミリ規格」を制定。設計の単位をリーニュからミリに変更することで、時計のケースにようやく防水性を持たせられるようになった。加えて、マジックレバーによる新しい自動巻きムーブメントは、価格を抑えながらも、腕時計の実用性を大幅に改善した。これらを得たセイコーが、新世代の時計を作ろうと考えたのは当然だろう。63年9月にはまず若者向けのセイコー スポーツマチック 5を、その数カ月後には高級版の「セイコーマチック・ウィークデータ」をリリースした。しかも前者は、セイコー初となる金属ブレスレットが標準装備された点でも画期的だった。
通称「5(ファイブ)」のプロジェクトを牽引したのは、デザイナーの田中太郎と宣伝部の田中廉だった。前者はモダンな防水ケースを完成させたほか、3時位置のデイデイトというかつてないレイアウトを実現。後者は「5」というサブネームを与えることで、この新作を一躍キャッチーなものとした。

防水ケースと日付曜日付きの自動巻きを合わせたスポーツマチック5の価格は、SSのブレスレット付きでわずか8300円(金張りは9800円)。これは手巻きのエントリーモデルである「チャンピオン」の約1.5倍に過ぎず、高級機であるセイコーマチック・セルフデーターより約1万円も安かった。魅力的なスペックと手頃な価格を両立させた5シリーズは、1967年までに500万本を売る空前の大ヒット作となったのである。
SEIKO 5 SPORTS[1st Model]
さらに頑強さを増した初代5スポーツ

1968年6月に発売されたのが、セイコー5をスポーティーに振った本作である。当初はブラックとブルー文字盤を打ち出していたが、翌年からはケースと色のバリエーションを大きく増やした。防水性能はなんと70mもある。自動巻き(Cal.6106)。25石。2万1600振動/時。SSケース。70m防水。当時の定価1万5000円。参考商品。
1963年のリリース以来、5ブームを巻き起こしたスポーツマチック 5。人気の高まりを受けて、セイコーはこのコレクションを毎年進化させ続けた。
もっとも、時計としての進化は「自動巻きカレンダーの普及版」、そして若者向けのエントリーモデルという意図から5を乖離させることとなった。67年のカタログによると、新作である「(ニュー・)5 デラックス25石」の価格は1万2000円。これは上位機種であるロードマチックのわずか2000円違いに過ぎなかったのである。
以降は推測である。セイコーは価格が上がり、他コレクションとの差別化が難しくなった5の軌道修正を図ったのではないか。その表れがスポーティーなデザインに振り切った「5スポーツ」(68年)と、廉価版の「5 アクタス」(69年)である。とりわけ多彩な色(69年以降、セイコーはこの路線を加速させた)とユニークな形を打ち出した5スポーツは、従来の5とは全く違う顧客を狙ったものだった。

もっともセイコーは、このスポーティーな時計を見た目だけのものにはしなかった。頑丈なハードレックスに置き換えられ、時間の経過を一目で確認できるよう、ベゼルも回転式に変更。防水性も10mから70mに引き上げられたのである。
セイコーがこの新コレクションを重視したことは疑いようがない。それは、69年5月に発表された初の自動巻きクロノグラフムーブメントであるキャリバー6139が、他のコレクションを差し置いて、まず5スポーツに搭載されたことからも明らかだ。新しい色と形、そして高性能なムーブメントを揃えて若者向けに振り切った5スポーツ。しかしクォーツの普及により、この野心的な試みはやがて休眠を余儀なくされることとなる。



