「ミナセがあるのだから、西荻窪の地名を冠したブランドがあってもいいだろう」というミスズ・半田晴久社長のアイデアから始まったザ・ニシオギ。冗談のような端緒だが、「囚われのない、融通無碍の精神で、エッジの効いた物作りを行う」をコンセプトに掲げ、良質かつ個性的な腕時計を作り続けてきた。最新作はなんと「宇宙船」。その造形もさることながら、細かな配慮が際立つ野心作だ。

幾何学的な形状をしたチタンケースで、宇宙船を表現したザ・ニシオギの野心作。このケースをつぶさに見ると、平坦に仕上げられた面、あえて尖らせ過ぎないエッジなど、ザ・ニシオギのノウハウが詰め込まれている。また、ケースバックもケース形状に合わせて湾曲しており、その装着感は快適そのものだ。自動巻き(MIYOTA Cal.6T28)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(縦44.5×横35.5mm)。5気圧防水。38万5000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Ohashi Yousuke (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
エッジ際立つ幾何学的チタンケース
東京・西荻窪を拠点に、ユニークな腕時計作りを行うザ・ニシオギ。ファーストモデルこそスポーティーな3針モデルだったが、以降は古代エジプトのウジャトの目をモチーフにした腕時計や、文字盤に西荻窪の地図を描いたコンパスウォッチ、ケースにダマスカス鋼を使ったモデルなど、日本のブランドらしからぬ創作性を炸裂させてきた。そして、新たに発表されたのが、スペースシップをモチーフにした「宇宙船」である。極めて立体的なケースは、グレード5チタン製。ケースを鏡面に磨き上げ、一部のモデルには、その上からカラフルなIPコーティングを施している。

「宇宙船」コレクションの見所は、IPを施した鮮やかなチタンケースにある。「チタンケースで鮮やかな発色を実現したドゥ・ベトゥーンの試みを、ザ・ニシオギの価格帯で再現したかった」と同ブランドの担当者が語るように、本作の色味は非常に鮮やか。ここで挙げたのは3色だが、異なるニュアンスのブルーをまとった「宇宙船深海」がある。また、ストラップの幅は、12時側(18mm)と6時側(22mm)で変える凝りようだ。各41万8000円(税込み)。
矢継ぎ早にユニークなモデルを発表するザ・ニシオギだが、製品の完成度は既存のメーカーに引けを取らない。その好例がケースだ。合金化してあるとはいえ、チタン素材を鏡面に磨くのは至難の業。宇宙船のような多面体ケースであればなおさらだ。しかし、本作ではすべての面に鏡面仕上げを施し、さらに角が立ち過ぎないよう、エッジを丸めている。その完成度の高さは、稜線が途切れなく続く、ケースとサファイアクリスタル製の風防を見れば明らかだ。多角形にカットされた風防も隙間なくケースに据え付けられた。防水性を考えて多角形の風防は一般に避けるが、ザ・ニシオギはクリアランスを詰めることで、複雑な形状となんと5気圧防水(!)を両立させた。
本作の見所は、ケースに施された鮮やかなIP処理にある。そもそもチタンにIP処理を加えるのは難しい。立体的なケースならなおのことだ。しかし、本作では下地処理で徹底した鏡面を与えることで、鮮やかな発色を実現してみせた。シルバーとゴールドは一般的だろう。ブルーとダークブルー、そしてレッドで写真のような発色を実現したのだから恐れ入る。併せて、それぞれのカラーにマッチしたストラップが採用された。しかも、あえてプレーンなシボ押しのカーフを使うことで、ケースを引き立たせる配慮も効いている。さらに、バックルには筋目仕上げのグレード2チタンを使い、その上からIPを施すことで、使用時の傷を目立たせない。一見奇抜だが、決して色物になっていないまとめ方は、ザ・ニシオギの個性と言えるだろう。

もっとも本作を、ユニークで良質な腕時計にとどめなかったのはいかにも同ブランドらしい。文字盤とインデックス、そして6時位置のロゴに充填されたのは、スーパールミノバのBGW9。発光量の大きなC3ではなく、BGW9を選んだのは青い光を放つため。確かに光る様子は、宇宙を駆け抜ける宇宙船に見える。正直、視認性を考えれば、蓄光塗料は針とインデックスだけにとどめた方がいい。しかし、あえて文字盤に塗布したのはザ・ニシオギらしい遊び心の表れだ。囚われのない、融通無碍の精神で、エッジの効いた物作りを行うというコンセプトを謳い上げるザ・ニシオギ。その手腕は、本作でいっそうの冴えを見せる。



