クロノス日本版編集部の細田が、「いつかは欲しい」と恋焦がれていたジャガー・ルクルトを購入した話。実は相場よりも大分安く購入しているが、その理由とは?
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2025年6月5日公開記事]
「いつか買う」なんて言っていたら絶対買わないよ
今年で『クロノス日本版』編集部に所属して9年目を迎える。今でこそ、やれインディペンデントだ、マイクロメゾンだとニッチな時計ブランド(失礼)にもアンテナを張り、情報収集をしているが、入社当時はそんな知識も当然なく。初出社時に取ったパルミジャーニ・フルリエからの電話が聞き取れず、「なんだかチーズみたいなところから電話がかかってきた」と動揺したことを昨日のことのように覚えている。
そんな時計ド素人だった当時の細田。しかし、時計専門誌の編集者を志望しただけあり、それでもメジャーブランドはある程度認識していたし、そんな素人ながらに憧れの時計はいくつかあった。例えばIWC「ポルトギーゼ」、パネライ「ルミノール」、ブレゲ「アエロナバル」、そしてジャガー・ルクルト「レベルソ」辺りがそうだった。
しかし、漠然と憧れている時計というのはなかなか手に入らないものだ。意志の強い人が「絶対に〇〇を買ってやる、だから仕事を頑張る」というモチベーションで時計を買おうとすれば、いずれは手元に来るだろう。しかし、細田のような意志の弱い人間がなんとなく、「いつか、ボーナスが出たら買おう」「いつか、生活が落ち着いたら買おう」なんて思っていたらいつまで実現しない。
案の定、ボーナスは他のことに消え、生活は落ち着きを見せることもなく、気が付いたら10年選手まであと少しのところまで来てしまった(ちなみに、相変わらず会社の男性社員としては最年少だ)。この間、結婚をし、妻が(←これ重要)マイホームを購入し、いよいよ今年は子供も生まれてくる予定。順調に趣味人としての墓場に向かいつつある。
そしてふと、今年の4月に思い至ったのである。「まずい。今買わないと、一生憧れの時計が買えないのではないか」と。そして次の瞬間には時計サイトとフリマアプリを巡回し始めていた。しかし悲しいかな、予算の関係で新品には目もくれなかった。
ようやく見つけた“いわく付き”のレベルソ
そして巡回を始めてから1週間ほど経った時、宝○広場で気になる「レベルソ・シャドウ」を見つけた。個人的にレベルソはその出自から「SSケースのモノフェイス」を理想としており、1990年代前半に登場したシャドウはまだモノフェイスしかない時代のモデル。つまり、構成としては理想的だ。
そして何より、なぜか異様に安いのである。相場の半額とまではいかないが、それに肉薄するレベルで安い。なぜこんなに投げ売り? 理由は掲載写真をスクロールしたらすぐに分かった。ケースバックにイニシャルが刻印されていたのだ。
確かに人によっては、いや多くの人はそれだけで購入を躊躇うだろう。もしかしたら結納返しで渡された個体が、悲しい事情で手放されたのかもなんて想像してしまい、気持ちが沈んでしまう人もいるかもしれない。
しかし、個人的には些細なことだった。イニシャルはなにかしら、自分や周りの人にこじつけられるかもしれないし、最悪、レーザーで埋めてしまうことだってできるだろう。そんなことよりも自分の予算で憧れのレベルソが買えるのだ。いかない理由はない。こうして自分でも引くレベルで即決し、ポチってしまったのだ。
程よいヤレ感も愛おしい
こうして手元に来た、10年越しの憧れの時計。30年以上前の時計だけあり、時分針のトリチウムはところどころ剥げてるし、風防にはハカマから5時位置にかけて少し放射状に線傷が入っている。お世辞にも状態がいいとは言えないが、この小ぶりなサイズと相まってなんだか愛おしい。正確な製造年が分からないのは残念だが、多分歳も自分とかなり近いんだろうな。
なんとなく、この雰囲気が好きなので当面は大きなメンテナンスもしないつもりだ。風防だけは次のオーバーホール時に交換する予定だが、剥げたトリチウムはそのままで行きたいと思っている。そうなるとメンテナンスを出す場所が悩ましいが、それを考えるのも楽しいだろう。