失恋したら「ROMEO(ロメオ)」の高級ボールペンを使うことになった件

2025.06.17

タイトルだけ読むと「な……何を言ってるのかわからねーと思うが(ry」状態であるが、失恋をきっかけに「ロメオ」の高級ボールペンが手元に来て、その使い心地がとてもよいという話。失恋の傷はまったく癒えておらず、現在進行形で流血状態であるものの、同僚の細田雄人の「我々は、やりきれない気持ちを制作物にぶつけられる仕事をしているじゃないですか」という励まし(?)で発奮して、文房具については素人ながら、このボールペンのレビューを本ブログに残したい。

今回取り上げる「ROMEO No.3 ボールペン」と「ユーリカンノート」と、お気に入りのザ・シチズンの腕時計。ユーリカンノートは、新製品発表会の後に自分用に購入していた。まだ一度も使っていないので、これからボールペンと併せて愛用していきたい。
鶴岡智恵子(クロノス日本版):写真・文
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年6月17日公開記事]


「ROMEO No.3 ボールペン」が手元に来た経緯

 昨年、縁があって「ROMEO(ロメオ)」という伊東屋が展開するオリジナルブランドの新製品発表会に参加した(参考:https://www.webchronos.net/blog/125120/)。

 ロメオは伊東屋が1914年に製作した「ロメオ万年筆」を、20004年に「ROMEO No.2」として復刻したことでスタートし、昨年“Moment of Dis-covery”という新しいコンセプトの下にリブランディング。万年筆やボールペンを中心に、このコンセプトに基づいた新生ロメオの製品が多数リリースされた。なお、ロメオはPilgrim from Rome(ローマから来た巡礼者、旅人)という意味がある。

 時計専門メディアの編集者として、興味はあるし趣味性といった意味で結びつきやすいので勉強しなくてはと思いつつも、門外漢な文房具の世界。しかしこの発表会でいくつかのロメオの製品に触れて、その意匠や質感には所有欲をくすぐられた。

 話が前後するが、この発表会の時点で、私には1年半くらい片思いしている相手がいた。そして、彼が「ちょっと良いボールペンを買おうと思ってるんだよね」と話していたことを覚えており、その年のクリスマス、プレゼントとしてロメオの「ROMEO No.3 ボールペン」を贈った。腕時計でもよく言われる「いくらからが高級?」といった疑問はあれど、このボールペンは2万2000円(税込み。現在価格。もしかしたら当時は違ったかも)で、普段数百円のボールペンを使っている私にとっては紛れもない“高級”ボールペン。銀座 伊東屋 本店のK.Itoyaに入店して購入する際は、初めて時計店に足を踏み入れた時のようにドキドキしたけれど(余談だが、私が初めて自分ひとりで入った時計店は中野の某ショップ)、彼の喜ぶ顔が見たいという恋心があったがゆえに、とても楽しい購入体験だったことを今でも鮮明に思い出せる(思い出すとまた辛い)。そしてクリスマスより少し前にボールペンを渡したところ、受け取ってくれた。

ボックスに収められるボールペンとペンシースとして使える布、そして替えのインク。インクは別売り。「長く愛用してもらうために」と、インクも付けて買ったのが、今となっては懐かしい。

 しかし今年に入って、私のやらかしが原因で、交流が途絶えてしまった。ちなみに、それまでに何度か告白してはお断りされていたので、以前から「失恋」していたのだが、便宜上、現在の状態を失恋と記す。そして、このプレゼントのボールペンも突っ返されてしまった。一度は受け取っているのだから自分で処分してくれと何度か送り返したものの差し戻され、ついには「本当に迷惑だからやめてください」というメッセージ付きで手元に届いた。迷惑も何も、受け取ったものなのだから、いらないなら人にあげるなり捨てるなり、自分で勝手に処分すれば良いのでは……? などと直接は言えない愚痴をここで吐き出しつつ、悲しいけれど、これ以上好きな人に嫌な思いはさせたくなかったので、泣きながらゴミ箱にぶち込もうとした瞬間、「いや2万2000円だぞ?」と、貧乏性という名の理性が働いて、せっかくだから高級ボールペンデビューとしてこのNo.3を使用してみることにしたら、さすがに普段使っているものとはまったく異なるディテールに驚かされ、虜になってしまった。失恋の傷の深さの分だけ前置きが長くなってしまったが、その使用感をレビューする。


時計のモチーフが入った意匠

ロメオはリブランディングに伴い、「黄櫨(はぜ)」「白雲石」「深紫(こむらさき)」の、3種のコンセプトカラーを設定した。いずれも日本で伝統的に、高貴な色とされてきたものである。No.3もこの3色展開がされており、私が所有することになったのは深紫のモデルだ。

 門外漢とはいえ、モンブランやペリカンなど、これまで高価格帯のボールペンを店頭で見たり触ったりしたことはあった。そんな中、なぜロメオを選んだかというと、天冠部分が時計のリュウズのモチーフになっているという点が気に入ったためだ。もともとはアクリル製であったパーツを、真鍮に改めてまでこのデザインにしたのは、「大切な時間を、この筆記具と一緒に過ごしてほしい」という思いを込めたため、と発表会で聞いた。

天冠ほか、真鍮部分はすべて鏡面仕上げでピカピカしている。

 同軸の部分は牛革で覆われている。私が購入したのは「深紫(こむらさき)」と呼ばれるカラーだ。同じカラーで、樹脂素材であるイタリアンレジンを使用したモデルもあり、どちらにしようか迷ったが、温かみが感じられるレザータイプの方を選んだ。まぁ自分のために選んだのではないけれど。

 初めて高級ボールペンを使用するにあたって、一番気になったのは重さだった。このボールペンの公称値は33gである。プラスティック製の安価なボールペンと比べてずっしりと重く、この重厚感が所有への満足度につながっていると理解している一方で、慣れないうちは手に持った時に異物感を覚えたのは事実だ。しかし、同軸のレザーの感触が心地よく、ずっと手にしていたいといった気持ちにさせられた。後述するが、重みがある方が文字を書く際に安定感がもたらされやすいという気付きを得たことと、使い続けていくうちに重みは慣れたこと考えれば、イタリアンレジンのモデルでも気に入るようになっていたとは思うが、腕時計でもブレスレットより革ベルトが好きな自分自身にとって、やはりこのレザータイプを選んだのは正解だった。暗めのパープルだから、汚れが目立ちにくいというのも良い。繰り返しになるが、自分のために選んだんじゃないのがまた悲しいんですけどね……。

ロメオのペンシースも、発表会で説明を受けた。イタリアンレザーを使ったロール式となっており、留め具ではなくフラップ部分のマグネットで開閉できるので、ペンケースよりもサッとボールペンを取り出して使うことができそうだ。

 ただ、この意匠であるがゆえに気になったのが、小傷が目立ちやすそうということだ。鏡面で磨かれれたパーツは、ツヤ消しされたものと比べてちょっとした小傷や擦れが目立ちやすい。腕時計と一緒で、普段使いをしていれば小傷は避けられないものだろう。しかし、せっかくなら綺麗な状態を保ちたい。現在は、付属の布に入れて持ち歩いている。ペンケースでもほかの文具とぶつかり合って小傷になりそうなので、ペンシースの購入を検討している。


取材の時に使ってみた! その書き心地とは?

上がロメオで、中央がもらいもので、下が普段使っているフリクションのボールペンで書いた文字。へたっぴなのは、ご容赦を。

 普段、取材のメモはノートPC派だ。しかし先日、このロメオのNo.3を使ってメモを取ってみることにした。ちなみに私は本当に字が下手だ。また、性格のひと言で済ませてはならないが雑でもあり、クロノス編集部に入社して、字のことで何度叱られたか分からない。どれくらい下手かというと、広田さんにすら「ツルティーの字は僕より独特だよね(笑)」と言われるほどです;;。

 さておき、そういった理由で筆記をあまりしてこなかったのだが、せっかくだからとNo.3を使ってみると、いつもよりかは見やすい字になっている。「高級ボールペンを使っている」という気の持ちようかと思いきや、前述の通り、重みがあるため安定した筆記につながっていたようだった。筆圧を強くかけずにサラサラと書けたため、急いで書いても字が崩れないのも良かった。

 ちなみにロメオはNo.3の開発にあたって、重量バランスを追求したのだという。重心をロメオのロゴの入った中央リングに置くことで、この重心がちょうど親指と人差し指の間となり、重さが分散されるような設計になっているというのだ。この仕様によって、重いボールペンでありがちな、長時間使用していると疲れるといった課題に向き合っている。実際、30分程度の取材で書き続けてみて、普段使っているボールペンと比べて疲れるということはなかった。むしろ書きやすい分、疲れはいつもより少なかったかもしれない。

 また、このNo.3の軸径は9.2mmと細軸だ。女性の自分にとっては細軸の方が握りやすいと思うが、ロメオは細軸であっても太軸であっても、万人の手になむような形状を追求しているという。もっとも、手に合ったサイズを選ぶことが推奨されているのは当然だろう。


高級文具界、女性ユーザーの参入状況が気になるところ

お気に入りの初代グランドセイコーとともに撮影。

 このように、私にとっては今後も使っていきたいと強く感じた高級ボールペン。一方で、なぜこれまで腕時計のように、文具の世界に飛び込まなかったのかと考えた時、ひとつには女性である自分自身にとっての使い勝手が、必ずしもよくなかったのではないかということに思い至った。女性は男性のジャケットのように内ポケットのある衣服が少なく、どうしてもペン類はカバンの中で持ち運びしなくてはならないケースが多いだろう。サッと取り出せて使えると利便性が高まり、所持する理由へとつながる。

 加えて、自分は好みであったものの、正直高級文具、特にボールペンは“渋い”意匠が多いとも感じた。例えばNo.3のうち、「白雲石」は爽やかなホワイトが基調となっており、女性にとって取り入れやすいカラーではあるものの、“可愛い”や“華やか”などとはまた違う。Googleで「高級ボールペン 女性用」で調べてみても、いかにも女性向きといった意匠は少なかった。もちろんこの落ち着いた、風格あるテイストこそが高級文具の持ち味とも言える。しかし、より幅広く、男女問わずにユーザーを市場へと取り込むためには、もっと多彩なデザインがあっても面白いのにな、と思った。

 高級文具市場に、どれだけの女性ユーザーがいるかは分からない。しかし、きっかけは失恋とはいえ、女性ユーザーの端くれとなった私にとって、今後の「女性向け製品」の動向が気になるところである。


恋よりも仕事ですよね(震え声)

 失恋したら「ROMEO No.3 ボールペン」が手元に来て、失意の中で使ううちに気に入ったという話をブログにした。一度文章に起こしたことで、気持ちが少し楽になった。webChronosを自分の日記にするなという声もありそうだが、ブログなのでご勘弁を。

 これからは時計ジャーナリストとして、この高級ボールペンを使って、たくさんのことを取材し、良い原稿を書いていきたいと決意を新たにしたところで筆をおく。なお、私がこのボールペンでポエムや、ましてや振られた彼にラブレターなどを書き始めたら、どうか全力で止めてほしい。


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