チューダーのデザイン部門を率いるアンダー・ウガルテにインタビュー。「ペラゴス FXD」新作の開発秘話

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2023.09.21

チューダーはセーリングチーム「アリンギ・レッドブル・レーシング」のスポンサーとなった。それに伴って発表されたのが「ペラゴス FXD "アリンギ・レッドブル・レーシング"」「ペラゴス FXD クロノ "アリンギ・レッドブル・レーシング"」である。これらはチューダー初のカーボン素材採用モデルであり、ぺラゴス・コレクション初のクロノグラフだ。今回ヨーロッパスターはその発表会に出席し、2007年以来すべてのチューダーの時計デザインを手がけているアンダー・ウガルテに話を聞く機会を得た。

アンダー・ウガルテ

2007年からチューダーのデザイン部門を率いている、デザイナーのアンダー・ウガルテ。
Originally published on EUROPA STAR
Text by Christian Martinez
[2023年9月21日公開記事]


チューダーとアリンギ・レッドブル・レーシングがパートナーシップを締結

ペラゴス FXD

アリンギ・レッドブル・レーシングとチューダーのパートナーシップを記念して登場したペラゴス FXDの新作。

 現在のアメリカズカップのヨットは、実際のところヨットではない。F1カーが伝統的な意味の車ではないのと同じだ。アメリカズカップのスイスチームである「アリンギ・レッドブル・レーシング」がボート ゼロと呼ぶ、ミッドナイトブルーにレッドやイエローのカラーリングが施された船体は、弾丸のような形状をしており、文字通り水上を飛翔する。

 全長75フィート(約23m)の船体の両側にある有機的な曲線のフォイルはザトウクジラに似ているが、大きな違いはこの船体が超軽量なカーボンファイバーとチタンでできており、風速の4倍の速度を出せるということだ。ボート ゼロは、時速100kmを超えることができる。そして、ターンや波の読みをひとつ間違えるだけで、ボートは突然に、そして激しく停止する。

アリンギ・レッドブル・レーシング

アリンギ・レッドブル・レーシングは、アメリカズカップで2度の優勝を誇るアリンギとレッドブルを結びつけ、ジュネーブ・ソシエテ・ノーティックの旗の下で航行する。アメリカズカップは2024年秋にバルセロナで開催される予定だ。

「それは、まるでコンクリートの壁に激突するようなものです」と、元オプティミスト(セーリング競技の15歳以下のためのクラス)世界チャンピオンで、アリンギ・レッドブル・レーシングの最も若いメンバーであるニコラス・ロラスは語る。コンピューター制御によるハイテクなパフォーマンスやノウハウは、レーシングチームのメンバーが「もはやセーリングとは思えない」というほど高度なものである。そのため8名のクルーは、コックピットでインカム付きの耐衝撃ヘルメットを被っているのである。

 そして今、彼らはチューダーの腕時計を着用している。2022年、チューダーは第37回アメリカズカップにおいて、アリンギ・レッドブル・レーシングのスポンサーとなった。その1年後、チューダーはレーシングチームのために製作したふたつの「ぺラゴス FXD」の新作を発表した。片方はクロノメーター認定を取得した高精度な時刻表示用の直径42mmのモデルで、もう片方はぺラゴス初のストップウォッチを搭載した直径43mmのクロノグラフモデルである。

 私たちは2023年6月に、アリンギ・レッドブル・レーシングの本拠地であるバルセロナで行われた公式発表に赴き、ブラックベイだけでなく2007年以降のすべての時計を手掛けている、チューダーのデザイン・ラボに所属するアンダー・ウガルテにインタビューを行った。

ペラゴス FXD

アリンギ・レッドブル・レーシングのクルーは、ヨットのコックピットでチューダーの時計を着用している。


チューダーのデザインを手がけるアンダー・ウガルテにインタビュー

Europa Star:ペラゴス FXDに加わった、新しい2モデルのインスピレーション源となったものは何ですか?

アンダー・ウガルテ:アリンギ・レッドブル・レーシングのヨットと同じ、カーボンファイバー、チタン、ステンレススティールの素材を使った初めての時計製作を考えました。チームカラーとロゴもデザインに取り入れるため、全体的なカラーリングにブルーとレッドを採用しました。

 機能面としては、水中使用が可能でありながら従来のダイバーズウォッチではないものをチームに提供したいと思いました。同じ理由でベゼルは両方向回転式とし、レガッタのスタート時にはカウントダウンとして機能します。また、時計が頑丈であることも大事でした。そのため、ペラゴス FXDのモノブロック構造のケースと、ウェットスーツの上から着用できる便利なストラップを採用しました。

ペラゴス FXD

チューダー「ペラゴス FXD "アリンギ・レッドブル・レーシング"」Ref.25707KN
自動巻き(Cal.MT5602)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックカーボンコンポジット製ケース(直径42.0mm)。20気圧防水。48万5100円(税込み)。

Europa Star:製作のプロセスで最大の難関は何でしたか?

アンダー・ウガルテ:カーボンファイバーは私たちにとって新しい素材でしたので、かなり勉強になりました。新規開発には時間がかかります。今回は金型の開発だけに6ヵ月をかけました。

ペラゴス FXD クロノ

チューダー「ペラゴス FXD クロノ "アリンギ・レッドブル・レーシング"」Ref.25807KN
自動巻き(Cal.MT5813)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックカーボンコンポジット製ケース(直径43.0mm)。20気圧防水。67万2100円(税込み)。

Europa Star:チューダーにとって、今回の発表はどれほど大きなものだったのでしょうか?

アンダー・ウガルテ:いくつかの理由で、重要なものでした。ひとつめは、技術的に新しい素材への扉を開いたことです。これはチューダーにとって非常に重要なステップでした。そしてふたつめは、スポンサーシップを通じて知名度を上げたいと思っているからです。

Europa Star:レッドブルは若く、反骨精神にあふれていることで知られています。そのブランドイメージを、チューダーの時計に取り込むことはどれくらい大変でしたか?

アンダー・ウガルテ:実は、そこまで大変なことではありませんでした。単にレッドブルということではなく、アリンギ・レッドブル・レーシングとの共同プロジェクトでしたから。このチームが結成されたのは、アメリカズカップで勝つには以前より前に進む必要があると彼らが考えたからです。レッドブルはアメリカズカップの世界では経験がありませんでしたが、F1では良い成績を残しています。アリンギとチームを組むことは、常に革新的で、さらなる高みを目指すという、同じような精神を持つ人物と集まるようなものでした。

ペラゴス FXD

「ペラゴス FXD “アリンギ・レッドブル・レーシング”」はカーボンコンポジット、チタニウム、そしてステンレススティールを組み合わせたケースにマニュファクチュールキャリバーを搭載する。

より大胆で実験的なのがチューダーのデザイン

Europa Star:あなたは以前ロレックスで働き、現在はチューダーのデザイン部門を率いています。チューダーとロレックスの大きな違いは何ですか?

アンダー・ウガルテ:チューダーとロレックスは、そのDNAや高い品質という文化を共有していても、ふたつの異なる世界にあります。目に見える違いとしては、チューダーの方がより大胆なデザインや新素材における実験的なデザインをしているということです。

チューダー

総面積5500平方メートルの4階建てで、約3年の建設期間を経て2021年に完成したチューダーの新しい工場が、スイスのル・ロックルに誕生した。最先端の施設はチューダーレッドで統一され、隣接するケニッシの工場(2016年に設立されたチューダーのムーブメント製造施設)ともつながっている。

Europa Star:どのようにして、あるブランドのデザインから別のブランドのデザインへと移行できたのですか?

アンダー・ウガルテ:多くのブランドにはアイコニックな時計がひとつありますが、ロレックスではコレクション全体がアイコニックなものです。デザイナーとして契約するときは、圧倒されるかもしれませんね。チューダーでは、私は常に小さなステップを踏んで仕事をしてきました。まず、アーカイブから新しいアイデンティティを探し、ブランドのDNAを呼び起こすようなプロダクトを見つけました。そして2010年に最初のクロノグラフ、そして2012年に「ブラック ベイ」を発表しました。これが、私たちを立ち上げるきっかけとなった時計です。

より良いもののため、過去のデザインを批判的に見る

Europa Star:デザイナーとして、チューダーの人気を維持するためにどのようなことを行っていますか?

アンダー・ウガルテ:既存モデルの細部を改良し、再定義する作業を続けています。それはより良いものを作るために、常に自分たちのやってきたことを批判的に見るということです。これは品質、デザイン、製造、マーケティングなどすべてにおいて当てはまります。

Europa Star:新しいデザインを開発するとき、どのような手法をとっていますか?

アンダー・ウガルテ:特に方法はありません、直感的なのです。物事を感じ、それを紙や物に写し取るのです。

Europa Star:ひとつ例を挙げてもらえますか?

アンダー・ウガルテ:ブラック ベイが良い例でしょう。私はチューダーがこれまでの歴史の中で作ってきたダイバーズウォッチをすべて見て、それらを分析し、何が特別なものなのかを理解しようとしました。古い時計を見ていると、その美しさにインスピレーションを得ることができます。蓄光塗料や文字盤がどのように変化し、暖かみのある色合いに変わっていくのかが分かります。それが時計に魅力と伝統、スペイン語で言うところの「ソレラ(solera)」を与えてくれます。

 また文字盤がドーム状になっていることで、光の当たり方が違って見えることもあります。私は、時計がなぜそのようなカリスマ性を持っているのか、その理由を探っています。オリジナルをただ真似するのではなく、応用してみようとするのです。そして、小さな新しいものと組み合わせて、その結果をスケッチで見てみます。もちろん、他の人からのフィードバックも助けになります。

ここ数年で最もクレイジーなデザインは「ブラックベイ P01」

Europa Star:ここ数年で、最もクレイジーなデザインのモデルは何でしたか?

アンダー・ウガルテ:「ブラックベイ P01」ですね。私たちはチューダーのヘリテージ部門を訪ね、アーカイブのコレクションを見せてもらいました。そこには、1960年代のプロトタイプが入った引き出しがありました。その時計はフランケンシュタインウォッチのようなもので、アメリカ海軍のために開発された超機能志向のものだったのです。彼らは珍しいベゼルのロック機構を作ろうとしていたようで、私は「この時計にはすごい魅力がある!」と思ったのです。そして、上司にこれを使って何かする必要があると話しました。彼が同意してくれたので、私たちは何年もかけて多くのプロトタイプを作成しましたが、そのたびに経営陣はこう言ったのです。「だめだめ、ありえない。これはモンスターだよ」、と。

 最終的には、デザインを何度も修正し、私たちがなにを実現したいのかを説明して彼らを説得しました。ブラックベイ P01はアメリカ海軍のために製品を開発してきたブランドの歴史に関連するものであり、ブランドの精神につながるものです。そしてそれをなんとか現代的なものに変化させたのです。このモデルは賛否両論あり、時計ファンの中でも好きな人と嫌いな人に分かれました。しかし、人々がチューダーについてもう一度話す機会を作るという目標は達成しました。

ブラックベイ P01

歴史的なプロトタイプを再現した、ブラックベイ P01 コレクション。

Europa Star:最も誇りに思っている時計のデザインはどれですか?

アンダー・ウガルテ:挑戦とは、時計のデザイナーになることではなく、あらゆる種類の時計を作れるようになることです。個人的に最も満足しているのは、現在のチューダーのカタログの中で、さまざまな時計が商業的に成功を収めていることです。ブラック ベイやぺラゴスだけでなく、「チューダー ロイヤル」や「1926」「クレア ドゥ ローズ」もです。それぞれのモデルが、それぞれの目的を果たしています。これこそがデザイナーとしての私の仕事です。



Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570


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