2025年には超大作が発表?! 驚きの展開を続けるブランパン、社長兼CEOのマーク A. ハイエックにインタビュー

FEATUREWatchTime
2024.02.21

ブランパン社長兼CEOのマーク A. ハイエックは熱心なダイバーだ。そのため、ブランパンのアイコンであるダイバーズウォッチ「フィフティファゾムス」が誕生70周年を迎えた2023年は、とりわけエキサイティングな年となった。3つの70周年記念モデルが発表され、さらにスウォッチとのコラボレーションモデルも話題となり、若い顧客層が拡充された。今回はマーク A. ハイエックにインタビューを実施し、2023年の振り返りと今後の展望を聞いた。

マーク A. ハイエック

画像提供:www.mauricehaas.ch
ブランパン社長兼CEOのマーク A. ハイエック。
Originally published on watchtime.net
Text by Rüdiger Bucher
[2024年2月21日公開記事]


「フィフティ ファゾムス」誕生70周年を振り返って

WatchTime:「フィフティ ファゾムス」が70周年を迎えた2023年、振り返ってみていかがですか?

マーク A. ハイエック:安定した良い年でした。中国からの観光客が突然いなくなった新型コロナウィルスの感染拡大から始まる、大きな挑戦を克服してきました。私にとっては、現在通常のリズムに戻り、国によっては新型コロナウィルス流行の前、あるいはそれ以上の水準に戻っていることは非常にポジティブなことです。

 そして、地元の顧客や近い地域からの観光客に、私たちの時計にさらに興味を持ってもらうことができました。私たちは、一定の市場と私たちのコレクションの両方において、活躍の場を広げることとなりました。

WatchTime:2023年の焦点は当然フィフティ ファゾムスでしたね。3つの記念モデルでも70周年を祝いました。顧客に最も人気があったのはどのモデルでしたか?

マーク A. ハイエック:特に人気の開きはなかったですね。限定モデルの「Act 1」と「Act 3」はすでに店舗では完売で、通常モデルの「フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ」(編集部注:「Act 2」)も、期待を上回っています。

フィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3

「フィフティ ファゾムス」の誕生70周年を記念するモデルの第3弾として発表された「フィフティ ファゾムス 70周年記念 Act 3」。

WatchTime:70周年記念モデルの第3弾「Act 3」の限定数は555本とされました。この数字はどのように決めたのですか?

マーク A. ハイエック:数字の5はフィフティ ファゾムズのモデル名に由来します。過去に、いくつかのフィフティ ファゾムズで限定500本としたものがありましたが、今回は555本としました。

WatchTime:限定モデルのうち、仕様が変更されて再登場するモデルはありますか?

マーク A. ハイエック:はい、何点か考えられます。私たちは将来、フィフティ ファゾムスのケースサイズを直径42.3mm、つまり「Act 1」と同じサイズにすることに決めました。クラシックなケース径45mmモデルやスモールバージョンの40.3mmモデルの中間となります。これは2024年の早い時期に実現するでしょう。

 フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサには、ベゼルが1時間単位で表示された3針モデルも用意される予定です。このモデルは、フィフティ ファゾムスコレクションのひとつのラインとして発展していくでしょう。一方で「Act 3」は特別な存在であり続けます。

マーク A. ハイエック、リュディガー・ブーハー

2023年9月の「Act 3」発表時に撮影された、マーク A. ハイエックと本記事を書いたドイツ版クロノス編集長のリュディガー・ブーハー。


ブロンズゴールドの採用とスウォッチとのコラボレーション

WatchTime:ブランパンは、オメガより早くブロンズゴールドをAct 3でケース素材に採用しています。この決断はどのようにして行われたのでしょうか?

マーク A. ハイエック:何年も前から、スウォッチ グループ内で安定したブロンズ素材を探し始めました。特にゴールドブロンズを作ろうという話ではありませんでした。しかし、37.5%、9カラットという高い金含有率を持つこの合金は、最終的に経年変化が起きにくいブロンズの技術的解決策として浮上しました。

 オメガとブランパンは、それぞれが開発に深く関わっています。オメガはその後、ある周年と結びつけて初めてこの素材を用いたプロダクトを発表しています。私たちにとって、10年後に緑青に穴が開かないブロンズを作ることが重要でした。高価な時計で、それは許容できないことです。ゴールドブロンズは非常に安定した素材でもあります。私自身、時間の経過とともに色が変わっていくブロンズが好きです。私たちは現在、今後数年で発表する予定のさまざまな革新的素材の開発を進めています。

WatchTime:2023年は、ブランパンとスウォッチのコラボレーションである「バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス」が発表された年でもありました。私たちは“ムーンスウォッチ”と同じような、市場の大きな反応を目の当たりにしました。この発表に関連して、どのような特別な体験がありましたか?

バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス

ブランパンとスウォッチが初めてコラボレーションした「バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムス」。画像はRef.SO35A100。価格は6万500円(税込み)。

マーク A. ハイエック:スウォッチとのコラボレーションがさらなる露出と新しい顧客層とのつながりをもたらしたこと、そしてブランパンというブランドについて語られる機会が増えたことを嬉しく思います。ブランパンのハイエンド製品はとても美しいものですが、その価格は潜在的な顧客の多くを遠ざけてしまっています。ブランパンであるということを除いても、スイス製の機械式腕時計を購入することは、多くの人にとって非常に敷居が高いものなのです。

 バイオセラミック スキューバ フィフティファゾムスはこの敷居を大幅に低くし、語ることの多い時計を世に送り出しました。パーツ数を抑えた純粋な機械式ムーブメントや、計器からライフスタイルのアイテムへと発展したダイバーズウォッチであるという点などです。もちろん、この時計を通して新規顧客から驚くほど多くの問い合わせがありました。ピークを過ぎた後も店舗への来店者数が大きく増加し、発表前の2倍ものレベルを保持し続けています。もちろん、ブランパンの潜在的な新規顧客もたくさんいます。

 ただ私にとって最も重要なのは、この流れがブランパンというブランド、そして私たちの海とのつながりやフィフティ ファゾムズという存在、そしてスイス製機械式腕時計の世界が、より多くの人々に知られたということです。


海洋保護活動への取り組み

WatchTime:オーシャンコミットメントの一環として、ブランパンは長いあいだ海洋保護活動の先頭を切ってきました。現在、最も重要なプロジェクトは何でしょうか?

マーク A. ハイエック:生物学者であり水中写真家でもあるローラン・バレスタのゴンベッサ(シーラカンス)の探検や、エコノミストのワールド オーシャン サミット(編集部注:英国の影響力ある週刊ビジネス誌)を支援し続けています。また、こちらも非常に重要なのですが、PADI(編集部注:Professional Association of Diving Instructors、世界最大の商業ダイビングトレーニング組織)とのパートナーシップです。これによって、ブランパンの名を耳にしたことのない人たちも含めた、何百万人もの人々にリーチできます。

 PADIで好きなのは、プロフェッショナルなダイバーはもちろん、基本的にすべての人を対象としているという点です。科学や行動、限界への挑戦ではなく、人々が海やダイビングに対して持つ恐怖を取り除き、水の世界の美しさを伝えるものなのです。また、私たちは多くの小規模のプロジェクトにも参加しています。その多くは限られた地域が対象ですが、大規模なプロジェクトを補完する大切なものでもあります。

フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ

「Act 2」こと、フィフティ ファゾムス誕生70周年記念モデルの第2弾「フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ」。

WatchTime:多くの消費者が環境保護や気候変動への取り組みに関心を持ち、ブランドにそれを期待しているという実感はありますか?

マーク A. ハイエック:はい、大いにあります。未来の世代の多くにとって、これらの問題に対する真正かつ効果的な取り組みは今後より大きなマーケティングの論点となるでしょう。彼らは環境保護や気候変動への取り組みに、ブランドがどれほど真剣に取り組んでいるかを注視しています。「良いブランド」になろうと、短期間に少額を投下して“グリーンウォッシング”をするのか、継続的に何年にもわたって取り組んでいるのか、というところをです。

WatchTime:あなた自身、非常に熱心なダイバーですよね。ダイビングをするときに着ける時計はなんですか?

マーク A. ハイエック:今は「フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ」ですね。私は主にリブリーザーを使ってダイビングを行うので、分単位というより時間単位を見ることが大切になってきます。ですので、同モデルのベゼルにある3時間目盛りは、一般的なダイバーズウォッチより役に立ちます。

マーク A. ハイエック

©Mark Strickland
マーク A. ハイエックは、熱心なダイバーとしても有名だ。


これからの展開と、創業290周年となる2025年について

WatchTime:多くの人にとって、フィフティ ファゾムズはブランパンの中で最も重要なラインです。この状況に満足されていますか? それともこれを上回るモデルを求めていますか?

マーク A. ハイエック:これまで、ブランパンは周期的に変化してきました。1950年代から70年代にかけてはフィフティ ファゾムスが明らかに主役でしたし、その後は長いあいだ「ヴィルレ」が主役でした。私がブランパンに入社した20年ほど前もそうでした。これはリファレンスを見ても分かります。フィフティ ファゾムスは40本ほどだったのに対し、ヴィルレは180本ほどありました。

 ヴィルレコレクションの開発は、長年にわたって非常に活発でした。近年、私たちはこのバランスをいくらか調整しようとしています。2023年は、70周年記念ということもあり、当然フィフティ ファゾムスが主役となりますが、近年はヴィルレの新作を集中的に作っています。2025年以降、多くの作品を見ていただけると思います。

WatchTime:2025年に、ブランパンは創業290周年を迎えますね。

マーク A. ハイエック:その通りです。それにふさわしいお祝いを考えています。複雑機構を備えた新しいムーブメントを開発するには、およそ5年から7年かかりますが、私たちは1000個以上のパーツを使用する大掛かりな複雑機構を含む、いくつかのムーブメントを発表します。これらはすべて別々に開発が進められていて、同じネジはふたつとしてありません。2025年を最も複雑な時計でスタートするつもりであり、さらに2026年、2027年へもつなげます。このために、近年ヴィルレについては常に活発な議論が社内で繰り広げられていました。

WatchTime:ブランパンは非常に薄い時計も重視してきました。複雑時計はそれなりの厚さになると思いますが、いかがでしょうか?

マーク A. ハイエック:このアニバーサリーウォッチは、フラットなモデルになるでしょう。また、ブランパンがこれまでにやったことのないことも盛り込まれます。「グランド・コンプリケーション 1735」以来、最も手の込んだものとなります。

グランド・コンプリケーション 1735

トゥールビヨン、永久カレンダー、スプリットセコンド・クロノグラフ、ミニッツリピーター、ムーンフェイズ、ウルトラスリムというブランパンが誇る6種の複雑機構を搭載し、1991年に発表した「グランド・コンプリケーション 1735」。

グランド・コンプリケーション 1735

「グランド・コンプリケーション 1735」に搭載されたムーブメント。

WatchTime:多くの大手時計ブランドは独自の販売チャネル、つまりブティックに力を入れ、従来の時計専門店との関わりを減らそうとしています。ブランパンでは、この点について今後どのようにしていくつもりなのでしょうか?

マーク A. ハイエック:私たちも自らのブティックを増やし、世界的に販売拠点の総数を減らしていく予定です。現在、直営店舗は総店舗数の10%ほどですが、今後増加させるつもりです。しかし、従来の専門店もパートナーとして維持していきます。

WatchTime:最後の質問です。今日はどのような時計を着用していますか?

マーク A. ハイエック:フィフティ ファゾムズ70周年記念モデルの「Act 3」です。発表からずっと着用しています。個人的にお気に入りの24番モデルを、自分自身のために確保しました。

WatchTime:2024年、ますます成功する1年となることをお祈りします。

マーク A. ハイエック:ありがとうございました。



Contact info: ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233


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