ティファニー 受け継がれるジュエラーメイドウォッチの精神

2025.06.08

初出展となったLVMHウォッチウィークで、ハイジュエリーとオートオルロジュリーの世界を融合させた快作を披露したティファニー。7月に迫った銀座の旗艦店オープンに向けて、3本のエクスクルーシブウォッチも発表された。ソーラー ムーブメントの新作「ロープ バイ ティファニー」ウォッチと併せ、新生ティファニーの来し方行く末を、時計製作を統括するニコラ・ボーに聞いた。

「カラット 128」アクアマリン ウォッチ ティファニー 銀座限定

「カラット 128」の横顔を象徴的に彩るアクアマリン製の風防。34.52ctの原石に、ザ ティファニー ダイヤモンドを模したファセット加工を施したことで、多彩な表情に変化する。写真からも分かる通り、スノー セッティングが施されたダイアルの視認性も保たれており、時分針は正確に読み取れる。
星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之:取材・文
Edited & Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


ティファニーのハイエンドウォッチメイキング

 2021年のLVMHグループ参画を経て、今年は満を持してLVMHウォッチウィークへの初出展も果たしたティファニー。21年にシャネルから招聘されたニコラ・ボーをティファニー オルロジュリーのヴァイス プレジデントに擁し、新たなウォッチメイキングの姿を模索し始めた。往年のジュエリーデザイナー、ジャン・シュランバージェの名を冠したオートオルロジュリーの新コレクションは、現時点におけるハイエンドウォッチメイキングの到達点だろう。アジア最大の旗艦店となる「ティファニー 銀座」のグランドオープンを7月に控え、3本の限定モデルが発表された。

「ジャン・シュランバージェ バイ ティファニー」バード オン ア フライング トゥールビヨン ウォッチ ティファニー 銀座限定

「ジャン・シュランバージェ バイ ティファニー」バード オン ア フライング トゥールビヨン ウォッチ ティファニー 銀座限定
ジャン・シュランバージェがデザインしたブローチ「バード オン ア ロック」をモチーフとしたフライング トゥールビヨン。天然ターコイズの象嵌で作られたダイアル上を2羽の鳥が羽ばたく。このターコイズは、閉山してしまったアリゾナの鉱山から採掘されたもので、今は失われた貴重な石だ。手巻き(Cal.AFT24T01)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径39mm)。3気圧防水。ティファニー 銀座限定各5本。要価格問い合わせ。

 まずは先のLVMHウォッチウィークでも大きな注目を集めた「ジャン・シュランバージェ バイ ティファニー」のフライング トゥールビヨン。1時位置にオフセットされた時分ダイアルには、ホワイトダイヤモンドに囲まれたイエローダイヤモンド、またはブルーサファイアを敷き詰め、それをターコイズの象嵌で表現されたメインダイアルの上に乗せる。ターコイズの空を舞う2羽の鳥は、シュランバージェの手による著名なブローチ「バード オン ア ロック」へのオマージュだ。18KWG製のケースにはパヴェダイヤのスノー セッティングが施され、リュウズは6本爪のティファニー® セッティングをイメージさせる。

 搭載されるムーブメントも圧巻で、ジュラ州の複雑時計工房・アルティムでのビスポークとなる手巻きトゥールビヨンは、6振動/秒でパワーリザーブが約50時間。香箱受けとキャリッジを支える受けには、やはり6本爪の意匠が盛り込まれている。ダイアル側に顔をのぞかせるキャリッジには、ファセット加工が施されたクリスタルカバーが被せられているのも特徴的だ。

「カラット 128」アクアマリン ウォッチ ティファニー 銀座限定

「カラット 128」アクアマリン ウォッチ ティファニー 銀座限定
ザ ティファニー ダイヤモンドのカッティングを模したアクアマリンの風防を持つハイジュエリーピース。ブレスレットの一部にもアクアマリンをセッティング。クォーツ。18KWGケース(縦27×横27mm)。ティファニー 銀座限定。要価格問い合わせ。

 もうひとつのハイライトは、ユニークピースとなる「カラット 128」アクアマリン ウォッチの限定バージョン。目の覚めるようなハイジュエリーウォッチの快作で、ザ ティファニー ダイヤモンドを模したフォルムにカットされたアクアマリンを風防として用いている。「カラット128」のブレスレットには251石のダイヤモンドが使用されているが、ティファニー 銀座限定ウォッチでは、ケースに近い側の12石がアクアマリンに変更されている(ダイヤモンド22ct超、アクアマリン4.8ct)。ブレスレット自体の動きは柔らかだが、左右や捻れの方向には適度な剛性感があり、ジュエリーブランドとしての節度を感じさせる。

ティファニー アップル ブロッサム ラペルウォッチ

©Tiffany Archives
1889年に製作された「ティファニー アップル ブロッサム ラペルウォッチ」。自由なハイジュエリーの精神と時計製作の技術を融合させた貴重なアーカイブのひとつ。
ティファニー製の懐中時計

©Tiffany Archives
1874年から約20年間、ティファニーはジュネーブのコルナヴァン広場に自社工房を構えていた。翌75年には時計の改良で初の特許を取得。後にこの工房はパテック フィリップに売却され、現在はホテルとなっている。
ティファニー製の懐中時計

©Tiffany Archives
アップル ブロッサムとともに、1889年のシカゴ万博に出品された男性用の懐中時計。ケースに施されたパールとエメラルドのフラワーモチーフが美しい。
ティファニー製の懐中時計

©Tiffany Archives
1912年に製作されたティファニー製の懐中時計。同年に起こったタイタニック号の事故に際し、救助された3名の女性から、捜索に駆けつけたカルパチア号の船長に寄贈されたティファニーウォッチ。残念ながら分針と秒針は欠落している。この時計は、7月にオープンするアジア最大の旗艦店「ティファニー 銀座」で展示予定だ。

「私たちはこの2年間で5つのコレクションを展開してきましたが、常に意識していることは、ジュエリーブランドとしての歴史とウォッチメイキングをいかにして融合させるかという1点です」

 そう語ってくれたのはティファニーオルロジュリー(時計製作部門)を統括するニコラ・ボーだ。しかし現在のティファニーウォッチは、価格帯という側面だけを見ても、幅広いレンジに拡散し過ぎているようにも感じられる。さらにその作風は、以前にも増してフェミニンだ。新生ティファニーでは、ウォッチのコアターゲットをどう分析しているのか?

「ロープ バイ ティファニー」ウォッチ 27mm、「ロープ バイ ティファニー」ウォッチ 33mm

(右)「ロープ バイ ティファニー」ウォッチ 27mm
こちらはスモールサイズの27mmケースで、マザー・オブ・パールのダイアル。2サイズ2カラーの全4型展開。同心円状に重ねられたロープの間には、38石(33mmケースは39石)のダイヤモンドをセッティング。ソーラー ムーブメント。18KYG+ダイヤモンドケース(直径27mm)。269万5000円(税込み)。
(左)「ロープ バイ ティファニー」ウォッチ 33mm
新機軸となるソーラージュエリーウォッチ。ムーブメントはラ・ジュー・ペレとの共同開発で、LVMHグループ参画によるシナジー効果を強く感じさせる。ブラックのダイアルは半透明のラッカーを薄く塗り重ねたもので、ダイアル直下にはソーラーセルを備える。ソーラームーブメント。18KYG+ダイヤモンドケース(直径33mm)。368万5000円(税込み)。

「ロープ バイ ティファニー」ウォッチ

ダイヤモンドを太陽に見立てた刻印は、ソーラーコレクションのために新たにデザインされたもの。バッテリーは、晴天時(屋外)ならば約14時間でフルチャージされ、約8カ月間の長期駆動を実現。

「我々はセグメンテーションありきでの時計作りはしません。結果的に幅広いセグメントになっているのならば、それはデザインの多様さを体現した結果でしょう。これがティファニーの在り方です。さらにジュエラーとしてのストラテジーを語るなら、フェミニンに傾くのも当然です。しかし現在では、そうしたものを男性も求めている。ここ20年間でのジュエリー業界の変化がそれを証明しています。我々は双方の感性をミックスさせたものを生み出してゆくべきなのです」

ジャン・シュランバージェデザインのリストウォッチ

©Tiffany Archives
ゴールド製の細い線材をロープ状に編み込んだリストウォッチ。球形にデザインされたヘッド部分に、ウォッチムーブメントが収められる。1956年から30年以上にわたってティファニーで活躍したジャン・シュランバージェの生家は、仏アルザス地方の名門テキスタイルメーカーで、幼少期から慣れ親しんだタッセルや編み糸などのイメージを、ジュエリーデザインと融合させた。
ジャン・シュランバージェデザインのリストウォッチ

©Tiffany Archives
こちらもジャン・シュランバージェのデザインによるリストウォッチ。製作はおそらく1960~70年代の間だろう。ベゼルに盛り込まれたロープ状のモチーフは、そのまま現代の「ロープ バイ ティファニー」ウォッチに継承されている。

 そうしたティファニーの多様性を象徴する新作が、やはりシュランバージェのアーカイブからアレンジされた「ロープバイ ティファニー」ウォッチだ。同心円を描く2本のロープで区切られた空間にはダイヤモンドをセッティング。搭載されるムーブメントは、新機軸となるソーラー発電式だ。ヘリテージを護り、発展させてゆく。新たなティファニーの躍進は、いま始まったばかりなのである。

ニコラ・ボー

ニコラ・ボー[ティファニー オルロジュリー ヴァイス プレジデント]
フランスのISGを卒業後、カルティエなどを経てシャネルに入社。19年の在籍期間中、宝飾と時計部門の責任者のほか、時計製作に関わるインフラ整備なども手掛け、2021年からティファニーに。現在の自分のミッションは何かと問うと、「65箇条のティファニーの素晴らしさを伝えること」と答えた。
ティファニー 銀座

7月11日(金)のグランドオープンを間近に控えた、東京都中央区銀座6丁目の「ティファニー 銀座」。ニューヨーク五番街の本店「ザ ランドマーク」のコンセプトを反映させたアジア最大の旗艦店となる。内装は日本文化に敬意を表した、唯一無二のものとなる予定だ。



Contact info: ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク Tel.0120-488-712


【お詫びと訂正】
本記事は2025年6月6日に発売された『クロノス日本版』7月号(第119号)P.142-145に掲載したものです。同記事のP.143におきまして誤りがございました。正しくは以下の通りです。読者の皆様ならびに関係者の皆様に、ここにお詫びして訂正いたします。

P.143 「カラット 128」の写真キャプション(説明文)原石のカラット数
誤:39.32ct
正:34.52ct


ジュエリーデザイナー、ジャン・シュランバージェの作品に着想を得た「ロープ バイ ティファニー」ウォッチを発表

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