G-SHOCKの最高峰コレクション「MR-G」の最新モデル「MRG-B2000BG-3AJR」。本作は“赤備え(あかぞなえ)” “勝色(かちいろ)”に続く、日本の武具にまつわる色をモチーフとしたシリーズの第3弾だ。今回取り上げられる伝統色は“鐵色(くろがねいろ)”。また、定番モデルとしては初めて、ケースとブレスレットもこの伝統色で彩った。本記事では、今や日本国内のみならず、海外市場でもプレゼンスを高めるMR-Gシリーズの最新作について、開発者へのインタビューを交えて解説していく。
鶴岡智恵子(クロノス日本版):文 Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
[2025年6月16日公開記事]
新作「MRG-B2000BG-3AJR」は“鐵色”がモチーフ
G-SHOCKの最高峰コレクション「MR-G」。毎年のようにバリエーションが追加され、コレクションが拡充される中で、最も定番と言えるシリーズが「MRG-B2000」だ。MR-Gが現在のポジショニングへと進む、明確なマイルストーンとなった「MRG-G1000B」がベースとなっており、甲冑をイメージさせる外装を持つ。
このイメージは、単に甲冑のフォルムや意匠を分かりやすく取り入れているという意味ではない。甲冑の持つ「強さ」をMR-Gの耐衝撃性や耐傷性で、「美しさ」を細部に至るまで施した仕上げで表現しているのだ。そんな甲冑に通じる強さ、美しさをユーザーにいっそう訴求するため、カシオは2015年以降、日本の武士が使った「武具」をモチーフとするモデルをMR-Gで展開するようになった。
このうち、限定ではなく定番モデルとして、武具に取り入れられた日本の伝統色をテーマとするのが、MRG-B2000の“赤備え(あかぞなえ)”と“勝色(かちいろ)”、そして今回リリースされた新作の“鐵色(くろがねいろ)”の「MRG-B2000BG-3AJR」である。

タフソーラー。フル充電時約26カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(縦54.7×横49.8mm、厚さ16.9mm)。20気圧防水。38万5000円(税込み)。
スペックやケースサイズは従来モデルに同じ。本作の最大の特徴は“鐵色”と呼ばれる、暗い青緑色で外装を彩っているところだ。この色は甲冑や刀など武具に使われる鉄を高温で加熱した時に表面に発現するもので、日本では鐵色としており、今回カシオはこの鐵色をモチーフに選んだ。
赤備えや勝ち色といった従来モデルは文字盤やベゼルのロゴにモチーフカラーを採用していた。しかし本作は文字盤だけではなく、深層硬化処理とDLCを施しているケースとブレスレットにも、この伝統色を施しているのだ。加えて文字盤には、古来から強さの象徴とされてきた亀甲文様をあしらっている。
なお、今回取り上げる「MRG-B2000BG-3AJR」のほか、ストラップモデルの「MRG-B2000RG-3AJR」も登場している。

タフソーラー。フル充電時約26カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(縦54.7×横49.8mm、厚さ16.9mm)。20気圧防水。38万5000円(税込み)。
こちらのモデルは再結晶化チタンベゼルを備えていることが特徴だ。チタンに熱を加えて再結晶化させることで、結晶粒によって独特のパターンを有したこのベゼルは、日本刀の刃文に見られる「沸(にえ)」が表現されている。またチタン製ブレスレットの替わりに付けられるストラップは、堅牢でありながらも柔らかいフッ素ラバー製デュラソフトバンドだ。
新作「MRG-B2000BG-3AJR」に表れるMR-Gの「つわもの」ぶり
鐡色を差し色としてではなく、外装全体に取り入れたMRG-B2000BG-3AJR。この彩りは、ただ意匠に変化をつけるためだけではない。本作が、そしてMR-Gコレクションが、武士の精神性や気高さを有した腕時計であることを、ユーザーに強く訴えかけるものとなっている。
あえての控えめな鐡色で表現したこと
本作は鐡色を取り入れたモデルとはいえ、その色調は控えめで、一見すると黒色にも見える。うっすらと深い緑を有しているといった程度だ。
なぜ、より分かりやすい、強い色調で彩らなかったのだろうか? また、なぜ鐡色をモチーフに選んだのだろうか? 本作の開発に携わった羽村技術センターの第二企画室に所属する石坂真吾の話から、この上品な彩りにこそ、MR-Gと「つわもの」の“らしさ”が表れていることが分かった。
「日本の武具、特に甲冑はMR-Gと共通するものがあります。例えば身を守るためのツールということ。G-SHOCKも、時計としての機能を耐衝撃構造によって守っています。また、共通点はこういった機能性だけではありません。武将は、自分のポリシーや考え方を甲冑や刀のデザインとして表現することで、武具に美しさも求めました。MR-Gは『強さと美しさ』がひとつのコンセプトであって、金属製の外装に、丁寧な仕上げや独自の色調を与えています。これらの共通項があるため、日本の伝統的な武具はMR-Gのデザインソースとなりやすいのです」
なお、石坂は刀匠と定期的に交流を図っており、その中で鐡色を見いだしたのだという。
「新しい表現を模索している中で、刀匠のところで鉄製品を熱した時に、青みがかった緑色が出ることを知りました。その時見たのは鉄扇(てっせん)だったんですけどね」
しかし、この緑をどこまで強くするかが、大きな悩みどころであったという。
「技術的な面で新しさはなかったのですが、緑をどの程度強くするのかという判断はとても難しかったです。時計業界のトレンドカラーに緑がありますが、いかにもな色調にしてしまうと、腕時計として着けにくくなってしまうな、と。品の良い感じを出したかった。ただ『(緑が)暗すぎる』という意見もあったので、試行錯誤の末、今の色味に落ち着きました」
同じく本作の開発を担当した第二企画室リーダーの佐藤貴康も、同様の難しさを感じていたという。
「デザインの中で『バランス』を考えるのが難しかったです。緑だけではなく、時計全体のカラーでコンセプトを伝えつつ、腕時計としてのデザインを損なわないというバランスの調整は、サンプルを見ながら何度も議論を重ねる必要がありました。MR-Gの新作モデルは毎年出ていましたが、MRG-B2000としては久しぶりのレギュラー商品でしたしね。ただ、苦労したポイントであると同時に、楽しかったポイントでもあります」
石坂は「MR-Gのユーザーには、もともとG-SHOCKファンで、年齢を重ねて役職に就いて、『G-SHOCKを着けたいけど、それなりの(質感を持った)腕時計を着用しなくては』という方もいますからね」と、ユーザー目線で緑を強くしなかった理由も語った。
明快なコンセプトを強調しすぎず、着用にはマナーが求められることも少なくない腕時計の側面を考慮した結果、「この」鐡色となった本作。武士道で大切にされてきたという「礼節」や「謙遜」に通じる色調と言えるだろう。
DLC加工でありながらグリーンをまとわせる
MR-Gの外装には、軽量で耐食性に優れるチタン素材を使っているうえ、DLCと深層硬化処理という、硬度を高める処理が二重に施されている。さらに今回、このDLC加工にカシオならではの技術が使われている。
DLCはダイヤモンドライクカーボンの略語で、素材の上に薄いカーボン膜を蒸着する表面処理法だ。ダイヤモンドに次ぐビッカーズ硬さが備わることで、優れた耐久性を獲得できる。一方でDLCは、通常、黒以外の彩色は難しいと言われてきた。しかしMR-Gでは2021年に「華婆娑羅(はなばさら)」というモデルで緑色のDLC加工を開発。今回のMRG-B2000BG-3AJRには、その技術が転用されている。
もともとはオシアナスで使われ始めた技術であると、オシアナスの商品企画を長く務めてきた佐藤は言う。
「オシアナスは『海』がテーマでしたから、ブルーDLCを使っていました。ただ、MR-Gはオシアナス以上に表面被膜の開発が重要です。武具をテーマとしたモデルをはじめ、さまざまな色を実現する必要があるためです」
もっとも、石坂は「MR-Gの色の表現をDLCで行うというのは、あまり使ってこなかった」とも語った。
「DLC自体は一般的な加工法です。しかし、ここに色を付けてとなると、特殊になる。技術的要因や、先ほどお話した『腕時計としての美観』という点から、あまりチャレンジしてこなかったのです。しかし華婆娑羅でグリーンDLCの新規開発に成功して、(アイデアを)温めていたというのがあって、今回量産モデルでも採用しました」
なお、今回のグリーンDLCは既存技術なので新規開発の苦労はなかったものの、色をコントロールする条件がシビアなため、一度のロットあたりで加工できる数が通常のDLCに比べて少なくなるという。
「普通はDLCって工具などのスペックを高めるために使われますよね。そんな中で腕時計のような嗜好品に、色付けという美観を目的に使うというのは贅沢ですよね」と、佐藤が付け加えた。
「強さ」「美しさ」が際立つディテール
MR-Gのコンセプトである「つわもの」のような強さ、そして美しさは、本作のディテールに宿っている。
カシオが「吉祥」と表現する文字盤は亀甲のパターンがプリントされており、かつ黒に近い緑が塗装によって着色された。インダイアルの強めの緑はメタル製のシートによるもので、光の当たり具合によって緑にハイライトが走ったり、黒い色調を帯びたりする。
一方で従来モデルと同様、文字盤には刀の反りをイメージしたインデックスが組み合わされている。樹脂製とは思えない際立ったエッジや挽き目加工によって、まるで金属のような質感だ。このインデックスは、マザー工場である山形カシオの、ナノ加工での成型技術が実現する。ゴールドカラーをまとった太いカーボン製の時分針や文字盤外周の屏風モチーフと相まって、気品がありつつも、自身の強さや権威を象徴するために装飾した「つわもの」の甲冑や刀を彷彿とさせる。
ケース、ブレスレットはサテン仕上げを基調に、一部にザラツ研磨を与えることで、高級腕時計のような、そして「つわもの」が愛した武具のような格調の高さを備えている。

強さという点では、G-SHOCKの耐衝撃性の話も欠かせない。樹脂製のG-SHOCKで実現してきた耐衝撃性をメタル製のMR-Gで実現するために、このコレクションはMRG-G1000B以来、クラッドガード構造を採用している。時計に衝撃が加わった際、モジュールに影響を与えやすいリュウズユニットを緩衝体で包み込んで保護することで影響を与えないようにした構造だ。「長く使い続けてほしいので、耐衝撃性や20気圧の防水性など、G-SHOCKらしい機能性も大切にしています」とは、石坂の言葉だ。
※αGELは、日本および他の国々におけるタイカの登録商標。
「つわもの」のごときG-SHOCKに、世界が注目している
“鐵色”をモチーフとすることで、「つわもの」としての強さや美しさが表現された「MRG-B2000BG-3AJR」。本作を一見すると控えめなバリエーション違いの意匠といったイメージを持つが、そのディテールを知れば、「つわもの」らしい品格や威厳が備わった、特別なG-SHOCKであることが理解できるだろう。
このMRG-B2000BG-3AJRをはじめ、日本の伝統文化が世界的に注目される現在、日本の武具をモチーフとしたMRG-B2000は、国内市場のみならず、海外市場でも高いプレゼンスを示している。石坂は「刀匠の月山貞伸氏が監修した『月山』というMR-Gのモデルを2022年にリリースしたのですが、この刀匠の工房に、購入者だという外国人観光客が訪れたといいます。ほかのモデルでも、そんな海外ユーザーのエピソードがあります。せっかく日本で製造して、日本をテーマにした腕時計を手掛けているので、この国の技術やカルチャーを発信していく、メディアのような役割にMR-Gがなれれば良いですね」と最後に語った。
G-SHOCKというひとつのジャンルを確立したカシオが、今、新たなるアイコンとして育てているMRG-B2000シリーズ。さらに強さ、美しさを追求して、海外ブランドに匹敵する腕時計となってほしい。