ハミルトンの2025年新作、「カーキ ネイビー スキューバ GMT オート」の実機レビューを行う。爽やかなカラーリングのダイアルにずっしりとしたケース、時針単独可動タイプのGMTムーブメントを搭載した本作は、夏場に大活躍するダイバーズウォッチだ。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年6月24日公開記事]
ハミルトンより、新作GMTダイバーズが登場
スウォッチ グループのミドルレンジブランドとして親しまれているハミルトン。アメリカで誕生し、その発展を支えた歴史を持つ同社は、他ブランドとは一風異なる独自性にあふれたデザインや革新性が魅力だ。そんな同社が2025年新作として発表したモデルこそ、今回インプレッションを行う「カーキ ネイビー スキューバ GMT オート」である。
アメリカ軍へ納入していたミリタリーウォッチをルーツとする「カーキ」コレクションは、パイロットウォッチの「カーキ アヴィエーション」、フィールドウォッチの「カーキ フィールド」、そしてダイバーズウォッチの「カーキ ネイビー」に細分化される。カーキ ネイビーに属する本作は、30気圧もの防水性とGMT機能を搭載したタフな1本だ。
ミリタリーウォッチ由来でありながらも、洗練されたデザインを持つカーキ ネイビー スキューバ GMT オート。デザインや機能性、着用感まで、実機を基にじっくりと味わってみたい。
2025年新作の「カーキ ネイビー スキューバ GMT オート」。温かみのあるシルバーダイアルに赤いGMT針がアクセント。自動巻き(Cal.H-14)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.9mm)。30気圧防水。19万8000円(税込み)。
ノスタルジックなクリームダイアル
ダイアルカラーは、公式の記載によるとシルバーだが、ややクリームがかったような優しい色合いを持つ。表面にはグレイン仕上げが施され、マットな質感が与えられている。日中の外のような強い光の下であっても目に優しい色味と仕上げは、アウトドアシーンで活躍するスポーツウォッチとしての実用性を高めてくれる要素だ。
インデックスは、ドットと台形型を組み合わせることで判読性を高めている。その内側にはライトグリーンの蓄光塗料が塗布され、クリーム色のダイアルとのコントラストを生んでいる。インデックスの背は高く、斜めからダイアルを見ることでその立体感を楽しむことが可能だ。ダイアルの外周にはグレーのミニッツスケールが配され、全体を引き締めている。
3時位置の小窓は、日付表示だ。ダイアルとデイトディスクの隙間はしっかりと詰められ、小窓の周囲に斜めのカットを加えているため、明るく見やすい。12時位置にブランドロゴ、6時位置に簡潔に機能を記したブラックのプリントもシンプルでクリーンな印象だ。キズミで見てもインクの滲みは見られない。針はダイアル側から風防へ向かって、GMT針、時針、分針、秒針の順に重なっている。センターに多くの針が重なる構造上、GMT針から秒針までの間にはかなりの距離ができてしまうが、間の抜けたような印象はない。
ずっしりボリューミーなケース
本作を手にしてまず驚くのは、そのずっしりとした重量感だ。ケースの直径は43mm、厚さ13.9mmと、カタログ値としても大ぶりな部類だが、ケースバックが薄く、ミドルケースに厚みが寄っているためか、塊感が強い。
逆回転防止機構が備わったベゼルには、24時間表記が刻まれたブラックのインサートがセットされている。ベゼルの縁には細かな刻みが施され、回転時のグリップを高めてくれる。ミドルケースは、全面ヘアライン仕上げで統一された、ツール感の強調されたソリッドなデザインだ。曲面を主体に構成され、3時側のケースサイドにはリュウズガードが形作られている。
ねじ込み式のリュウズは、トップにハミルトンの“H”マークをあしらったデザイン。大径のためつまみやすく、ねじ込みの解除も容易だ。ケースバックは薄く、低重心化に寄与している。ヘアライン仕上げのソリッドバック仕様のため、肌なじみも良く、汗をかく季節でもべたつきにくいだろう。
ステンレススティール製のブレスレットは、スポーティーな三連タイプ。しっかりとした厚みがあり、剛性感は十分だ。中央のコマの両サイドにはわずかにポリッシュが加えられ、無骨な中にも上品さを見せている。
バックルは、プッシュボタンによって開閉する三つ折れ式。大ぶりなスポーツウォッチではダブルロックであることも多いが、本作ではシングルロックだ。これをデメリットと取るか、あるいは脱着が容易であるとしてメリットと取るかは好みが分かれるだろう。価格帯を考えれば優れたブレスレットだが、微調整機構が備わっていないことはやや惜しい。ヘッドが重い本作では、緩めに着けると重量感をダイレクトに感じてしまう。手首回りをジャストサイズに調整する必要があるが、コマが大きいため、その抜き足しで調整するには限界があるからだ。
時針単独可動式のGMTムーブメント
GMTムーブメントには、大きくふたつの種類がある。時針を単独で可動させることができるものと、GMT針を単独で可動させることができるものだ。時針をローカルタイム、GMT針をホームタイムとして使用する場合、前者では運針を止めることなく時差調整を行うことができるというメリットがある。
本作に搭載されているムーブメントCal.H-14は、時針を単独で可動させることができる。リュウズのねじ込みを解除し、一段引きすることで時針を1時間単位に進めるか戻すことが可能だ。GMT針や分針を連動させて時刻修正を行う際は、二段引きの状態でリュウズを回転させる。日付の調整を行う場合は、一段引きの状態で1日につき時針を2周させる必要がある。少々手間がかかるが、その代わり日付は時針に連動して進めることも戻すことも可能だ。
Cal.H-14の特徴は、GMT機能を搭載しているだけではない。磁力や温度変化、衝撃への耐性を持つニヴァクロン製ヒゲゼンマイを搭載し、さらに約80時間ものパワーリザーブを備えた優れた実用性も魅力だ。
本作には24時間表記の回転ベゼルが搭載されており、このベゼルを活用することで、最大で3つのタイムゾーンを同時に表示することが可能だ。複数の国を行き来するユーザーにとっては非常に頼もしい機能である。操作音はガチガチと少し大きめだ。実際に操作してみて気付いたが、本作のベゼルは反時計回りにのみ、60クリックで回転する。つまり、ダイバーズ用の逆回転防止ベゼルをそのまま流用しているのだ。時差調整であれば逆回転防止とする必要はなく、さらに60クリックである意味もない。それでもしっかりとGMTウォッチとしての機能を果たすため、実用上の支障は少ないが、個人的には機能に合わせた動きをしてほしいと考える。
手首で味わう重厚なツール感
手に持つとずっしり重量級なカーキ ネイビー スキューバ GMT オート。しかし、実際に着用すると、想定していたよりも腕への負担が少ないことに驚く。これは、ブレスレットを筆者の手首回りジャストに調整することができたということと、ブレスレット自体に厚みがあり、ヘッドとの重量バランスが取れているためだろう。デスクワークでは少し窮屈に感じる着用感だが、レジャーシーンなどでは、どっしりとした着け心地が安心感を生み、よりアクティブになれることだろう。
視認性も十分だ。ドットと台形型を組み合わせたインデックスは、ライトグリーンの蓄光塗料のおかげで、しっかりと存在感を主張する。先端の赤い秒針は、クリーム色のダイアルの中で際立ち、時計が稼働状態であることを一目で見分けることが可能だ。GMT針にしても同様。ベゼル上の24時間表記も読み取りやすい。
そして忘れてはならないのが、30気圧もの防水性だ。突然の豪雨をものともしない高い防水性は、あらゆるシーンで気兼ねなく着用することができる。
これからの季節にぴったりな爽やかダイバーズ
手元で存在感を主張する大ぶりなケースに、爽やかな色味のダイアル、そして優れた防水性を誇る本作は、まさに夏を楽しむためのダイバーズウォッチである。インデックスや針には、加工時のバリや塗料のはみ出しなどもなく、グレイン仕上げのダイアルにおいても、各印字には滲みが認められない。全面にヘアラインを施したケースは、しっかりとエッジが立ち、ブレスレットの剛性感も十分だ。そして税込みで20万円を下回るプライス。デザイン、外装の仕上げ、ムーブメント、機能、価格と、複数の面で優秀な本作。そこに比肩する現行モデルは、そう多くないだろう。
もっとも、本作は重量級なため、1日中着用するには相応のエネルギーが必要であるし、ダイバーズ用の機構を流用したベゼルには、コストダウンへの苦慮が見え隠れする。それらをネックと考えないのであれば、本作は間違いなくおすすめできるモデルだ。