『クロノス日本版』の編集部員が話題のモデルをインプレッションし、語り合う連載。今回はバンフォードのダイバーズウォッチ「D 300」を好き勝手に論評する。アンダー30万円ながら、セラミックケースに300m防水性能を備えており、同社の腕時計のカスタムによって磨かれたセンスが感じられる1本だった。
Photographs by Masanori Yoshie
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
[2025年8月20日公開記事]
カスタムウォッチからスタートしたバンフォード
細田今回インプレッションするのは、バンフォードの「D-300」というダイバーズウォッチです。ブランドの正式名称はバンフォードウォッチデパートメントで、イギリス出身のジョージ・バンフォードが2003年に創業しました。彼は元々、時計のカスタムをしていたんですが、そのセンスの良さから他ブランドからも認められて、近年ではバンフォードとの公式コラボモデルが出るようになりました。
鈴木黒いロレックスとかは結構人気があるよね。
細田はい。それがスタート地点で、タグ・ホイヤーが早い段階から「タグ・ホイヤー モナコ」で公式コラボレーションをし、最近だとショパールやジラール・ペルゴともコラボしていますね。ただ、バンフォードの公式ページでは、現在でも公式コラボモデルとは別にカスタムウォッチが販売されています。他ブランドとも良い関係を築いているブランドなので、現在はさすがに勝手にカスタムモデルを販売しているわけではないと思いますが。
鈴木2023年には、タグ・ホイヤーとレーシングチームのチーム イクザワとバンフォードによるコラボウォッチも発売されましたね。それは元レーシングドライバーの生沢 徹氏の娘さんとバンフォードさん本人の話がすごく合って、それでコラボすることになったと伺いました。そうやってブランドの意図を組むのがうまいんですよね。
細田カスタムやコラボのイメージが強いバンフォードではあるんですが、実はオリジナルウォッチも作っています。今回のモデルを借りるに至った経緯を一応お話しすると、僕がずっと昔から欲しかったバンフォードとスヌーピーのコラボウォッチがあったんですね。残念ながら売り切れで買えなかったんですが、人伝でジョージ・バンフォード本人に尋ねたところ、売ってもらえたんです。その流れでPRチームから新作のインプレッションも記事にしてくれということで、今回のモデルが送られてきました。現在、日本に代理店はありませんが、基本的にオンラインサイトで日本からでも購入は可能です。
アンダー30万円&安定のCal/ETA2824-2はうれしい!
細田「D-300」はダイバーズウォッチで、その名の通り300m 防水の時計です。ケースはモデル名に「マットブラックセラミック」と書いてあるようにセラミックス製。ストラップはラバー製です。
鈴木これ、中身はセリタだよね?
細田中身はETAの2824-2が入っております。
鈴木そっか。これ、めっちゃ精度が良くて驚いたんだよね。

自動巻き(Cal.ETA 2824-2)。25石。2万8800振動/時。約38時間パワーリザーブ。セラミックケース(直径42mm、厚さ13mm)。300m防水。1500ポンド。
細田じゃあ、ムーブメントの話から行きましょうか。搭載しているのはETAの2824-2という、非常にオーソドックスな約38時間パワーリザーブのムーブメントです。このムーブメントって、調整をしっかりすると精度が出るんですよね。
鈴木そう。Cal.ETA2824-2って歴史は長いからね。約38時間パワーリザーブは現在の水準では超短いけど、自動巻きとしての安定感はあります。実際に着用してみたところ、T24で±0秒、T48も±0秒。で、T72で+4秒っていう恐るべき精度だったんですよ。ま、自動巻きなので、着用中にも巻き上がっているんだけど、それにしても良い精度だよね。
細田僕も2824を載せたダイバーズウォッチは3本ほど着けてきましたが、どれも整備されたものはばっちり精度が出ていました。今回の個体は国際郵便で送られてきたし、がっちり調整ができている状態とは思えなかったので、その精度はびっくりですよね。
鈴木こういう言い方をしちゃうとアレだけど、ETAポン(エボーシュとしてのETAをそのまま搭載すること)だと思うんだけど、それでこんなに精度出るのは凄い。衝撃的だよね。
細田やっぱり基礎体力が高いんだなって思います。
鈴木しかも、値段もそんな高くないでしょ。
細田1500ポンドですね。現在のレート(※2025年6月時点)では1ポンド196円ということで、大体29万4000円が販売価格です。ケース素材はブラックセラミックスで、ETAの自動巻きムーブメントを載せて30万円を切っているのは、非常に戦略的です。
重心の高さはやや気になる?
鈴木ただ、セラミックスでも意外と重かったよね。
細田着けた感じは重いですね。実測値は109gなので、まぁ特別軽くも重くもないのですが。
鈴木やっぱりバランスだよね。重心の位置で重く感じるんだと思う。ちょっと腕が持っていかれる感じがあるから、重心が高いのかと。
細田ストラップにも要因はあると思います。薄めですごく柔らかいラバーなので、これがもっと厚手だったら、重さが分散されて重量感は軽減されるかもしれないですよね。
鈴木あと、この価格なので、セラミックケースといえどインナーケース入ってるでしょ?
細田スペックシートには、インナーチタニウムコアと書いてありますね。
鈴木ケースバックはチタンだから、チタン同士でねじ込んで止めているなら、この価格のものとしては凄いね。チタン同士だと噛み合っちゃう可能性があるから。
細田アレルギーフリーという意味でも、肌に触れる部分がチタン製なのは良いですね。夏時計としてもぴったりです。
大橋夏時計として考えると、ストラップは気になりました。汗がかけるように裏に溝がありますけど、逃げ道がないので、汚れが溜まりやすかったですね。
細田僕も結構水が溜まりました。
鈴木この価格だからしょうがないけど、気を遣っているようで、逆に良くなかったですね。
細田この溝に溜まると拭いても綺麗にならないしね。なかなかしんどいストラップだなと。まぁ、ダイバーズなので、汚れたらジャブジャブ水洗いですね。
鈴木ストラップのディテールはちょっと惜しいけど、価格を考えたら、まぁ許せるかなぁ。
バンフォードお得意の明るいブルーが絶好のアクセントに
鈴木それからやっぱり、デザインはいいよね。さすがバンフォード。この水色使いってバンフォードの特徴だよね。
細田そうですね。例えば、さっきも話題に上がったタグ・ホイヤーのモナコとのコラボモデルには、カーボンの中にブルー系の樹脂を混ぜ込んでいて、バンフォードといえばブルーのイメージは強いかなと感じています。「D-300」も色んなカラーが展開されていますが、PRがこのモデルを送ってきたということはやはりこれが一押しなんだろうと思います。
鈴木ロレックスのカスタムで言うと、真っ黒のデイトナから始まったから、バンフォード=真っ黒の印象があったけど、それに加えて最近は爽やかなスカイブルー系の差し色のイメージもある。だから、このモデルがすごくバンフォードっぽいよね。
細田それから、デザインの観点では、クッションケースに丸いベゼルを組み合わせているから、実は70年代風というか。デザイン自体もよくある最近のダイバーズというより、ちょっと昔っぽいダイバーズの雰囲気になっています。でもモダンに見えるバランスになってる。
大橋クッションケースなんだけど、クッションを強調しすぎていないところがいいですね。
細田モダンだよね。うまいなと思います。
細田ケース径は42mmですが、クッションケースでラグが極端に短いので、42mmほどの大きさは感じないですね。ケース厚も13mmありますが、そのうちベゼルの高さが結構あるので、ケースそのものの厚みはそこまで感じない。だから、全体的に大きさは感じづらいかな。
鈴木300m防水にしては薄いよね。ベゼルを入れなかったら10mmを切ってる。
細田ベゼル側面をポリッシュ仕上げにして見た目のメリハリもあるので、デザイン的にも厚さを感じさせません。
鈴木一方で、ベゼル上面はマットにして溝も入れているし、やっぱ仕上げが上手いね。
大橋ベゼルに同心円状に溝を入れている時計もあまりないように思います。
鈴木そういえば、さっきの重心が高いという話は、もしかしたらベゼルが高い分、上面の重量が重くなっているのかもね。
細田サファイアクリスタル風防が重いですからね。サファイアの位置が高くなればなるほど、そのバランスも崩れますし。
鈴木プラス、これだけ厚みのあるベゼルだからね。そこの部分はデザインにちょっと寄りすぎたけど、街使いで考えれば、デザインとしてはアリだと思います。
細田視認性の話をすると、正直、針に関しては平べったすぎるかなと感じました。まぁ価格相応なのでしょうがないんですけども。
鈴木まぁでも秒針以外は夜光がしっかり載ってるんで。立体的ではないけど、暗所で見ても光ってさえしてくれれば時間は分かりますから。それから、明るいところで見ても、しっかりコントラストは取れているので、視認性は悪くないですね。
細田ただ、ダイビング時に時計が動いているかの確認のためには秒針も光っている必要はあるんですけどね(苦笑)。
鈴木そうか(笑)。でも、総合的には優れた時計です。
総合的には、非常に競争力の高いダイバーズウォッチ
細田大橋君だったら、この時計でどういうシーンで着けますか?
大橋未来的な雰囲気のデザインなので、僕だったら街使いにするかな。海にも潜る細田さんは、海で使うとしたらどうですか。
細田このスペックだったら全然問題なく潜れますよね。もちろん、ダイコン(ダイブコンピューター)を着けることは前提ですが。ダイバー目線では、ストラップが長いので、ダイビングスーツの上からでも巻けるようになっているなと感じます。ダイビングの時のために6時側のストラップを長く取ってるんですよ。この手のダイバーズのラバーストラップって、普段使い用の長さになってるから、潜る時はエクステンションを付けたりすることがあるんです。でもこれなら1本のラバーストップで、普段とダイビング、どっちにも使える。そういう意味では非常に使い勝手がいいし、優れてます。
鈴木ファッション寄りのブランドと思いきや、意外にちゃんとしてるんだね。
細田実際に潜る人は少ないと思うんだけど、潜ることをちゃんと考えた実はストラップになってる。僕はこのストラップはヘッドを支えるという意味ではイマイチな部分もあるけど、ダイバーズウォッチであろうとしてるという姿勢は、すごく評価できるかなと。
大橋ところで30万円台で買えるセラミックスの機械式時計って、なかなかないですよね? パッと思い浮かぶものとしては、エドックスのネプチュニアンはあるけど……。もう少し価格を抑えたところではセイコー プロスペックスもありますね。
細田その辺がコンペティターですよね。30万円台のダイバーズウォッチの選択肢として「D-300」はすごく強いなと思います。
鈴木価格的にメイドインチャイナの素材はもちろん使っているだろうけど。
細田スイスメイドの表記は入っているので、スイスネス法的な意味合いでの基準は満たしています。価格ベースで60%以上ですね。
鈴木ETA の2824-2を載せて、セラミック外装で、インナーもチタンでって考えると、なかなかないよね。送料プラス関税の金額ものっかるけど、ECで買えるし。想像以上にスペックが高いので、いいと思います!