ジャガー・ルクルトを代表するコレクションのひとつ、「レベルソ」。ポロ競技における風防の破損を防ぐために開発された反転式ケースを特徴とするレベルソは、その伝統に同社らしい革新性を取り入れ、さまざまなモデルを生み出してきた。

Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月2日公開記事]
ジャガー・ルクルト「レベルソ」の種類
ポロ競技を嗜むインド駐在のイギリス人将校の要請によって1931年に誕生し、ジャガー・ルクルトを代表するコレクションとしてアップデートを重ねてきた「レベルソ」。強い衝撃が加わるポロ競技において、風防の破損を防ぐための反転式ケース構造にアールデコ様式を融合させたレベルソは、基本的なデザインを変えることなく、長い期間にわたって数多くの派生モデルを生み出してきた。今回はそんなレベルソのバリエーションとともに、その奥深さと個々の魅力に触れていきたい。
デュオかモノフェイスか

“表”はラッカー仕上げのインクブルーダイアルを見せるケース。しかし反転させると、シックなシルバーダイアルがのぞく「デュオ」モデル。手巻き(Cal.854)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPGケース(47×28.3mm、厚さ9.6mm)。3気圧防水。429万2000円(税込み)。
レベルソの種類を語るにあたって、外すことのできない軸がある。デュオかモノフェイスか、つまりケースを反転させることによってふたつ目のダイアルが出現するかどうかである。
レベルソの反転式ケースは、ポロ競技による衝撃から風防を守るために生まれた。ひっくり返すことによってダイアルは完全に隠され、代わりに無地の金属製ケースバックが現れるモノフェイスが、もともとのレベルソの姿である。やがて、1990年代に入り再び機械式腕時計への注目が集まりはじめると、その無地の空間に第2のダイアルを配したデュオフェイスが誕生した。一部の上流階級が嗜むポロ競技のプレイヤーだけではなく、より広範な腕時計愛好家を独自の機構で楽しませるコレクションへと昇華させたのだ。
モノフェイスの良いところは、レベルソのオリジナルの姿を楽しむことができるという点にあるだろう。現行モデルの風防に用いられているサファイアクリスタルは、そう簡単に破損することはない。衝撃からの保護という観点では、もはや反転式ケースのメリットは大きくないだろう。しかし、1931年の初代モデルから続く最大の特徴が、現行モデルにも変わらず受け継がれているというのは、何物にも代えがたい価値である。

それだけではなく、モノフェイスにはケースバックにエングレービングを施すことができるというメリットもある。自身のイニシャルや記念日の日付、座右の銘やメッセージなどのテキストだけではなく、イラストまでエングレービングすることが可能なのだ。自分だけの1本としてパーソナライズすることで、愛着も湧くことだろう。
一方でデュオフェイスの場合は、1本の腕時計で2本分のデザインを楽しむことが可能である。メンズモデルでは「レベルソ・デュオ」、レディースモデルでは「レベルソ・デュエット」の名称が与えられており、例えば表面はシルバーダイアル、裏面はブラックダイアルのモデルであれば、服装やシーンに合わせ、ふたつのダイアルを切り替えて着用することが可能だ。モデルによっては、表面の落ち着いたデザインのダイアルを反転させることで、遊び心を効かせたダイアルとダイヤモンドをあしらったケースが登場するものもある。ビジネスシーンでは表面のダイアルで着用し、オフタイムは裏面に切り替えリラックスした時間を過ごすという使い分けもできるのだ。
また、レベルソには数々の複雑機構を搭載したモデルも存在し、ケースを反転させることで積算計などを配したダイアルが出現するものもある。どうしてもダイアルが煩雑になりがちなコンプリケーションウォッチだが、レベルソであれば普段はシンプルなダイアル、機能を使うときのみケースを反転させることもできる。
「レベルソ・トリビュート」「レベルソ・クラシック」「レベルソ・ワン」
レベルソには、デザインの系統が3種類存在する。それが、「レベルソ・トリビュート」「レベルソ・クラシック」、そして「レベルソ・ワン」だ。それぞれ違った魅力を味わうことができる。
レベルソ・トリビュートは、1931年の初代モデルを受け継ぐデザインが特徴だ。ドーフィン型の時分針と細長い砲弾型のアプライドインデックスを組み合わせており、すっきりとした印象に仕上がっている。
よりクラシカルなデザインを与えられているのが、レベルソ・クラシックである。こちらはブルースティールのバトン型時分針や丸みを帯びたアラビア数字インデックスを採用しており、一部にギヨシェ装飾を施した表情豊かなダイアルが特徴だ。現行のレベルソとして真っ先に思いつくのが、このレベルソ・クラシックだろう。
レベルソ・ワンは、レディース向けにデザインされたレベルソだ。ドーフィン型の時分針とアラビア数字インデックスを組み合わせている。アラビア数字のフォントは、レベルソ・クラシックよりも細く繊細なタッチが採用されており、さらにレイルウェイミニッツトラックがないことで、より優雅な印象にまとめられている。ダイアル中央から放射状に広がるギヨシェ装飾とケースにセットされたダイヤモンドも相まって、まるでアクセサリーのようにも楽しむことが可能だ。

そのほかサイズ、素材、機構によって多彩にラインナップ
これらに加え、レベルソには豊富なサイズ、素材、機構のバリエーションが存在する。サイズは主にラージ、ミディアム、スモールの3種類に大別され、細かな寸法はモデルや時代によって異なる。レベルソ・トリビュートではラージとミディアム、レベルソ・クラシックではラージ、ミディアム、スモール、レベルソ・ワンではスモールに相当するサイズで展開されている。レクタンギュラーウォッチはカタログ上の数値から受ける印象と、手首に装着した際の感覚が異なる場合も少なくない。サイズの選定にあたっては、豊富なラインナップを取り揃える正規店での試着をおすすめしたい。
現行のケース素材は、基本となるステンレススティールに加え、18Kホワイトゴールドや18Kピンクゴールドを採用している。日常的に着用するのであれば傷の付きにくいステンレススティール、華やかなドレスウォッチとして着用するのであれば18Kピンクゴールドなど、予算だけではなく着用シーンも考慮して選択するのが良いだろう。
そのほか、クロノグラフやコンプリートカレンダー、トゥールビヨンをはじめとする数々の複雑機構を搭載したモデルがラインナップするのも、屈指のマニュファクチュール、ジャガー・ルクルトならでは。これらのコンプリケーションウォッチは、反転式ケースの特徴を生かした構造を有していることも特徴だ。
現行「レベルソ」からオススメを紹介!
このように豊富なバリエーションが存在するレベルソ。ここからは、特におすすめしたい3つのモデルを取り上げて紹介する。
「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」Ref.v

シンプルさの際立つモノフェイスモデル。レベルソの魅力を堪能することのできる基本となるモデルだ。手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦40.1×横24.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。142万5600円(税込み)。
オパリン仕上げのシルバーグレーダイアルを採用したレベルソ・トリビュートのモノフェイスモデル。初代モデルのデザインを受け継ぐデザインや、アプライドインデックスがもたらす高級感、ミディアムサイズなど、タイムレスでシンプルなルックスは、年齢を問わず使いやすく、永く愛用することができるだろう。モノフェイスのため、ケースバックにエングレービングを施すことができるのも魅力。ちなみにエングレービングは購入時だけではなく、購入後に個別に申し込むこともできる。
ケースはステンレススティール製。厚さは約8mmと、シャツの袖にもすっきりと収まるサイズ感だ。内部には自社製の機械式手巻きムーブメントCal.822を搭載しており、日々自分の手で主ゼンマイを巻き上げる操作を楽しむことができる。レザーストラップにはフォールディングバックルが装着され、ストラップを痛めにくく、手首への着け外しも簡単に行うことができる。
「レベルソ・クラシック・ラージ・デュオ・スモールセコンド」Ref.Q3848422

シルバーとブラックのダイアルを備えたデュオフェイスモデル。ふたつのダイアルを用いて、GMTウォッチとして使用することもできる。手巻き(Cal.854)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦47×横28.3mm、厚さ10.34mm)。3気圧防水。219万1200円(税込み)。
ケースを反転させることで第2のダイアルが出現するデュオフェイスモデル。表面は、クル・ド・パリのギヨシェ装飾を施したシルバーダイアルにブラックのアラビア数字インデックス、ブルースティールのバトン型時分針、スモールセコンドを組み合わせた、レベルソ・クラシックとしてのベーシックなデザイン。
ケースを反転させると、モノトーンのブラックダイアルに切り替えることができる。丸型のレイルウェイミニッツトラックや、その外側に施されたクル・ド・パリのギヨシェ装飾、そして6時位置にはデイ&ナイト表示が配されている。
それぞれ印象の全く異なるダイアルは、1本で2本分の使い分けを可能としてくれる。持ち物が限られる旅行や出張中でも、ダイアルを切り替えるだけで、まるで別の時計に変えたような新鮮な気持ちを味わうことができる。ふたつのダイアルは個別に時間調整を行うことが可能であり、GMTウォッチとして使うこともできる。
「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」Ref.Q389848J

シンプルなダイアルと背の低いプッシュボタンによって、外見からはクロノグラフとは分からない。ギャップの大きいふたつのダイアルを楽しむことができる、レベルソの反転式ケースを生かしたモデルだ。手巻き(Cal.860)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。3気圧防水。420万2000円(税込み)。
サンレイ仕上げのブルーグレーダイアルを備えたレベルソ・トリビュート。モノフェイスモデルと同じデザインのシンプルなダイアルだが、ケースをひっくり返すことによって積算計を搭載した第2のダイアルが現れるという仕組みになっている。
裏面のダイアルは、センターに時分針による時刻表示とクロノグラフ秒針を備え、6時位置にはレクタンギュラーケースに合わせた円弧状の30分積算計が備わっている。ストライプ装飾が施されたムーブメントは、コラムホイールやテンプをじっくりと鑑賞することが可能だ。
機械が好きな人にとってはたまらない魅力を持つスケルトンウォッチ。しかしそのデザイン故に、ビジネスなどの場では着用しにくいことが悩ましい。このレベルソ・トリビュート・クロノグラフであれば、普段は落ち着きのある表面のダイアルで使用し、こっそりとケースを反転させてムーブメントの精緻な仕上げと動きに酔いしれるという使い方をかなえてくれる。




