元プロボクサーという異色の経歴を持つ俳優・タレントの赤井英和。親しみやすい関西弁と豪快な人柄で、幅広い世代から愛されている人物だ。2015年には肉体改造のビフォーアフターで話題を呼んだライザップのCMに出演し、その後も俳優として第一線で活躍を続けている。先日は松竹創業130周年記念の大阪松竹座さよなら公演「じゃりン子チエ」にも出演し、話題を呼んだ。今回は、そんな赤井英和が愛用する時計にフォーカスする。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2025年12月7日掲載記事]
松竹創業130周年の記念公演「じゃりン子チエ」に出演
大阪の娯楽、芸能シーンを長きにわたり支えてきた大阪松竹座が、2026年5月をもって設備老朽化のため閉館する。その「さよなら公演」のひとつとして上演されたのが、大阪の下町を舞台とした「じゃりン子チエ」。この作品で赤井英和は、主人公チエのダメな父親テツを一喝する、かつての小学校の担任教師・花井拳骨を演じている。いつまでも変わらずやんちゃなテツを叱る、いわばお目付け役的な存在である。
公演を観た原作者のはるき悦巳は「素晴らしいキャスティングと演出で、あっという間の2時間半でした。できればもっと観ていたかったです」と熱い感想を寄せている。初演は2025年11月15日で、昼夜の2公演を行い、11月25日が千穐楽(せんしゅうらく)。心温まる家族の掛け合いが、多くの観客の胸を打ったのだ。
興味深いのは、赤井英和の出身が大阪市西成区であることだ。ここは作品の舞台である架空の「西萩町」のモデルとなったといわれる地域で、作中に登場する「喫茶ハマヤ」も、南海線の萩ノ茶屋駅ガード下にある実在の「喫茶ハマヤ」がモデルだとされている。まさに生まれ育ったエリアの雰囲気を知る赤井英和だからこそ、あれほど熱のこもった演技が披露できたのではないだろうか。
“浪速のロッキー”の異名を持つ元プロボクサー
赤井英和といえば、俳優やタレントとしての顔が広く知られているが、実は元プロボクサーである。若き日の赤井は、中学・高校時代に喧嘩に負けたことがなく、大阪一帯にその名が知られた伝説的な存在だった。しかし彼は自分より弱いものには決して手を出さず、常に「ここで一番強いの誰や! 勝負せい!」という道場破りスタイルの喧嘩を繰り返していたとされている。もっとも本人によれば、実際には両手の指に数えるくらいしか喧嘩をしたことがないそうだ。
そんな赤井は、高校入学と同時にボクシング部で本格的に頭角を現す。3年生の時にはライトウェルター級でインターハイ、さらにはアジアジュニアアマチュアボクシング選手権を優勝するという輝かしい実績を残した。その才能を買われ、近畿大学へ進学。そこで東京オリンピック日本代表の浜田吉治郎の指導を受けた後、満を持してプロへと転向したのである。
プロボクサーとなってからの赤井の快進撃は、まさに圧巻だった。4戦目の全日本新人王決定戦で尾崎富士雄に3ラウンドKO勝ちを収め、ジュニアウェルター級全日本新人王のタイトルを獲得。さらに、当時の日本記録であるデビュー以来12試合連続ノックアウト勝ちという前人未到の快挙を成し遂げたのだ。そのアグレッシブなファイトスタイルから、“浪速のロッキー”という愛称がついたのはこの頃である。
しかし、栄光の日々はそう長くは続かなかった。世界選手権にも挑戦したものの、7ラウンドでTKO負けを喫してしまう。一度は引退をほのめかすも、諦めきれなかった赤井は、再び世界を目指すことを決意した。ところが2度目の世界タイトルを目指す前哨戦として挑んだ試合で、強打を受けすぎて意識不明に陥ってしまう。
この時、急性硬膜下血腫、脳挫傷と診断され、緊急の開頭手術が行われた。搬送時の生存率は20%、術後生存率50%。まさに生死の境をさまよう極めて重篤な状態だったのだ。奇跡的に回復を果たしたものの、医師からボクサーの引退を強く勧告され、ここに赤井英和の現役生活は終わりを告げたのである。
左腕にパネライ! 愛用するのは「ルミノール マリーナ」
そんな赤井英和の腕元を飾るのが、パネライの「ルミノール マリーナ」である。TBSラジオ「竹中直人〜月夜の蟹〜」にゲスト出演した際に、Xへ投稿された画像にその姿が捉えられている。タンカラーのレザーベルトが、無骨ながらも温かな印象を醸し出し、赤井英和のキャラクターとぴったりマッチしているではないか。この日の放送では、共演中のドラマ「裏社員。-スパイやらせてもろてます-」の裏話も披露され、大いに盛り上がった回だった。
今宵は、たまらず乱入⁈のサプライズも!俳優でタレントの #赤井英和 さんをお招きしての第2夜🌒 #TBSラジオ 『 #竹中直人 〜月夜の蟹〜』は、今日の夕方5時30分から! #月夜の蟹 #皆川玲奈 #裏社員。 #WEST。 pic.twitter.com/pFVoHzuBBC
— 「竹中直人~月夜の蟹~」(TBSラジオ) (@tukiyo954) May 11, 2025
ここで、パネライについて触れておこう。イタリア海軍から依頼を受けた厳しい基準を満たす精密機器を納入してきたことにルーツを持つこのブランドは、ミリタリーテイストあふれるデザインと、計器としての確かな実用性が大きな魅力となっている。時計店兼工房としての創業は1860年に遡り、3代目の時代に海軍からの発注を得て、4代目の時代にはイタリア海軍とパネライの関係はより深いものとなっていった。
その中でも特筆すべきは、1950年代に完成した「ルミノール」である。特許を取得したレバーロック式のリュウズプロテクターを備えたこのモデルは、ケースから大きく飛び出した半円形のガードが特徴的で、これこそがパネライのアイコン的な存在として現代に受け継がれ、多くの時計愛好家たちから人気を博している所以でもある。
赤井英和のモデルも、潜水中に時計が作動していることをひと目で視認できる大振りのスモールセコンドが44mmのケースの中にバランスよく収められている。深海で高い視認性を確保するサンドイッチ構造のアラビア数字インデックスを備え、防水機能は300メートルという、まさにプロフェッショナルのための時計と言えるだろう。
振り返ってみれば、ボクサーとしても、俳優・タレントとしても、常にプロフェッショナルであることを貫いてきた赤井英和。その確固たる信念と生き様は、彼の子どもたちにもしっかりと引き継がれているようだ。長男の英五郎はプロボクサーおよび映画監督として、次男の英佳はハリウッド俳優として、そして次女は女子プロレスラーとして活躍した後、現在はファッションモデルおよびタレントとして、それぞれが自らの道を切り開いている。まさに父の背中を見ながら、自身の道を見つけたのだろう。
今年66歳を迎えた赤井英和だが、舞台やドラマでまだまだ現役世代として活躍を続けている。これからも家族の絆を大切にしながら、その力強い姿を見せ続けてほしいと、多くのファンが願っているに違いない。

手巻き(Cal. OP II)。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径44mm)。300m防水。終売モデル。



