2025年6月にリリースされた「MTG-B4000B」は、“異素材の融合”というMT-Gシリーズのコンセプトはそのままに、カシオウォッチの市販品では初めて、開発プロセスにAIが取り入れられたモデルだ。MT-Gらしいインダストリアルな印象は保ちつつも、従来モデルよりもプロポーションはスマート。実にカシオらしい、チャレンジングな姿勢を感じさせるタイムピースである。

Photographs & Text by Yuzo Takeishi
[2025年12月XX日公開記事]
コンセプトモデルが発端となったAIによる開発プロセス
MT-Gのファーストモデルである「GC-2000」が発売されたのは1999年のこと。このときに掲げられた、“メタルと樹脂の融合”というコンセプトはその後も継続され、MT-Gの現行ラインナップもG-SHOCKらしいマッシブなプロポーションを保ちつつも、金属素材を組み合わせることによって高級感が漂うルックスに仕上げられている。
2025年6月に発売された「MTG-B4000B」ももちろん、このコンセプトを踏襲したモデル。外装素材にはステンレススティールとカーボンファイバー強化樹脂が使われているが、これまでのMT-Gと決定的に異なるのは、AIを取り入れながら開発されている点。これはカシオウオッチの市販品としては初めての試みとなる。

タフソーラー。フル充電時約18カ月駆動(パワーセーブ時)。SS×カーボンファイバー強化樹脂ケース(縦56.6×横45.3mm、厚さ14.4mm)。20気圧防水。17万6000円(税込み)。
カシオがAIを駆使して作り上げた最初のモデルは、2023年に発表された「G-D001」だ。これは、G-SHOCK初のコンセプトモデルである「DW-5000 IBE SPECIAL」に続く、ドリームプロジェクトの第2作。このモデルでも外装には18Kイエローゴールドが用いられたが、何より視線を釘付けにしたのが、いくつものフレームが複雑に交錯する有機的な造形だ。果たして今後、AIはどのような形でカシオの市販モデルに取り入れられていくのか。当時、筆者の興味と期待はそこにあった。

G-SHOCK誕生40周年を記念して製作された、ドリームプロジェクト第2弾の「G-D001」。このモデルで用いられたAIの開発プロセスが、「MTG-B4000」にも取り入れられた。
AIとの共創で実現したMT-Gらしくも先鋭的なデザイン
G-D001の発表から約1年半。AIを駆使して開発された市販モデルは、MT-Gという(個人的には)意外なシリーズからリリースされた。G-D001の造形が奇抜すぎた反動からか、MTG-B4000Bに対して抱いたのは「MT-Gなのにスマート」という第一印象だ。それもそのはず、AIと開発陣との共創によって実現したのは、新しい耐衝撃構造とスタイリング。ケースを取り囲むようにカーボン積層フレームを配置し、それを12時と6時側のメタル製パーツが支える新構造により、ケースとストラップを繋ぐビスもなくなり、すっきりとしたルックスを生み出していたのだから。

これにより、ケースサイドにはカーボン積層フレーム特有のストライプパターンが表れるが、この意匠を強調せず、適度なアクセントにとどめているのも好印象だ。もっとも、個人的に気に入ったのは6時側からのビュー。カーボン積層フレームとスレンレススティール製のベゼルが組み合うデザインは、モダンな建造物やフューチャリスティックな乗り物を思わせ、G-SHOCKの造形が新たな領域に突入したことを感じさせてくれる。
これはベゼルをはじめとするメタルパーツの彩色や仕上げによるところも大きいだろう。特にMTG-B4000Bは、IP加工によるブルーグレーの色調が落ち着きを漂わせつつも、独特の存在感を放っている。しかも、メタルパーツは面ごとにヘアラインとポリッシュで細かく仕上げ分けを行う徹底ぶり。時計に光が当たると、カーボン積層フレームの間で、メタルパーツの一部がキラリと輝く様子もまた、満足感を与えてくれる。

G-SHOCKらしく、実用性は文句なし
本作のケースサイズは45.3mm。一般的な機械式時計と比較すると十分に大きいが、着用感はかなり良い。フルチタンやフルカーボンの時計は、確かに軽快ではあるのだが、「手首に時計が載っている感覚はあるのに重さを感じない」のは、個人的にどうにも違和感がある。ところが本作は、ステンレススティールとカーボンファイバー樹脂を組み合わせているため適度な軽さと重量感があり、それゆえにヘッドの重みで時計が傾くようなこともない。着用者の好みにもよるが、この重量バランスは高く評価したい点だ。
また、判読性の高さは「さすがG-SHOCK!」といったところ。ダイアルの構成要素は例によって多く、3時位置に第二時間帯表示、4-5時位置に第二時間帯の午前/午後表示と曜日表示、7-8時にファンクション表示、10時位置に24時間表示とかなりの混雑ぶりだ。しかしながら、メインのインデックスと時分針はしっかりと強調されており、現在時刻は瞬時に読み取れる。第二時間帯を表示するサブダイアルも、スペースは小さいものの、ダイアルと時分針にコントラストがあるため、こちらも視認性は十分だ。

スマートフォンのアプリケーション「CASIO WATCHES」との連携にも触れておきたい。Bluetoothでスマートフォンと連携させることにより正確な時刻に修正できることはもちろん、時計のバッテリー残量も確認できるアプリケーションだが、最も便利なのは、時計の各種機能の設定方法が確認できること。とりわけG-SHOCKは多機能であるため、外出時(特に海外渡航時)には重宝する。このアプリケーションは個人で所有するG-SHOCKで使っているため特別に新しい発見はなかったが、実用的であることは改めて強調しておきたい。

さらに期待が高まるG-SHOCK×AI
AIの開発プロセスを取り入れた市販品の第1作がMT-Gであったことはサプライズだった。しかも、G-D001で見られたような奇抜なデザインではなく、あくまでもマスプロダクトらしいデザインに着地させたカシオの開発力には、発表当時、かなり驚かされた。装着感はもちろん、G-SHOCKの基本性能である耐衝撃性もしっかりと確保しており、これまでのG-SHOCKと同様、実用性に対しては隙がない。
2025年11月には早くも、AIによる開発プロセスを取り入れた「GMW-BZ5000」を発売し、G-SHOCK初号機をベースとしたモデルを進化させた。この先、AIと開発陣との共創は、スタンダードモデルをどのように発展させ、また一方ではどれだけ先鋭的なモデルを生み出していくのか。MTG-B4000Bを手にすると、未来のG-SHOCKがますます楽しみになる。



