ミューレ・グラスヒュッテの「スポーティヴォ アクティブ クロノグラフ」を実機レビューする。本作は30気圧防水を備えたスポーツクロノグラフであり、ブルーとオレンジのカラーリングや複雑なパターンが施されたダイアルを特徴とする。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月15日公開記事]
ドイツブランド、ミューレ・グラスヒュッテとは?
今回のインプレッションは、ドイツ・グラスヒュッテの時計ブランド、ミューレ・グラスヒュッテの「スポーティヴォ アクティブ クロノグラフ」だ。ミューレ・グラスヒュッテは2025年現在、日本国内での取り扱いがある実店舗はわずか9店舗と、かなり限られている。実機を見たことがない方も多いのではないだろうか。
ミューレ・グラスヒュッテは1869年に誕生したブランドであり、時計だけではなく、速度計をはじめとする高精度な計測機器を製造してきた。第2次世界大戦後に解体・接収を命じられ、一時的にその歴史が途絶えるものの、時計製造としては1994年に復活を遂げ、現代ではグラスヒュッテブランドらしい質実剛健な実用時計を手掛けている。
そのラインナップのひとつが、スポーツウォッチコレクションの「スポーティヴォ」だ。リュウズガードを備えた重厚感のあるケースに回転ベゼル、優れた防水性を特徴とするこのコレクションから、ブルーとオレンジの配色が鮮やかなクロノグラフウォッチをレビューする。

ブルーとオレンジのカラーリングが印象的な、スポーツクロノグラフ。30気圧もの防水性を備える。自動巻き。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約62時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ15.5mm)。30気圧防水。69万8500円(税込み)。
深海を思わせるグラデーションブルーダイアル
一際目を引くポイントは、やはりダイアルだろう。波打つ水面のようなランダムなパターンが施され、見る角度によって表情が少しずつ変わる様子を楽しむことが可能だ。中心部は淡く、外周部に連れて濃くなるブルーのグラデーションも相まって、まるで深い海のようなミステリアスな雰囲気が漂う。ブルー1色であれば、間延びした印象になっていただろうが、ミニッツマーカーをオレンジとすることで、全体を引き締めダイアルに凝縮感を与えている。
ダイアルのレイアウトは、3時位置に30分積算計、6時位置にデイト表示、9時位置にスモールセコンドを配したツーカウンター仕様。シンメトリーなデザインのため、見た目のバランスも良い。インダイアルはやや大きめであり、視認性とともに、クロノグラフらしい計器感を高めている。インダイアルには段差が設けられ、中心にレコード状の溝が刻まれているため、見た目のアクセントにもなっている。
台形型の立体的なインデックスとドーフィン型の時分針には蓄光塗料が塗布され、夜間での視認性を確保する。蓄光塗料自体がはっきりとしたホワイトのため、日中での視認性も抜群だ。クロノグラフ秒針と30分積算計の針はオレンジで統一され、時刻表示用の針との混同を防いでいる。デイト窓は少し小さめに感じるが、太いフォントを用いているため、読み取りに際して不便さを感じることはない。

マッシブなデザインのステンレススティールケース
ケースはステンレススティール製。直径43mm、厚さ15.5mmと、数値上はボリューミーだが、先述の通りダイアル自体の凝縮感も手伝い、直径が大きすぎるという印象は受けない。ラグtoラグは実測で約50mmあり、決して小ぶりではないものの着用者を選ぶほど大きくはない。厚みに関しては、自動巻きクロノグラフであることと、30気圧防水を備えていることを考慮すれば、標準的な範囲だろう。
ベゼルは1周120クリックあり、カチカチという音とともに回転する。外周に滑り止めのコインエッジ状の溝が刻まれているため、軽い力でストレスなく操作することが可能だ。双方向に回転させることができるため、誤って止める場所を過ぎてしまっても、少し戻すだけで対処できるのはうれしい。ベゼル上のホワイトのマーカーと数字には蓄光塗料が採用され、インデックスや針と同様、暗所で光る。
なお、ロック機構がなく双方向に回転するアウターベゼルは、ISO 6425の定めるダイバーズウォッチでは許容されない。3時位置と9時位置にインデックスがない点においても同様だ。本作は見た目こそダイバーズクロノグラフウォッチだが、実際にはダイバーズウォッチの定義には当てはまらず、“高い防水性を備えたスポーツクロノグラフウォッチ”である。もし実際のダイビングに使用する機器としてダイバーズウォッチを探している方がいるのであれば、注意したい。
公式ホームページでの説明においても、「集中的なインターバル ワークアウトやHyroxイベントの、1kmのトレーニング セッションのお供として適しています」との記載があり、掲載されている画像も森林や砂地をイメージしたものが多い。個人的な意見を言えば、双方向に回転するベゼルの方が使い勝手は良いと感じるうえに、インダイアルやデイト表示に押されて小さくなってしまったインデックスには、取って付けたような半端な印象を受ける。その点、本作ののびのびとしたデザインは非常に好感が持てる。

ケースはヘアラインを主体として、ラグの面取り部やクロノグラフ用のプッシャーにポリッシュを施している。高級感を感じさせつつ傷が目立ちにくい、高級スポーツウォッチとしてふさわしい仕上げだ。ケースバックはねじ込み式。トランスパレントバックとなっている。
ベルトは、ネイビーブルーのキャンバスとオレンジのラバーを組み合わせたカジュアルなデザイン。裏面のラバーには窪みが設けられ、汗や水が溜まらないように配慮されている。特に夏場、ラバーストラップは着け続けているうちに、汗が溜まって不快に感じることがある。本作のようなラバーストラップであれば、そのような不快感はだいぶ軽減されるだろう。ベルトには、ブランドロゴを配したピンバックルが装着されている。


ウッドペッカーネック調速機構に注目
あくまでも見た目の推測となるが、ムーブメントはセリタの自動巻きクロノグラフSW500をベースとしているようだ。基本的な設計をCal.7750から継いでいるため、信頼性は十分だろう。
汎用ムーブメントは、ブランドがどこまで手を掛けるかによって、その見た目が大きく変わる。本作では隅々までしっかりと手が加えられ、細かな筋目の入ったブリッジやテンプ受けのペルラージュ、ブルーのネジなど、眺めて楽しいムーブメントに仕上がっている。6つの開口部を設けたローターは、重心を外側に向け、巻き上げ効率を高めるためのものだ。中でも一番の見どころは、ミューレ・グラスヒュッテを象徴するウッドペッカーネック調速機構だろう。キツツキを意味するウッドペッカーを思わせる形状のバネと、調整用のネジを用いた調速機構であり、長期にわたって高精度を保ち、メンテナンス時には容易に調整を加えることが可能だ。

レジャーシーンを鮮やかに彩るスポーツクロノグラフ
実際に着用したところ、ラバーストラップを少しきつめに着けるとヘッドが手首に密着し、重さを感じにくくなる。腕を振っても時計に振り回されるような感覚はなく、短時間の着用であればこのくらいが使いやすいだろう。
一方で、長時間きつめに着けていると、手首への拘束感が徐々にストレスとなっていく。その場合は1段階緩めれば解決するが、今度は重心が手首から離れ、とたんに重さを感じるようになる。長時間着用する際、自分にとってどのように着けるのがベストか、見極めると良いだろう。なお、着用時に大きく腕を振ると、ローターの回転する音が響き渡る。本作は片方向巻き上げの自動巻き機構を採用しており、巻き上げを行わない方向では勢いよく空転してしまうことが原因だ。これはCal.7750でも同様であり、同系統のムーブメントの仕様である。
視認性は非常に優れている。グラデーションダイアルにクロノグラフという情報量の多さでありながらも十分な視認性を確保できているのは、パキッとしたホワイトの蓄光塗料によるものだろう。大型のインダイアルによって、クロノグラフ使用中に計測時間を瞬時に確認することができるのも魅力だ。

クロノグラフプッシャーの使い心地は、スポーツウォッチらしいがっしりとした押し応えのあるもの。誤動作を防ぎ、防水性を高める必要があることを考えれば、多少固めの感触であることにも納得できる。
リュウズはねじ込み式。ねじ込みを解除し、そのままのポジションで主ゼンマイの巻き上げ、1段引きで日付調整、2段引きで時刻調整を行うことができる。時刻調整時、ややざらついた感触があったことと、針に少しのふらつきが見られたことは気になったが、実用上は大した不便にはならない。
個人的にも今まで完全にノーマークだった、ミューレ・グラスヒュッテの「スポーティヴォ」コレクション。色使いが特徴的かつ厚みがあるため、シーンや服装を選ぶモデルであることは否めない。しかし、その裏返しとして、個性的なスポーツウォッチを探している方にはおすすめのモデルと言えるだろう。



