際立ったのは「ブランドの在り方を語れる時計」。大学教授兼時計ジャーナリストの選ぶ2025年新作時計ベスト5

FEATUREその他
2025.12.17

2025年に発表された新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ年末恒例企画。今回は時計ジャーナリストにして大学教授の並木浩一はパテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンという高級ブランドからブローバまで幅広く選出した。選出の鍵は「自らの立ち位置をどう再定義するか」というブランドの姿勢が表れているかという点だ。


パテック フィリップ「カラトラバ」Ref.6196P

往年の96系を想起させつつ、現代の完成度で再構築した正統派カラトラバ。プラチナケースと手巻きムーブメントが生む緊張感は、ドレスウォッチの理想像を2025年の水準で明快に示している。

パテック フィリップ「カラトラバ」Ref.6169P-001

パテック フィリップ「カラトラバ」Ref.6196P
自動巻き(Cal.30-255 PS)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ptケース(直径38mm、厚さ9.33mm)。3気圧防水。755万円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109


ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」

永久カレンダーを極限まで薄く、端正にまとめた技術力は圧倒的。ピンクゴールドの柔らかな表情と伝統的意匠が調和し、超薄型であることを忘れさせる完成度に達している。

トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」Ref.4300T/000R–H107
自動巻き(Cal.1120 QP)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径36.5mm、厚さ8.43mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


ブレゲ「クラシック スースクリプション 2025」

1本針という原初的表示を、現代の技術で正確に再構築。時間を読む行為そのものを再考させる表現力があり、創業者ブレゲの思想を現代に正しく伝える意義深い1本である。

クラシック スースクリプション 2025

ブレゲ「クラシック スースクリプション 2025」
手巻き(Cal.VS00)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約96時間。18Kブレゲゴールドケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。3気圧防水。735万9000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


オメガ「シーマスター ダイバー 300M ブロンズゴールド&バーガンディ」

プロダイバーの実用性に、素材と色彩による艶やかさを融合。独自合金ブロンズゴールドとバーガンディベゼルが、高級スポーツウォッチの表現領域を確実にひろげたと言える。

シーマスター ダイバー 300M ブロンズゴールド&バーガンディ

オメガ「シーマスター ダイバー 300M ブロンズゴールド&バーガンディ」Ref.210.90.42.20.01.003
自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。ブロンズゴールドケース(直径42mm、厚さ13.8mm)。30気圧水。444万4000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087


ブローバ「アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314」

音叉式という異端の技術を、懐古ではなく現在形として提示したところに惹かれる。流れる秒針と可視化された機構は、機械式全盛の時代に異なる時間の捉え方を提示している。

アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314

ブローバ「アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー314」
音叉式。SS(直径39mm、厚さ13.4mm)。3気圧防水。99万円(税込み)。(問)ブローバ相談室 Tel.0570-03-1390


総評

 2025年の新作時計を概観すると、目立ったのは派手な進化や技術競争ではなく、「自らの立ち位置をどう再定義するか」という各ブランドの姿勢であった。歴史を持つメゾンほど、その問いに慎重かつ真摯に向き合っていた印象が強い。パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンは、ドレスウォッチの本質を改めて掘り下げ、薄さや均整といった普遍的価値を最高水準で示した。ブレゲは表示形式そのものを通じて時間概念を問い直し、時計文化の奥行きを再確認させる。一方、オメガは素材表現によってスポーツウォッチの感性領域を拡張し、ブローバのアキュトロンは主流とは異なる技術史を現在へとつなげた。2025年は、時計が単なる新製品ではなく、思想や態度を語るメディアであることが改めて示された年である。選んだ5本はいずれも、その役割を自覚した存在だと考えている。



選者のプロフィール

並木浩一

並木浩一

時計ジャーナリスト、桐蔭横浜大学教授。専門分野はメディア論、表象文化論、日本語教育、行政書士法、旅行業法。1990年代より、高級時計の取材を国内外を問わず続ける。著書に『ロレックスが買えない』(CCCメディアハウス)、『腕時計一生もの』(光文社新書)等。


パテック フィリップの〝新時代のドレスウォッチ〟像を「カラトラバ 6119」から見る

FEATURES

ブレゲ、今を生きる「スースクリプション」の正統性

FEATURES

ブレゲのスペシャリストが選ぶ! 「シンプルだけどワザあり」な時計が今年の旬。エルメスなどが上がった2025年新作時計ベスト5

FEATURES