「G-STEEL」は、G-SHOCKらしいマッシブな造形をステンレススティールで作り上げながら耐衝撃性能を確保した、G-SHOCKを代表するシリーズのひとつ。「GST-B1000D」はこのシリーズに新たに加わったモデルだが、G-STEEL特有の骨太なルックスは影を潜め、代わって、ミニマルで洗練された雰囲気を漂わせている。初期モデルの荒々しい印象が強かっただけに、この変貌ぶりには驚かされたものの、実際に着用してみると、腕時計に求められる実用性と美観が共存した、幅広いシチュエーションで着けられる1本であることを実感する。

Photographs & Text by Yuzo Takeishi
[2025年12月25日公開記事]
「これがG-STEEL!?」と目を疑う問題作
G-SHOCKの重厚なプロポーションを、ステンレススティールの外装で具現化した「G-STEEL」が誕生したのは2015年。G-STEELを初めて目にしたのが果たしてこのタイミングだったか、記憶は曖昧なのだが、当時携わっていた雑誌で、2016年発表の「GST-W110」を取り上げたことははっきりと覚えている。というのも、初号機をフルメタル化した「GMW-B5000D」が登場するまでは、「G-STEELこそがメタル製G-SHOCKの理想の姿」であると感じており、当時の記事にもそんなニュアンスの原稿を書いたからだ。
ケースサイズは思わず笑ってしまうほどボリューミーで、重量もずっしり。横三つ目のデジタル表示式インダイアルはG-SHOCKの多機能ぶりをアピールし、それでいて価格設定はリーズナブル──。つまりが、メタル製G-SHOCKに欲しい要素をぎゅっと凝縮したのが初期のG-STEELだった。それゆえ、今回のインプレッションモデルである「GST-B1000D」の実機を初めて目にしたときは驚き、そして戸惑いもあったというのが正直なところだ。

タフソーラー。フル充電時約5カ月駆動(パワーセーブ時約18カ月)。カーボン×SSケース(縦46.9×横44.2mm、厚さ11.6mm)。20気圧防水。6万6000円(税込み)。

実用と美観を兼ね備えた現代的デザイン
GST-B1000Dのルックスは、それまでのG-STEELとは大きく変わり、実にミニマルかつモダン。その一方で、カシオが「原点モデルを再構築」とうたっている通り、G-SHOCK初号機である「DW-5000C」のデザインエレメントが確認できるようになっている。
ステンレススティール製のアウターベゼルは八角形となっているが、これはまさに初号機のフォルムを踏襲したもの。そのうえで12時側と6時側を多面構成とし、さらにアウターベゼルとブレスレットには、ヘアラインをメインに、ポリッシュ仕上げを組み合わせることで、時計全体にシャープな印象を与えている。しかも、従来モデルではベゼルにG-SHOCKのロゴや各種機能が表記されていたが、本作ではそうした要素を排し、エッジィな造形を際立たせたデザインになっている。

ダイアルに目を向けると、これもまた、従来のG-STEELには見られなかったパターンに目を奪われる。一見すると、木組にインスパイアされた「MRG-B2100」のダイアルを思わせる意匠なのだが、GST-B1000Dに用いられているのは、G-SHOCK初号機の文字盤に施されているレンガパターンをアレンジしたものだという。しかも本作のダイアルは、時刻表示をメインに、24時間表示と日付表示、ファンクション表示+30分積算計のサブダイアルをバランスよくレイアウト。そのため、視認性をしっかりと確保しながらも、独創のレンガパターンを埋没させない、実用と美観を両立させたデザインになっている。

カーボンケースがもたらす軽快な装着感
G-STEELを久しぶりに手にしたからだろうか。ルックスもさることながら、さらに驚かされたのがG-STEELらしからぬサイズと重量だ。手にした瞬間「チタン?」と思わせるほどに軽いのだが、これはモジュールを保護するセンターケースにカーボンファイバー強化樹脂を用いているため。このセンターケースにアウターベゼルを被せる構造により、軽量化が実現できたわけだ。公称値は約118g。ずば抜けて軽いわけではないが、現在のメタル製G-SHOCKを象徴する「GMW-B5000」が約167gであることを踏まえれば、相当に軽いことがわかる。
しかもケースは縦46.9×横44.2mm、厚さ11.6mmと、これもまた一般的な時計と変わらないサイズ。実際に着用してみると手首への収まりはよく、エッジィなフォルムではあるもののブレスレットの肌あたりも悪くない。また、本体の裏面側にはカーボンファイバー強化樹脂が露出しているため、着用時には公称値の11.6mmよりもずっとスリムに感じられるのもいい。


G-STEELの今後はいかに!?
初めに「戸惑いもあった」と書いたのは、これまでのG-STEELの特徴であった「やたらと大きく」「重く」そして「一見してG-SHOCKのタフさが伝わるマッシブなフォルム」が、GST-B1000Dにはなかったから。もっとも、それは筆者のG-STEELへの思い入れの強さによるものなので、「G-SHOCKのいちモデル」と捉えれば、本作は実によくできた時計だ。G-SHOCKのアイデンティティーを踏襲しながらも、ルックスは現代的。時流を意識してか、小型・軽量化を推し進めながらも耐衝撃性は確保し、スマートフォン連携の利便性も備えた、G-SHOCKの進化が感じられるモデルだからだ。
ではG-STEELのイメージを覆す本作が作られたことで、シリーズは今後、どのように変わっていくのか。G-STEELのこれからが楽しみだ。




