マルチツールナイフの代名詞として世界に名を馳せるビクトリノックス。約140年の歴史で培った「道具」としての信頼性を時計へと注ぎ込み、スイスの精密技術と実用性を両立させてきた。本稿では、そのアイデンティティを体現する「Journey 1884」と「I.N.O.X.」の魅力に迫る。

Text by Roger Ruegger
© WatchTime Germany
Originally published in WatchTime Germany
Reprinted with permission.
[2026年2月5日掲載記事]
道具のDNAを時計へ刻むビクトリノックスの挑戦
ビクトリノックスは、削り出されたベゼルに代表されるような工業的な仕上げ、そして素材の革新を通じ、象徴的な道具作りのDNAを明確な目的を持って腕時計デザインへと昇華させている。この記事では、それらの意匠がいかにして「Journey 1884」や「I.N.O.X.」コレクションを形作っているかを考察していこう。
世界で最も有名なポケットナイフメーカーである同社が、文字盤に「クロス&シールド」ロゴを冠した初の腕時計を発表したのは35年以上前のことだ。2023年に発表された「Journey 1884」コレクションにおいて、ブランドはスイスの山々のエネルギーを日常の冒険に取り入れることを目指した。
このコレクションではクォーツと機械式の自動巻き、両バージョンのムーブメントが展開されており、ブルー、グリーン、ブラックといった多彩な文字盤や、ウッドストラップを含む多様な選択肢が用意されている。しかし、このデザインコードは単なる1コレクションに留まらず、新型の「I.N.O.X. Chrono」の礎ともなり、力強い幾何学的形状とスイスの精密技術を融合させている。
スイスの魂を宿した Journey 1884
Journey 1884は、その細部に至るまで自らのルーツに敬意を払っている。針のデザインはスイスのハイキング標識を模し、文字盤は自然な登山道のラフな質感を表現。さらに、秒針のカウンターウェイトには、スイスアーミーナイフのシルエットが投影されている。

自動巻き(Cal.Sellita SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径43mm、厚さ12mm)。20気圧防水。19万8000円(税込み)。
また、ベゼルの6時位置に設けられた切り欠きは、まるで鋭いナイフで削り取られたかのような外観を持ち、工業的なルーツを象徴する素材コードや創業年「1884」がベゼルにエングレービングされたものだ。

ステンレススティール製のブレスレットを採用したモデルもラインナップされている。自動巻き(Cal.Sellita SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径43mm、厚さ12mm)。20気圧防水。19万8000円(税込み)。
クォーツモデルは耐磁性能を備えており、12時位置には赤いロゴが配置されている。その一方で、自動巻きの機械式ムーブメントを搭載したモデルは、エングレービングが施されたセラミックス製ベゼルインサートを採用し、シースルーバックからムーブメントの動きを鑑賞可能だ。
また、目盛りや秒針の色など、スイス全土に張り巡らされた黄色いハイキング標識から着想を得た配色も特徴的だ。直径43mmのケースは200m防水とISO準拠の耐衝撃性能を誇り、リサイクルスティールを高い割合で使用するなど、環境への配慮と堅牢性を両立させた。

工業的コードの極致 I.N.O.X. Chrono
「I.N.O.X.」はビクトリノックスで最もアイコニックなウォッチコレクションであり、新しいデザインアプローチの源泉となっている。新型の「I.N.O.X. Chrono」は、エレガンスと力強い幾何学形状を融合させ、機能性と革新的な素材の組み合わせを実現。

クォーツ(Ronda Cal.5040.E)。カーボンケース(直径43mm、厚さ13mm)。20気圧防水。18万7000円(税込み)。
素材にはスティールやチタン、カーボンなどが用いられ、軽量かつスポーティーなフルカーボンモデルも存在する。このクロノグラフもISO準拠の耐久性を備え、パラコードやラバー、天然ウッドなど多彩なストラップで個性を演出することが可能だ。
約140年の歴史が結実した多角化の形

1884年に小さなナイフ工房から始まったビクトリノックスは、今やスイスを代表するグローバル企業へと成長した。マルチツールナイフ、ウォッチ、トラベルギア、フレグランスといった各カテゴリーにおいて、オリジナルの製品デザインを巧みに反映させている。
そのデザインアプローチは唯一無二でありながら自然であり、機能性と信頼性が加わることで、あらゆる状況に対応できる製品が生み出されているのだ。
スイス・ジュラ地方にあるビクトリノックス・ウォッチ・コンピテンス・センターでは、エンジニアリングから製造、組み立てまでが一貫して行われている。ベゼルやケースといった主要部品を自社内で生産する体制こそが、ビクトリノックスの腕時計が単なるファッションアイテムではなく、真の精密機器であることを証明していると言えるのではないだろうか?



