世の男女の関心を引いてきた「モテ」香水。その第一の条件は、爽やかさと清潔感かもしれない。敏腕編集者であり、エッセイストでもある麻生綾氏が、数ある「モテ」香水のうち間違いがなく、かつ「モテ」にとどまらない大人の余裕もプラスオンする香りを指南する。
Text by Aya Aso
村山千太:写真
Photograph by Senta Murayama
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
爽やかさに、一服の余裕を

(左から)トップノートはセイロンティーとトマトリーフ。天然香料をふんだんに使用した、フローラル グリーン調のフレグランスで、まとう人を爽やかな白昼夢へと誘う。「セラドン オーデパルファム」。100ml。3万3990円(税込み)。メゾンを代表するベストセラー。思わず深呼吸したくなる、イタリアン ベルガモットの爽快な幕開けが印象的。「ティー トニック オーデパルファム」。100ml。2万9700円(税込み)。
たまには「男のモテ香水」などという、少しユルいテーマをお届けしようかと思う。
なんだかんだでバズるのは、やはり「モテ」という直接的なキーワード。世間は相変わらず、この分野に関心があるようだ。「いやいやフレグランスは自分のためでしょう」という文化に到達するには、いましばらく時間がかかりそうである。
さて、世間に数ある「モテ」香水の特徴といえば、爽やかさと清潔感。たまに(というか昔から、今も変わらず)怪しげなフェロモン香水などというものも出現するが、今回は除外したい。となると、「間違いのなさ」で候補の筆頭に上がるのは、グレープフルーツやベルガモットといった柑橘系の香りだろう。だが、ここでは「お茶」をテーマにした香りをご紹介しようと思う。
まずは、ブルガリの緑茶の香り「オ・パフメ テ ヴェール」。30年以上のロングセラーを誇る、王道中の王道だ。また、このコラムで以前ご紹介したキリアン パリには、ジャスミン茶の香りの「インペリアル ティー」があるし、さらにはル ラボのズバリ「THÉ MATCHA 26」なども人気が高い。
そんななか、私のイチ推しは英国発のミラー ハリス。シトラス系の大定番「ティー トニック」は、万人にお勧めできる1本だが、今回、読者の皆さまにぜひお試しいただきたいのは「セラドン(青磁)」という名を持つフレグランスだ。爽やかだが、「ティー トニック」より甘さがあり、よりエレガント。そして何より、人と被りにくい。
「セラドン」は、中国の古典・曹雪芹の『紅楼夢』に着想を得た、月の幻想的な光の中で輝く「翡翠色の青磁」をイメージしたフレグランスである。最初に鼻腔が受け止めるのは、青臭いまでに清々しい、ハーブのような香りとトマトリーフによるグリーンノート。そこにカルダモン、マグノリア、スモークティー、マテ茶といった、中国文化へのオマージュが続き、重なっていく。すでにして、なんと文学的なことか! さらにローズ、そして可憐な白い花でありながら、催淫効果があるとされるチュベローズがさりげなく潜んでいるところなども、「モテ香水」に挙げたい理由のひとつだ。また、苔むした青磁の鉢を表すためにモスを調合したという経緯も、なかなか素敵な蘊蓄のオンパレードではないか。
グリーンノートと並行して薫る、まろやかな甘さ。その意外性が「セラドン」の魅力であり、ただの「モテ」に終わらず、大人の男性ならではの余裕をプラスオンしてくれるように思う。もっとも、爽やかだからこそつけすぎには注意。自分では香りをはっきり感じないくらいで、ちょうどよいのだ。
著者プロフィール
麻生綾
美容編集者/エッセイスト&コピーライター。東京育ち。女性誌の美容ページ担当歴30余年、『25ans』『婦人画報』(ともにハースト婦人画報社)、『VOGUE JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)各誌で副編集長、『etRouge』(日経BP)で編集長も務めた。趣味も美容、そして美味しいもの探し、鬱アニメ鑑賞、馬の骨活動。



