歴史と特徴で知る、唯一無二の〝ラグスポ〟ウォッチ。ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ」

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2026.03.30

1996年の誕生から30周年を迎えた、ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ」。旅をテーマにした同コレクションは、その利便性の高さとスポーティーなデザインから人気を博し、今やメゾンのみならず、“ラグスポ”ウォッチを代表する傑作として知られるようになった。そんなオーヴァーシーズが、唯一無二と評される理由を3つの軸に絞って紹介。さらに、コレクションの成り立ちも説明する。

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

江藤義典:写真
Photographs by Yoshienori Eto
柴田充:文
Text by Mitsuru Shibata
[2026年3月30日公開記事]


オーヴァーシーズを構成する3つの軸

 1996年の初代誕生から「オーヴァーシーズ」は今年30周年を迎えた。その源流は1977年の「222」に遡り、一体型ブレスレットを採用したスタイルは“ラグスポ”に位置付けられる。だが大いなる旅や広がる世界への視座を持ったことで、コレクションは独自のスポーティーシックへと出帆したのである。

 その名には海を越えた世界への憧憬が込められ、ブレスレットを備えたスポーティーなデザインからは躍動感が伝わる。そもそも、このコレクションはメゾンの創業者のひとり、フランソワ・コンスタンタンの探究心や精神を反映したモデル。販路を広げるために世界中を旅したフランソワの精神は、防水性や耐磁性など、トラベラーの実用機能に、そして探究心はコレクションの弛まぬ進化に見て取れる。

今やトゥールビヨンやパーペチュアルカレンダー、デュアルタイムやクロノグラフといった多彩なバリエーションを擁するメゾンのピラーコレクションだ。その魅力を3つの軸から探る。

1.多彩なカラーダイアル

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」
文字盤はベースをサンバーストサテンで仕上げ、それぞれゴールドとネイビーのラッカーを重ねた後、透明ラッカーを塗膜する。文字盤と同色のカウンターはベースをスネイルで仕上げ、異なるニュアンスを演出する。自動巻き(Cal.1120 QP)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KYGケース(直径41.5mm、厚さ8.1mm)。5気圧防水。2059万2000円(税込み)。

 コレクションの特徴のひとつが、ダイアルのカラーバリエーションだ。カラーダイアルは、時計に新たな個性を与え、モダニティを演出する。たとえクラシックな定番スタイルであっても新鮮な印象をもたらし、もちろんそれはオーヴァーシーズのようなスポーティーシックなコレクションも例外ではない。

 ベーシックなシルバーやブラックのほか、空や海を思わせるブルーをはじめ、シャンパンゴールド、ボルドー、グリーンといった、旅の高揚感をかき立てる多彩なカラーをそろえる。中心から外側に向かって広がる繊細なサンレイ仕上げに、ラッカーを何層にも重ね、塗膜の下にあるサンバースト模様が浮かび上がる。その奥行き感と光の反射によって変化する豊かな表情を生み出すのである。

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

アプライドインデックスと時分針は、ケースと共通の18KPGに、ブルーに発光するスーパールミノヴァ®を配する。ムーンフェイズのディスクは、精細な星座を描いた背景に18KPGの月が浮かび上がる。

 色決定には、パントーンのカラーチャートや色校正用モニター上での検証に加え、実際にプロトタイプの文字盤を複数試作し、ケース素材との調和を見ながら最終のトーンを詰めていく。同じブルーでもモデルの個性によって色相は異なり、開発には何年もの時間を要することもある。

広田雅将『クロノス日本版』編集部編集長 広田雅将の視点

1755年創業のヴァシュロン・コンスタンタンは、ずば抜けて良質な時計を作っただけで、世界的な名声を得たわけではない。この老舗を歴史あるメーカー以上の何かにしてきたもののひとつが、外装に対する新しい試みだったと言えるだろう。1930年代以降、同社はさまざまなデザインをケースに盛り込み、それは時計の量産体制が固まった1960年代以降も変わることがなかった。そんなヴァシュロン・コンスタンタンが新たに取り組むのは文字盤の新しい表現だ。同社はスポーツシックな「オーヴァーシーズ」にカラフルなラッカー仕上げの文字盤を加えることで、高級な“ラグスポ”に新しいタッチを添えたのである。色の選択は絶妙だ。ビビッドな色は時計を際立たせるが、しばしば高級感を欠く。地味な色は高級だが、新味には乏しい。対してヴァシュロン・コンスタンタンは上手いバランスを取ることで、定番のスポーティーウォッチに新たな個性を加えたのである。新しいが決して過剰ではない色使い。可能にしたのは、老舗の長い経験なのである。

2.複雑モデルであっても薄いケース

 オーヴァーシーズのもうひとつの特徴に薄型ケースがある。スポーティーなデザインにも関わらず、薄さを堅持することでドレスウォッチのエレガンスと快適な装着感が味わえる。これをもたらすのが自社製の薄型ムーブメントとケース構造である。

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

永久カレンダーを搭載する「オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」では耐磁性を持つ軟鉄製リングや50m防水を備えながら、ベゼルやケースバックのリングの厚み、風防とのクリアランスなどを追い込み、ケースは約8.1㎜の薄さを実現。下方に下げたショートラグなど装着感も薄さを演出する。

 2016年に登場した現行コレクションでは、センターセコンドの自社製Cal.5100を搭載した。輪列を中心に凝縮することで余地を生み、厚みを抑えつつ付加機能を搭載できる設計から、これをベースにデュアルタイムのCal.5110DT、クロノグラフのCal.5200を展開した。

 さらに複雑機構でも薄さを損なうことはない。「オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」は実績ある超薄型Cal.1120に永久カレンダー機構をモジュール搭載し、トゥールビヨンでは全高を抑えるペリフェラルローターを採用した超薄型自動巻きCal.2160を内蔵する。

Cal.1120 QP/1

「オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」の搭載する自動巻き永久カレンダーのCal.1120 QP/1は、276個のパーツで構成する。ブリッジやギアの配置を最適化する一方、受けとの一体化や外周側に重量を配したローター設計で厚さを約4.05mmに抑える。

 こうした薄型ムーブメントに加え、ベゼルの全高やミドルケースのサイドプロファイルを絞り込むとともに、湾曲したラグやケースバックの厚みを抑えることで外観や装着感でも薄さを演出しているのである。

鈴木幸也『クロノス日本版』編集部副編集長 鈴木幸也の視点

ヴァシュロン・コンスタンタンの薄型モデルといえば、同メゾンが長年採用してきたCal.1120系が象徴的である。この歴史と実績に裏打ちされた極薄自動巻きムーブメントを核に、永久カレンダーでも厚さ約4mm強に抑えることに成功してきた。この設計思想は現代の自社開発ムーブメントにも受け継がれており、複雑機構を層構造で効率的に統合し、輪列をコンパクトにまとめることで全体の薄型化を実現している。さらに自動巻きでは、モデルによってはペリフェラルローターなども取り入れながら厚みの低減を図る。加えて外装面でも、ベゼルの固定構造や一体型ブレスレットを高剛性かつ無駄なく設計することで、スポーティーモデルにおいても厚みを抑制。ダイアルのレイアウトや仕上げによって視覚的な薄さも強調し、ドレスウォッチからオーヴァーシーズに至るまで一貫したエレガンスを成立させている。ヴァシュロン・コンスタンタンにとって、“薄型化”はコンプリケーションにおける重要なサヴォアフェールのひとつと言えるのだ。

簡単なのに頑丈なストラップの交換

オーヴァーシーズ インターチェンジャブル機構

独自開発のインターチェンジャブル機構は、ケースのラグとブレスレットの連結部に設けた2カ所のプッシュボタンを押すだけで、それぞれ容易に着脱可能な専用の安全ロック機構を設ける。

 専用工具を使わず、簡単にストラップの取り外し交換ができるインターチェンジャブル機構は近年人気の仕様だ。一体型ブレスレットをシンボルにするオーヴァーシーズがいち早く現行コレクションでこれを全面的に取り入れたのも旅での実用性からだ。

オーヴァーシーズ インターチェンジャブル機構

専用仕様のブレスレットのほか、ラバーとレザーのストラップがセットされている。交換用に携行すれば旅先でもシーンに合わせて異なるスタイルが楽しめる。別売のストラップもあり、好みによって選べるのもうれしい。

 ブレスレットからレザーやラバーのストラップに交換することで、移動中の利便性はもちろん、滞在先でのビジネスやオフタイム、オケージョンに合わせて1本の時計を自在に使い回しできる。トラベルウォッチに求められるのは、GMTやワールドタイマーといった特別な計時機能だけではない。そんなメゾンの美学に基づき、多様化する旅のシーンをより快適に過ごすことができる、現代のトラベラーにふさわしい機構といえるだろう。

細田雄人『クロノス日本版』編集部 細田雄人の視点

今や、採用ブランドが増えつつあるストラップのインターチェンジャブル機構。工具要らずの簡単な取り外し、装着状態のストラップは強固に固定されていなければならないという、相反する条件が求められるため、実のところ使い勝手と信頼性を両立できているブランドは決して多くない。その点、ブレスレットのケースバック側からプッシュボタンを押す形式を採用したオーヴァーシーズの同機構は直感的な操作が可能なうえ、スポーティーウォッチだけあり剛性も高い。稀有な存在だ。また、インターチェンジャブル機構を採用すると交換ストラップの選択肢が純正に限られるが、これをデメリットに感じさせないほど、オーヴァーシーズのストラップはバリエーションが充実している。


「222」からたどる「オーヴァーシーズ」の歴史

 1970年代に入り、高級時計に“ラグスポ”と呼ばれる新たなカテゴリーが生まれた。このトレンドを独自に解釈したのが1977年に発表した222だ。その名はブランド創業222年に当たることから。まさに連綿と続くメゾンのパイオニア精神の象徴であり、やがてこれはオーヴァーシーズへと受け継がれていくのである。

222

「222」はメゾンの創業222周年に当たる1977年に登場。その45年後の2022年に18KYGのフルゴールド仕様で復刻された。デザインはオリジナルをほぼ忠実に再現し、さらに昨年、270周年を祝してSS仕様が登場した。

 1996年にデビューしたオーヴァーシーズは、222のシンボルだったノッチを刻んだベゼルをメゾンのアイコンであるマルタ十字を想起させる8葉に変容した。さらに一体型ブレスレットはより力強い直線基調の角形へ。そして2004年には第2世代へと進化する。

 フェイスデザインはよりスポーティーテイストを強め、インデックスや指針もマッシブになった。そして最大の特徴は、マルタ十字をモチーフにしたブレスレットだ。大胆なデザインと堅牢性に反し、ラグやエンドピースのショート化で装着感は向上している。

222 オーヴァーシーズ

(写真左から)222を源流にオーヴァーシーズは誕生し、第1世代、第2世代を経て、現在に至る。先進技術を注ぐ性能の向上や時代の感性を吹き込むデザインの洗練はあるものの、基本のスタイルや精神は受け継がれている。

 こうした系譜を踏まえ、2016年に第3世代が誕生した。ベゼルはそれまでの8葉から6葉に変わり、スマートな印象になった。ミドルケースもベベルを広げ、優美な立体感を強調する一方、ブレスレットとの一体感も増している。

オーヴァーシーズ・オートマティック

ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ・オートマティック」
大空や大海原を想起させ、まさに旅へと心を誘うブルーの文字盤に、18KPGのフルゴールドがゴージャスに調和する。コレクションのスタートから30年を経て、気品とともに熟成した魅力をさらに研ぎ澄ませる。自動巻き(Cal.5100)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ10.69mm)。15気圧防水。1020万8000円(税込み)。

 完成度を高めたデザインは、多彩なカラーダイアルや複雑機構を備えても、コレクションの確固とした存在感を崩すことはない。

Contact info:ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755

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