松山猛の台湾発見「凍頂山を行く」

LIFE松山猛の台湾発見
2018.08.19
松山氏が凍頂山を訪れ、製茶工程を取材した際に撮影した写真。左より、茶籠と呼ばれるたいらな竹籠の大きな物に移しかえる「室内萎凋」、回転する高温の金属製ドラムで発酵を停止させる「殺青」、そして布に包んだ茶葉を揉み練る「揉捻」の工程である。

 摘んだ茶葉はその日のうちに製茶しなくてはならない。女性がその指先を痛めながら摘み、男たちがバイクで製茶所へ運ぶ。春茶の頃は、たいへんな忙しさになるのだろう。茶農は畑を丹精し、採茶の頃には近隣の女性たちが総出で摘み、山頂の台地にある村落や、麓の鹿谷で見事な茶に仕上げられる。太陽の光の下に広げて発酵をうながし、そして蒸し、揉み、炒り上げて、かんばしい茶としての生命を与えるための作業は、しばしば夜半に及ぶのだ。台湾にも茶の産地は多いが、近年国内の経済繁栄とともに、より良い茶が求められ、鹿谷一帯あげての高品質化があった。そのために鹿谷の茶農家や、茶業をなりわいとする人々は、たいへん豊かになったのだという。作り手も、そしてそれを飲む者も、良き茶ゆえに、人生の幸福を手に入れることができたのであった。

製茶工程について

① 室外萎凋
凍頂山では年に4回茶摘みがおこなわれる。春、夏、秋、冬の順に。冬茶は葉が小さく香り高く産額が少ない、春茶は味、香りのバランスにすぐれ、品評会で高値がつく物。摘まれた葉は日光の下に広げられ、20分から30分ほど光と風を受ける。摘み立ての茶青(葉)は、水分をたっぷりと含んでいて、しだいにしおれた状態になりやわらかくなる。

② 室内萎凋
茶籠と呼ばれるたいらな竹籠の大きな物に移しかえ、室内の通風の良い場所の棚に並べる。水分をこうして消耗させつつ、時々攪拌する。こうして茶葉が酸素にふれることによって、茶葉自体の持つ酵素が酸化、発酵し独特の風味の素をかもし出す。発酵の度合いによって各種の茶となるわけで、半発酵の烏龍茶作りの、重要な工程がこれである。

③ 攪拌
竹を編んで作ったドラム状の機械がある。これに茶葉を入れ、動力によって回転させ、むらなく攪拌する作業がある。バサンバサンと回転する音が、製茶所の界隈では絶え間なく続いていた。摘んだ時間が異なる茶葉を、順々にこうして発酵させ、再び竹籠に移して静置させる。発酵が必要な頂点に達したかを香気で判断し、次の発酵停止工程へ。

④ 殺青
攪拌された茶葉の外辺がほのかに紅褐色を帯びると殺青の工程に入る。これは高温で発酵を停止させる工程で、回転する金属のドラムでおこなう。この段階で青臭さが拝されるが、葉自体の水分はまだたっぷりある。ドラムの内部は高温だが、蓋はないので外側の葉は順々に空気に絶えず触れる。殺青が終わると葉はかなり黒みを帯びる。

⑤ 静置回潤
殺青されやわらかくなった葉は、木綿の布に包まれて揉捻を待つ。この工程は同系の包種茶などにはなく、烏龍茶に用いられる手法だ。充分に湿らせた清潔な布に殺青後の葉を包み、10分から20分静置させる。殺青によって少し硬くなった茶葉が、再びやわらかくなり、捻りの工程で圧力を加えられても、傷付きにくくなるのである。

⑥ 揉捻
昔はこの布に包んだ茶葉を人力でこね、揉捻したのだという。現在は機械化されて、均等な加圧が簡単になったようだ。揉み捻ることによって、茶葉の細胞が潰される。こうして細胞を潰さねば、茶をいれた時に成分の抽出が鈍くなるのだ。こうして揉捻にかけると、あの独特のチリチリとねじれた、烏龍茶のかたちになっていくわけである。

⑦ 乾燥
捻れあがった茶葉を次いで高温で乾燥させる。これも昔は鉄鍋でやった手仕事だった。今はコンベア式の乾燥機で乾かすが、だいたい2回にわけて作業をする。一度乾燥機にかけたものを整形機で形をととのえ、また再び乾燥機で乾かす。こうして球状に縮れた茶ができあがる。今でも昔風の炭で焙った茶もあるが、珍しい物になりつつある。

⑧ 選別
高級な烏龍茶は形の良い葉だけにされて売られる。採茶の時も細心の注意をはらうわけだが、茎が混じるのはしかたがない。そこで製茶後に、1本1本茎を手で取り去るわけである。これはお年寄りたちの、たいせつな仕事なのだ。

 摘まれた時1kgの重さだった茶は、こうして製茶されると、5分の1くらいの重さになってしまうのだ。

松山猛プロフィール

1946年8月13日、京都市生まれ。
1964年、京都市立日吉が丘高等学校、美術工芸課程洋画科卒業。
1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。
1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。
70年代から機械式時計の世界に魅せられ、スイスへの取材を通じ、時計の魅力を伝える。
著書に『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など。