本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第8回『ウェアラブルデバイスの“腕時計化”傾向』

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2018.07.09

ガーミン「Approach S60」
全世界4万以上のゴルフコースに対応しているGPSゴルフナビ。GPS、GLONASS、みちびきの3測位とアシストGPSを受信することで、コース上の各ロケーションまでの距離を高精度で測定できる。ヤーデージ計測は水平距離だけではなく、高低差情報までを考慮するため、クラブ選択の際には最適な1本をより抜くための材料になるだろう。iOS、Androidと互換性を持っているため、同期することでスマートウォッチとしての使用も可能だ。5万741円〜(税別)。㉄ガーミンジャパン ℡049-267-9114

老舗GPSブランド、ガーミンの方向転換

 同じように“腕時計”へと向かっているブランドがある。アクティビティトラッカー、とりわけアスリート向けを求めるユーザーから選ばれることの多いガーミンである。彼らの作るアクティビティトラッカーやフィットネストラッカーは、どれも実にマニアックで、カジュアルなモデルからシリアスなモデルまで多様性がある。

 ガーミンという企業のオリジンは、“山歩き” ”山登り”にある。GPSを用いて自分の位置を把握し、正しい道を探るための道具として、ガーミンのGPSデバイスは1990年代のヒット商品となった。そもそものスタート時点から、ガーミンは特定ジャンルを掘り下げたデバイスを展開し、そこで磨いたGPS技術を起点に事業領域を広げている。

 腕時計業界ではあまり知られていないかもしれないが、かつてポータブルカーナビゲーションの世界でトップだったガーミンは、自動車向けや船舶向けのGPSシステム事業でもトップ企業であり、昨年はBMWとの契約も獲得している。

 さて、GPS技術で勝負を続けてきたガーミンが、スポーツの各ジャンルで深く掘り下げた商品の企画やマニアックなアプリでウェアラブルデバイス市場での存在感を高めていったのは不思議なことではない。

 ガーミンを追いかける北欧のスントやポラールも、アスリート向け機能の掘り下げでは負けていない。しかし、ガーミンはランナー向け、トライアスロン向け、そしてポラールが得意とする自転車向けウェアラブルデバイスでも確たる地位を築き、また腕時計型ダイビングコンピューターでも勢力を伸ばしている。

 筆者はゴルフを嗜まないのだが、ゴルファー向けのウェアラブルデバイスでは、ラウンドの記録をショット/パットごとに記録し、GPS情報を付与することで後からプレイ内容を振り返ることができるという。ゴルフクラブのグリップに装着するセンサーデバイスまである。またサーファー向け製品では……というように、ガーミンは各競技にフォーカスしてプレイの振り返り用ビジュアライゼーション機能や競技能力を高めるためのコーチングといったサービスを展開し、繰り返し改良を加えていく。

 そんなガーミンだが、特定ジャンルを掘り下げ、本物のアスリートやアスリート志向のユーザーとのコミュニケーションを通じて生み出してきたブランド力を武器に、軸足を“スポーツトラッキング”デバイスメーカーから“腕時計”メーカーへと移してきている。

 ガーミンほど特定ジャンルを掘り下げたアプリケーションは、なかなか汎用のスマートウォッチとアプリだけでは実現しにくい。それ故にスマートウォッチというジャンルで支配的な地位を築きつつあるApple Watchに対しても、まったく違う領域で戦うことができているのだろう。

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。