ブレゲ新生マリーンが拡張する 〝エレガンス スポーティー〟の 版図 [前編]

FEATURE本誌記事
2018.08.10

MARINE ÉQUATION MARCHANTE 5887

「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、アブラアン-ルイ・ブレゲの業績に結びつく永久カレンダーと均時差表示、トゥールビヨンが組み合わされた超大作だ。伝統に現代的な解釈を施したブレゲのグランドコンプリケーションにおいては、スタイリッシュな感覚が際立つそのデザインに、新生マリーンを特徴づけるデザインコードが先取りされ、ブレゲが展開する〝エレガンス スポーティー〟ウォッチの新たな方向を示唆する。

マリーン エクアシオン マルシャント 5887
センター軸の分針が2本あり、通常の分針が平均太陽時、太陽のモチーフを配した針で真太陽時を示す。永久カレンダーと連動して常時動き続ける後者と前者との「分差」が均時差になる。自動巻きトゥールビヨン(Cal.581DPE)。57石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt(直径43.9mm)。10気圧防水。2494万円。

〝新生マリーン〟は現代のブレゲがかなえた傑作コンプリケーションから始まった

 現代の先端技術をもってブレゲの伝統を語るモデルが数ある中で、この「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、興味の尽きない複雑時計だ。フランス経度委員会のメンバーで、フランス海軍省御用達時計師にしてマリン・クロノメーター製作者の肩書を持つアブラアン-ルイ・ブレゲという偉大な存在。しかも、この時計の特色をなす均時差表示は、ブレゲを代表する機構のひとつに数えられ、航海での経度測定とも深く関連する。歴史と人物、技術が絡み合うストーリーを読み解く楽しみがある。

 均時差とは、平均太陽時と真太陽時の差のこと。その表示機構に取り組み、創意を尽くしたのも創業者ブレゲその人だ。永久カレンダーに均時差表示を組み合わせた「№92」(1783~85年頃製作開始)や超複雑時計「マリー・アントワネット №160」(1783年製作開始)、太陽のモチーフを付したランニング・イクエーション針を持つ「№1416」(1812年販売)、ふたつ並ぶダイアルで平均太陽時と恒星時を示す均時差時計「№3862」(1821~24年頃製作開始)などは偉業の一端だ。1991年に永久カレンダー均時差表示の特許を取得した現代のブレゲも、歴史遺産の正統な継承者である。

 姿勢差を解消して高精度を維持するトゥールビヨンの発想もマリン・クロノメーターが目指したものに通じるように思える。超精密なタイムキーパーと考えると、トゥールビヨンと均時差表示を併せ持つ「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、腕時計の姿をしたマリン・クロノメーターと呼ぶにふさわしい。しかも、軽快でスタイリッシュなスポーティーウォッチを装う洒脱な逸品だ。

ページ上モデルの18KRGバージョン。シルバー仕上げの文字盤にギヨシェ彫りで新しい“ウェーブ”パターンが施され、サファイアクリスタル製の透明なケースバックからは、自動巻きのペリフェラルローターや、ムーブメント裏面に彫金された風配図とフランス王国海軍の一級戦艦ロワイヤル・ルイの雄姿が鑑賞でき、精緻を極めるクラフツマンシップは見応えがある。2328万円。