「TIME TO MOVE 2019」で「これは!」と思った新作(オメガ編 Part 1)

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2019.07.06

ウォッチジャーナリスト渋谷康人の 役に立つ!? 時計業界雑談通信

渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

スウォッチ グループのプレステージ&ラグジュアリー レンジの6ブランドの本社工房および新作展示会をそれぞれ半日ツアーで訪れるというかたちで、バーゼルワールドでの新作発表に代わり、5月中旬に行われた「TIME TO MOVE 2019」。幸いにも筆者も参加できたので、個人的に「これは!」と思った新作をご紹介する。第2回はオメガの新作を取り上げる。

作り手の「思い入れ」たっぷり!
「スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッド エディション」

 オメガは生産本数でも技術力でもスウォッチ グループの中核であり、最先端の存在だ。機械式ムーブメントの心臓部である脱進調速機構にいち早くコーアクシャル脱進機を実用化して導入し、さらに歯車の軸にニヴァロックス・ファー社と共同開発した非磁性素材のニヴァガウスを採用。C.O.S.C.を楽々とクリアする優れた精度に加え、現代のハイテク機器が発する強力な磁気でもまずトラブルが起こらない1万5000ガウスというケタ違いの耐磁性能を多くの製品で実現している。

 初のTIME TO MOVE 2019では、その存在にふさわしく、メンズからレディスまでさまざまな新作が登場した。その中でも、まず取り上げたいモデルが、恒例の「ムーンウォッチ」限定モデルの今年のバージョン、「スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッド エディション」だ。

スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッド エディション

「スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッド エディション」が収まるNASAスタイルの特製ボックス
ふたつのミッションパッチ(左:アポロ11号、右:50周年記念ロゴ)に加え、月面着陸シーンと着陸場所・時間をエングレービングした2枚のプレート、さらにコルクをブラックコーティングした交換用ストラップと交換用ツールが付属する。
スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッドエディション

「スピードマスター アポロ11号 50周年記念 リミテッドエディション」
手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.89mm)。50m防水。C.O.S.C.認定クロノメーターおよびスイス連邦計量・認定局(METAS)によるマスター クロノメーター取得。耐磁性能1万5000ガウス。5年間の国際保証付き。103万円(税別)。

 オメガのムーンウォッチ限定モデルには、いつも力が入っている。2017年に登場した、最後の月着陸ミッションを果たした「アポロ17号」の45周年記念限定モデルは、スピードマスターの9時位置のサブダイアルにアポロ神と月、ケースバックにアポロ17号計画のエンブレム(ミッションパッチ)が刻印されていた。

 だが今年のアポロ11号の月面着陸50周年を祝した記念限定モデルは、一言で言えば「思い入れ」がハンパない。製品に対する情熱の込め方のレベルが違う。TIME TO MOVE 2019のプレゼンテーションは、ゴールドの宇宙飛行士の像が立つオメガ本社のロビーで行われたが、筆者はまずNASAスタイルの特製ボックス(トランク)の豪華さに驚いた。

 ボックスを開けると50周年記念とアポロ11号のふたつのミッションパッチ。コルクをコーティングしたストラップと交換工具。月の着陸地点の座標をエングレービングしたメタルプレート。そして極め付きは、月着陸船型のウォッチスタンドだ。

 時計本体の凝りようもスゴい。インデックス、オメガロゴ、ベゼル、そしてクロノグラフ秒針以外の針に特許申請中の新ゴールド素材「18Kムーンシャイン™ゴールド」を採用。9時位置のサブダイアルには月面に降り立つバズ・オルドリン飛行士の姿。そして、ケースバックにはニール・アームストロング船長が初めて月面にしるした足跡をレーザーエングレービング。その周囲には「APOLLO 11」「50TH ANNIVERSARY」「LIMITED EDITION 」、そしてシリアルナンバーがレーザーで刻印され、黒く染められている。注目すべきは、足跡の周りに18Kムーンシャイン™ゴールドの文字で記されたアームストロング船長のあの伝説の言葉……“THAT’S ONE SMALL STEP FOR A MAN ONE GIANT LEAP FOR MANKIND”だ。

 しかもムーブメントは、伝統のキャリバー1861から、そのマスター クロノメーター版とも言えるキャリバー3861へと、ついに進化を遂げた。パーツ数は234個から240個に増加し、石数も18石から26石に増えた。高耐磁性能に加え、精度も「-1秒〜+11秒」から「0秒〜+5秒」へと飛躍的に向上。しかもストップセコンド機能も搭載されている。

キャリバー3861

キャリバー3861

 ムーブメントも時計のディテールも、そして何よりも、思い入れたっぷりで凝りまくった「オプション」が素晴らしい。もっと評判になってもいいのでは? と、小学1年生の夏、父親に早朝起こされて、白黒テレビでアームストロング船長の月への第一歩を見つめていた元少年はそう思うのです。