スマートウォッチとスポーツバンドの融合。HUAWEI WATCH GTは意外な伏兵

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2019.08.19

優れた表示・操作性・機能性や応答性もセンサー精度次第

 独自開発のプラットフォームであるが故、他社製アプリなどは期待できないとはいえ、豊富な通知機能やコンパクトかつ軽量なボディを持つスマートウォッチとして、購入しやすい価格を考慮するならば本機はとても魅力的だ。しかし、搭載するセンサーの精度には意見を申し上げておきたい。

 筆者はガーミンやポラールのランニングウォッチでVO2max(最大酸素摂取量)を計測すると、おおよそ58前後の値を示す。調子が悪い時には53程度に下がるが、いずれにしろ50を切ることはない。

 ところが本機では37という値が出てくる。何度かランニングを記録したが、おおかたこの程度で安定しているため、“相対的な心肺機能の比較”という意味では大きな問題とは言えないだろう。あくまで自分自身の心肺能力を高めるための目安なのだから。

 しかしながら、本機ではさまざまな数値やフィットネスアドバイスの根拠となる心拍計の計測値が怪しい。しっかりと手首に装着してランしているにもかかわらず、心拍数が200を大きく上回ることがある。多くのフィットネスデバイスを使ってきた経験から言うと、本機の心拍数はおおむね10〜20ほど高く計測され、時折、実際の数値の2倍近い値となる。

 筆者は今年52歳になるが、心拍数が240を超えていると計測したなら、まず計測値を疑うレベルであるはずだ。

HUAWEI WATCH GT

緑色LEDを用いたセンサーにスマートAIアルゴリズムを組み合わせた「HUAWEI TruSeen 3.0™」を用いて計測する心拍計。筆者が使用した感覚では、若干精度に疑問ありとのこと。

 前述したVO2maxが低く計測される理由も、こうした測定誤差と無関係ではないだろう。どのような誤差があるのかを考えずに、トレーニング計画など立てることはできない。

 また、屋外ランニング時のGPS捕捉までの時間も(条件によるだろうが)数十秒かかる。スマートフォンのGPS情報を補足的に利用するAssisted GPSを含め、まだ工夫する余地はあるはずだ。

 ストラップ交換に関しても改良の余地がある。Apple Watchやウブロのように、その時の気分と利用シーンに合わせて選べ、さらにストラップ側ではなく本体側で簡単にストラップを交換できる機構を採用すべきだろう。そうすることで、ファッションだけでなくスポーツシーンなどにもマッチさせることができるからだ。あらゆる要素が入り込み、利用シーンも広いスマートウォッチだからこそ、ここには工夫が欲しかった。

 簡単にはいかないかも知れない。しかし、簡単ではないからこそ取り組む価値もあろうというものだ。

それでもカジュアルなスマートウォッチとしての存在感は驚異である

 苦言を呈したが、それでも本機の存在感の高さは驚異だ。ランニング用のアプリ機能は、専用ウォッチメーカートップと競るほどの機能性を持つ。アプリやサービスの機能、使い勝手は一流だ。

屋外サイクリングの活動記録。平均の移動速度や最高速度はもちろん、実際に走行した道順を地図上に表示してくれるほか、どの地点で速度が速く、また心拍数が高かったのかを知らせてくれる。さらにトレーニングの評価や必要な休息時間などを知ることができる点もありがたい。

 加えて言うならば、グローバルではサムスンのGalaxy GearやフィットビットのFitbit Versa Liteなどと競合する製品で、その中でもコストパフォーマンスに優れた製品と言えるだろう。

 つまり、今後のファームウェアアップデートでセンサー精度に関する問題が解決し、対応アプリの質も高まってくれば、いずれはHUAWEI WATCH GTがフィットネス専用ウォッチの領域を侵し始めるということになろう。

 Apple Watchほど独立したコンピューターとしての機能性は必要ない。むしろスポーツ向け、フィットネス向けの時計が欲しいというのであれば、将来はファーウェイの製品が第1選択肢となる得るだろう。

 このままブラッシュアップされれば、将来はスポーツウォッチを主戦場とするメーカーをのみ込む潜在力を感じた。


本田雅一
本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。