IoT時代におけるシチズンの挑戦と熱意「エコ・ドライブ Riiiver」

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2020.01.27

Iiideaで腕時計をパーソナライズ

 すなわち、商品としてのエコ・ドライブ Riiiverは「スマートフォン連動の腕時計」というハードウェア形態を採っているが、シチズンが立ち上げたいのはIiideaを用いて作られたアプリで緩やかにつながるIoTプラットフォームとしての「Riiiver」ということになる。

 そのエコシステムの基盤となる「Iiidea」はTSA(“トリガー”、“サービス”、“アクション”)を選択することで誰でも簡単にプログラムを作り、エコ・ドライブ Riiiverのボタンに最大3つまでを割り当てることができる。

腕時計に内蔵されたセンサーで歩数や消費カロリーを計測、アプリ上で計測結果を確認できる。活動量の目標を設定すれば、毎日の達成率も一目でわかる。なおアプリの背景は現実の空とリンクするように、時間が経つにつれて変化していく。

きっかけとなる「トリガー」、連動させたい「サービス」、動作を起こす「アクション」の3ステップで「Piece(ピース)」と呼ばれる機能パーツを組み合わせ、欲しい機能を作り出すことができる。専門知識があれば、開発者向けサイトからPieceそのものを作ることも可能だ。

 さらには作成したアプリはシチズンのサーバに登録され、他ユーザーともアイディアを共有できるという仕組みだ。

 たとえば歩数目標を決めておいた上で、その目標をどの程度クリア出来たのか割合を計算して指針させる、あるいはボタンを長押しすると特定のメールアドレスにあらかじめ用意したメッセージを送る(「これから帰るよ」とシンプルに家族に伝えるのもいいだろう)など、生活の中で頻繁に使うであろう機能を割り当てておく。

左から「トリガー」、「サービス」、「アクション」のPiece選択画面。四角いアイコンで表示されたPieceを選んでいくことで、自分の「iiidea」が出来上がる。時計のボタンを押したら現在の天気に合わせた音楽を再生する、なんて機能を作ることもできる。

 “サービス”の部分は、順次、シチズンやパートナーが開発し、コンポーネントを提供していくとのこと。たとえば、近くにあるランチスポットのジャンルを収集しておき、ランダムにランチのジャンルをサジェスチョンしてくれるといった使い方がRiiiverのサイトで紹介されていたが、どこまでそうしたニーズがあるのかは分からない。

 率直に言うならば、プログラミングから得られる価値や楽しさに、このプラットフォームが他デバイスにまで広がっていくだけの牽引力を感じないというのも正直なところだ。しかしながら、シチズンが腕時計という商材を通じて、IoTの世界へとつながっていきたいという意識の高さは見える。

社会的実験から社会インフラにどこまで近付いていけるのか

 クラウドファンディングで1億円を集めたエコ・ドライブ Riiiverプロジェクトは、テキサスで行われたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)での好評を得て米国での販売も開始されている。

 アイデアひとつで簡単にカスタマイズ可能で、またアイデアの元となるサービスも開発者として登録すればプログラムできるRiiiverに、ある種のユーザーを引きつける魅力があるとは思うが、一方でコミュニティーを維持できるだけのスケールを保てるかどうかには疑問もある。

 Riiiverはサービスのプラットフォームであるため、ソフトウェアの開発基盤のように勝者総取りの世界というわけではない。他のシステムとも連動しながら、Riiiverの中でIoTネットワーク、コミュニティーが形成されていけば、縮小が続く腕時計産業の中にあるシチズンとしては、それだけでも大きな成功だ。

ヴェルトから発売されたコネクテッドウォッチ「VELDT LUXTURE」もRiiiverに対応している。シチズンとヴェルトは2019年1月に資本業務提携を行い、Riiiverの開発と運営全般をヴェルトが担っている。

 しかしコミュニティーとして安定した規模を持つようになるまでには、まだいくつかの山を登らねばならない。

 スマートフォンアプリの安定性を高めるといった基本的な部分、(TSAのうちのSに当たる)サービスの拡充、他社製品連動などシチズン以外との協業といった“広がり”は、あまり感じない。

 シチズンは、Riiiverプロジェクトに参画する企業からSDK(ソフトウェア開発キット)利用料や広告掲載料、加入料型サービスの提供などで収益を挙げていきたいと話していたが、現時点でそこまでスケールする予感がしないのも、また正直な感想である。

 アイデアソンの開催など、社会的、技術的な実験としてのRiiiverは上手く創り上げられているが、これを企業が運営するプラットフォームとして、社会インフラの方向にどこまで近づけていけるのか。

 そんなことを考えながら、エコ・ドライブ Riiiverに触れていると、ふとバイブレーション機能がないことに気付いた。シチズンの熱意、新しい提案を作りたいという気持ちはたっぷりと届いたが、僕に届いたプライベートなメッセージは“静かに”伝えてほしいものだ。

本田雅一
本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。