次なる理想の幕開け「ザ・シチズン」

FEATURE本誌記事
2021.06.04

〝1秒の美しさ〟を追求する
シチズンに見るウォッチメイキングの哲学

2018年に発表されたキャリバー0100は、スタンドアローンで駆動する量産型の腕時計用ムーブメントとしては、史上最も正確なものだ。2020年、ザ・シチズンはこの傑作に手を加えた新作をリリースした。ケースサイズが直径39mmに拡大されたほか、ケース素材もステンレススティール製となった。しかし一層見るべきは、新しいブルー文字盤だ。機械式時計や普通のクォーツ時計に比べて制約の大きなエコ・ドライブにもかかわらず、本作は際立って良質な文字盤を持っている。

ザ・シチズン キャリバー0100 AQ6100-56L

ザ・シチズン キャリバー0100 AQ6100-56L
発電量の小さなエコ・ドライブにもかかわらず、消費電力の大きな高振動クォーツを採用したモデル。年差±1秒という精度を誇る。本作は傷の付きにくい表面を硬化処理したステンレススティールケースを採用したほか、ブレスレットなども変更された。日付表示はないが、リュウズだけで短針の早送りが可能である。エコ・ドライブクォーツ(Cal.0100)。17石。838万8608Hz。フル充電時約8カ月稼動。SS+デュラテクトα(直径39mm、厚さ9.7mm)。5気圧防水。77万円。「シチズンオーナーズクラブ」への登録により10年間無償保証・無償点検でサポート。

 今年、キャリバー0200で機械式時計への取り組みを表明したザ・シチズン。それを可能にしたのは、エコ・ドライブを搭載したザ・シチズンがいよいよ完成したため、であろう。

 1995年にリリースされたザ・シチズンは、高度な調整を受けた年差クォーツムーブメントを搭載していた。その動力源は、光発電のエコ・ドライブではなく普通のバッテリー。同社は95年の「アテッサ エコ・ドライブ」で光発電にシフトしたが、ザ・シチズンへの採用はその16年後であった。文字盤にポリカーボネートを使うエコ・ドライブは、金属文字盤のような質感を出しにくい。加えて、かつてのエコ・ドライブは太陽電池であるソーラーセルの色が強く、半透明な文字盤を通してその色が出ていた。高級時計には向かないという判断は当然だろう。

ザ・シチズン キャリバー0100 AQ6100-56L

1960年に発表された伝説的な高精度機が「シチズンクロノメーター」である。このモデルにあしらわれたイーグルマークが、2021年からザ・シチズンのロゴに復活した。先を見据え、理想を追求する姿勢と、身に着ける人に寄り添う意思を表現したものである。

 しかしシチズンは、全社を挙げてその改良に取り組んだ。ソーラーセルの受光効率を上げることで、半透明な文字盤には暗色を施せるようになり、消費電力の大きな年差クォーツムーブメントも載せられるようになった。そこで生まれたのが、2011年の「ザ・シチズン エコ・ドライブ」である。これは金属製に見紛う質感を持つ文字盤と、年差±5秒という高精度を持つ、新世代の光発電腕時計であった。以降もシチズンは、ザ・シチズン エコ・ドライブの改良に取り組み、19年には年差±1秒を誇る「ザ・シチズンキャリバー0100」を完成させた。これはクォーツムーブメントの到達した究極と言ってよい。まったく新しいATカット型水晶振動子による838万8608㎐という超高振動は年差±1秒という空前絶後の精度をもたらしたのだ。

(左)1秒の美しさを求めて導入されたのが、3番車に噛ませた逆転車と、それを司る戻しバネ。輪列にテンションをかけることで歯車同士の遊びをなくし、1秒ごとの正確な指針を可能にした。針を逆戻ししても正確に指針するだけでなく、硬化処理を施すことで、耐久性を高めている。(右)キャリバー0100に年差±1秒という圧倒的な高精度をもたらしたのが838万8608Hzで振動する水晶振動子(クォーツ)。一般的なクォーツに比べて256倍も振動数が多い。ATカット型という特別な形状を持つほか、金属製のボックスで強固に保持されている。シチズンの技術の結晶だ。

 この傑作に追加されたのが、20年の「ザ・シチズン キャリバー0100 ステンレスモデル」である。直径は39mmに拡大され、ケースにはサファイアクリスタル並みの硬さを与える表面硬化技術のデュラテクトαが採用された。文字盤も今まで以上に凝っている。青文字盤は鮮やかなブルーにガラス粉を混ぜたもの。シルバー文字盤も下地にサンレイ加工を施したものだ。半透明という弱点を逆手に取ることでザ・シチズンのエコ・ドライブは、文字盤に奥行きを持ったのである。

AQ6100-56A
こちらはシルバーダイアルのモデル。太くて長い針は、軽いアルミニウム製ではなく、重い真鍮製である。消費電力を考えれば、針は軽いほうが良い。しかし、1秒の美しさを追求するシチズンは、立体的な造形を与えられる真鍮製の針を選んだ。スペックは左と同じ。77万円(税込み)。

 文字盤での多彩な表現をより強調したのが、ザ・シチズンの新しい限定モデルである。キャリバー0100ほどシビアに消費電力を管理しなくてもよい年差±5秒モデルは、文字盤表現の自由度が高い。そこで本作は、文字盤に黒和紙を採用し、繊細なラメを重ね、星々が映り込む幻想的な夜の海を表現した。文字盤から光を通さねばならないエコ・ドライブで、黒文字盤を採用するのは極めて難しい。しかしペイントではなく、土佐和紙の中でも世界で最も薄いと言われる「典具帳紙」を使うことで、鮮やかな黒と、高い透過性という相反する要素を両立したのだ。

 従来、金属製の文字盤に比べて質感では及ばないと言われてきた光発電の文字盤。しかし、この新作時計の文字盤を見て、エコ・ドライブと分かる人はまずいないだろうし、むしろ、金属にはない個性を持つで、ザ・シチズン エコ・ドライブの完成形と言ってもよい。

ザ・シチズン AQ4090-59E

ザ・シチズン AQ4090-59E
2011年以降、文字盤の多彩な表現に取り組んできたザ・シチズン エコ・ドライブ。その完成形が本作である。文字盤には透過性の高い黒和紙を採用。加えて透明な部分にラメを撒き、奥行きのある漆黒と星空の映る夜の海を表現してみせた。エコ・ドライブクォーツ(Cal.A060)。フル充電時約18カ月稼動。Ti+デュラテクトα(直径40mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。予価44万円(税込み)。2021年7月発売予定。「シチズンオーナーズクラブ」への登録により10年間無償保証・無償点検でサポート。
ザ・シチズン AQ4090-59E

漆黒の土佐和紙文字盤を背景に、一筋のゴールドカラーを差した見返しリングと、同じくゴールドカラーの秒針、夜光塗料でブルーに光るインデックスと時分針は、夜の海を照らす、人々の営みを支える灯台や対岸の街灯りを表現したものだという。
ザ・シチズン AQ4090-59E

本作の針や文字盤には、ブルーの夜光塗料が採用された。光り方が均一なのは、夜光塗料の盛り方が一定のため。決してムラを出さないというのは、いかにも実用性を重視するザ・シチズンらしい。

「精度」「品質」「デサイン」そして「ホスピタリティ」という理想を掲げるザ・シチズン。1995年にささやかに始まったこのコレクションは、今や、その名の通り、シチズンが考える腕時計の理想そのものを体現する存在へと、大きく成長を遂げたのである。



Contact info:シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
https://citizen.jp/the-citizen/special


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