シチズン、メカニカル回帰元年 その真価に迫る

2021.04.02

2021年3月4日、シチズンが待望の新型機械式ムーブメント、キャリバー0200を搭載したメカニカルモデルを「ザ・シチズン」より発表した。久しく、クォーツムーブメントのみを採用していたザ・シチズンに機械式ムーブメントを搭載した新作が登場しただけでも大注目のニュースであるが、既存の90系も進化を遂げ、高級版のCal.0950のパワーリザーブが延びたうえに、復活を遂げた「シリーズエイト」の上位機種に搭載された。さらに「シチズン プロマスター」にも機械式ダイバーズウォッチが登場し、シチズンにとって「メカニカル回帰元年」と言える2021年。その真価を問う。

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200
2010年発表のCal.0910以来となる新型機械式ムーブメントCal.0200を搭載。ケースはラグを廃し、大胆な面で構成される。その面に強めのヘアラインとポリッシュ仕上げを施すことでシャープな立体感を与えるとともに、手の動きに合わせて光が走り、手元に存在感を与える。電鋳手法で製造された砂地模様の黒文字盤も味わい深い。自動巻き(Cal.0200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40.0mm、厚さ10.9mm)。5気圧防水。予価60万5000円。2021年8月発売予定。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事


キャリバー0200を搭載したメカニカルモデル

 ザ・シチズンとして2010年以来の発表となった新型機械式ムーブメント。これはシチズン傘下のスイスのムーブメントメーカー、ラ・ジュー・ペレの協力を得て開発されたものであるが、シチズンの開発担当者によれば、ラ・ジュー・ペレとのさまざまな技術交流や共同プロジェクトが始まったのは2012年だという。大局的には、シチズンがラ・ジュー・ペレ親会社のプロサー社を買収した際から、このプロジェクトが始動していたと言えるのだ。シチズンの次世代を担うキャリバー0200は、高精度機でおなじみのフリースプラングテンプを採用し、脱進機はLIGAによる製法で部品精度を高め、パワーリザーブもかつてザ・シチズンが搭載していたキャリバー0910の約42時間から約60時間にまで大きく延長された。加えて、自動巻き機構には片方向巻き上げを採用しているため、動きの少ないデスクワーカーであっても、細かな動きを拾って巻き上げてくれる。フリースプラングテンプに片方向巻き上げを組み合わせた自動巻きは、もはや現代人に必須だと言ってもよいだろう。

シチズン

(左)シリーズエイト 870 メカニカル
Cal.0950とCal.9051のふたつの機械式ムーブメントを採用する復活した「シリーズエイト」。このモデルは上位機種用のCal.0950を搭載する。Cal.0950はパワーリザーブが約50時間に延びたほか、JIS第2種耐磁性能を備え、デザイン性に加え、高い実用性も兼ね備える。自動巻き(Cal.0950)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径40.0mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。22万円。2021年8月発売予定。
(右)シチズン プロマスター メカニカル ダイバー200m
JIS第2種耐磁仕様の機械式ムーブメントCal.9051を搭載したダイバーズウォッチ。グリーンのダイアルとストラップが、デュラテクトでゴールド処理されたベゼルとDLC加工されたブラックのスーパーチタニウムケースによく映える。自動巻き(Cal.9051)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。スーパーチタニウム(直径46.0mm、厚さ15.3mm)。200m潜水用防水。14 万3000円。2021年5月発売予定。

 新型ムーブメントの開発にあたっては、審美性の確保と高精度が当初から挙げられていたというが、フリースプラングの採用はそもそも織り込み済みだったようだ。それだけ高精度に重きを置くと同時に、その開発に自信があったことの表れであろう。結果、6姿勢、3温度下での完成ヘッド状態で17日間にわたる自社検査において平均日差マイナス3〜プラス5秒をクリアしている。この精度はスイス公式クロノメーターが規定するマイナス4秒〜プラス6秒を超える高精度であるだけでなく、後者はムーブメント単体における15日間にわたる5姿勢での検査であるから、シチズンの自社検査がスイスのクロノメーター基準を凌駕していることが分かる。

フリースプラングテンプ

緩急針を廃したフリースプラングテンプのアップ。テンワのアームの上に歩度調整用の重りが見て取れる。耐震装置には新型の「ランブロック」が採用される。テンプ受けの上に見えるヒゲ持ち押さえネジのすり割りとネジ頭の外周が面取りされている点にも注目。

裏側はサファイアクリスタルによるシースルー仕様になっており、鳴り物入りで発表された自社開発のキャリバー0200を見ることができる。存在感のある直径29.1mmのムーブメントの地板には全面にペルラージュが、受けの上面にはヘアライン仕上げが施される。

 なお、ラ・ジュー・ペレとの協力関係は、同社が地板、受け、ローターなどを製造し、シチズンが心臓部であるテンプや歯車などのマイクロパーツを製造しているという。そもそも設計自体もシチズンというから、紛れもない自社開発ムーブメントと言っていいだろう。

 シチズンの機械式ムーブメントを巡るトピックはこれだけではない。復活を遂げた「シリーズエイト」からも、耐磁性能を強化(第2種耐磁)したキャリバー0950と9051を搭載した新作が発表された。「引き算の美学」をテーマにしたシンプルながらも実は凝った外装を持つシリーズエイトに、磁場に囲まれて暮らす現代社会で最も必要とされる耐磁性能を強化した機械式ムーブメントを載せた結果、意匠だけでなく、実用性においてもさらなる進化を遂げたのだ。

脱進機

LIGA製法によって成形されたガンギ車とアンクルからなる脱進機。精密に加工できるLIGAによって部品の加工精度が高められ、ガンギ歯と爪石の噛み合いがより厳密に制御可能になった。摩擦低減によるトルクロスの減少が高精度にも貢献しているものと思われる。

 シチズンの機械式モデルの新展開はさらに続く。プロ仕様の性能を持つ「シチズン プロマスター」にも前出の強化耐磁仕様のキャリバー9051が搭載されたメカニカルダイバーズが加わった。具体的には、1万6000A/mの磁気に1cmまで近づけても性能が維持できる水準だが、ダイバーズウォッチの本領である200m潜水用防水性能と併せて、活動領域が格段に広がったことは間違いない。

 2012年以来、沈黙を守ってきただけに、それが一気に開花した2021年はシチズンにとってまさに「メカニカル回帰元年」と呼ぶにふさわしいスタートダッシュとなった。次号以降もこの新型メカニカルムーブメントとその詳細について、つぶさな取材を通して報告する。

Cal.0950

「シリーズエイト 870 メカニカル」が搭載する自動巻きムーブメントCal.0950。上位機種が搭載するCal.0950はテンプに微動緩急針を備えているのが特徴。1万6000A/mの強化耐磁性能は耐磁板を設けることなく、ヒゲゼンマイとその周辺の素材を替えることで耐磁性能を高めているため、薄型ケースとの両立がかなえられた。平均日差-5~+10秒。



Contact info: シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807


いきなり世界水準!新型自動巻きを載せた大作「ザ・シチズン メカニカル Cal.0200」!!

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