フレデリック・コンスタント 革新の向こう側へ。モノリシック オシレーターは世界を変えるのか?

FEATURE本誌記事
2021.11.11
PR:FREDERIQUE CONSTANT

フレデリック・コンスタントの「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」は一見、文字盤の6時位置に設けられた開口部が、同社のハートビートムーブメントを思わせる。しかし開口部からのぞくのはテンプではなく、全く新しいモノリシック オシレーターだ。ごくオーソドックスな見た目の時計を駆動するのは、革新をはるかに超えた、新時代の心臓である。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年11月号掲載記事]


モノリシック オシレーターが実現する機械式時計の進化

スリムライン モノリシック マニュファクチュール

 機械式時計には不可欠な脱進機とテンプ。さまざまなメーカーが改良に取り組んできたが、真に革新的なものは多くない。少量生産ならともかく、量産を前提とするならなおさらだ。そこに一石を投じたのが、フレデリック・コンスタントの「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」だ。同社は声高に主張しないが、これは機械式時計の在り方を数世紀ぶりに刷新した時計なのである。

 このモデルが搭載するのは、脱進機のアンクル部分とテンプ(テンワおよびヒゲゼンマイ)を一体化したモノリシック(一体型)オシレーター。ガンギ車がゼンマイの回転運動を振幅運動に変換するのは、今までの機械式時計に同じ。しかし、アンクルとテンプは一体成形のシリコン製モノリシック オシレーターに置き換えられた。アンクルとテンプがひとつにまとめられたため、部品点数が減り、さらに軽いシリコン素材を使うことにより、振動数が28万8000振動/時に向上した。これは一般的な機械式時計の10倍。その結果、理論上の等時性は上がり、姿勢差誤差も小さくなった。

Cal.FC-810

スリムライン モノリシック マニュファクチュールが搭載する、自社製自動巻きのCal.FC-810。ベースとなったのは既存の自社製自動巻きだが、ガンギ車の回転を速くするための追加輪列を加えたうえ、6時位置に脱進機とモノリシック オシレーターを追加している。脱進機の効率が上がった結果、振動数は既存ムーブメントの10倍に、パワーリザーブは約80時間に延びた。しかし、メーカーの公表する耐磁性能は1万6000A/m、静態精度は-4~+6秒とあくまで控えめだ。

 かつて、LVMHグループの各社が同じような設計の一体型オシレーターに取り組んだ。しかし、この試みはうまくいかなかった。最も大きな理由は、テンプとアンクルを一体化したオシレーターが大きかったため、と言われている。サイズが大きくなるとオシレーターの製造コストは増え、慣性も大きくなるためショックに弱くなる。後にこのオシレーターは、強い衝撃を受けても平滑さを保つような「ガイド」を加えたが、根本的な解決にはならなかった。

 その弱点を潰したのが、フレデリック・コンスタントのモノリシック オシレーターと言える。文字盤の6時位置から見えるのがシリコン製のガンギ車とアンクル、テンプを一体成形したモノリシック オシレーター。文字盤全体を覆っていた他社のシリコン製オシレーターと比べて、極端に小さいのが分かる。

モノリシック オシレーター

6時位置からのぞくのは、テンプではなく脱進機とモノリシック オシレーター。28万8000振動/時という、極めて高い振動数で「震える」。なお、写真のモデルはプロトタイプ。実機はより高い性能を求めるため、形状はより進化している。

 オシレーターを開発したピム・コースラグはこう述べる。「他メーカーが作ったものの性能や機構を、判断と推測することは控えたいと思います。しかし、私たちのモノリシック オシレーターは厚みが0.3mmと非常に薄く、外径も9.8mmと小さいのです。そのためオシレーターは大変軽くなっただけでなく、慣性モーメントも小さくなりました。それらが精度向上に寄与しています」。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S6

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S6
脱進調速機をほぼ一体成形した、量産型自動巻き時計。技術の詳細は分からなくとも、その高い性能と耐磁性能は、ユーザーにとっては大きなメリットになるだろう。自動巻き(Cal.FC-810)。19石。28万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm、厚さ11.38mm)。3気圧防水。世界限定810本。59万4000円(税込み)。11月発売予定。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール

 モノリシック オシレーターの動きは、柱時計のガンギ車と振り子のそれに似ている。ガンギ車が回転すると、その歯に接触するオシレーターの突起が、アンクルのように左右に動いて、一体成形されたオシレーターを振動させる。柱時計と異なり、どんな姿勢でもオシレーターが作動するのは、オシレーターの一部をくり抜いて、ヒゲゼンマイのようなバネ性を持たせているためだ。テンプにおけるヒゲゼンマイに同じく、弾力性のあるバネがオシレーターを元の位置に戻すため、オシレーターはどんな姿勢でも作動する。「モノリシック オシレーターは、テンワ、ヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車といった機構群に取って替わる部品」と、コースラグが説明した通り、モノリシック オシレーターは、ヒゲゼンマイの役目を果たしている点も新しいのである。

 また、素材に非磁性のシリコンを使うことで、モノリシック オシレーターは、極めて高い耐磁性能を持つ。フレデリック・コンスタント曰く、オシレーター自体は磁力の影響を全く受けない、とのこと。また、時計自体もISO764が定めた「第2種耐磁時計規格」、つまり1万6000A/mという高い耐磁性能を持っている。理論上の耐磁性はさらに高いと推測できるが、過剰なスペックを謳わなかったのは、いかにもフレデリック・コンスタントだ。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MCN3S6

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MCN3S6
スリムライン モノリシック マニュファクチュールには2種類の文字盤がある。創業以来、良質な文字盤を採用する同社だけあって、下地にメッキを施したブルーラッカーは実に鮮やかだ。コントラストを強調するため針は白。世界限定810本。59万4000円(税込み)。11月発売予定。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S6

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S6
オーソドックスなシルバー文字盤。クル・ド・パリ模様をあしらったギヨシェ風の文字盤は、程よいエッジと立体感を両立する。先端を曲げた時分針も、クラシカルさを強調する。最新のオシレーターとのコントラストが実にユニークだ。世界限定810本。59万4000円(税込み)。11月発売予定。

 同社は明言しないが、モノリシックオシレーター小型化の鍵が、遅れ進みを調整するふたつの錘(おもり)である。普通の機械式時計は、緩急針を使ってヒゲゼンマイの長さを調整するか、テンワの慣性を変えて、時計の遅れ進みを調整する。しかし、ヒゲゼンマイを持たないモノリシック オシレーターは、そもそも緩急針を採用できない。となれば、後者を選ぶしかないが、テンプの代わりとなるオシレーターは、割れやすいシリコン製なのである。慣性を調整するための錘は取り付けられない。そのため、かつてのシリコン製オシレーターは、慣性を変えるために、錘ではなく大きな可動式のブレードを組み込まざるを得なかった。大きなブレードを載せるには、オシレーター自体を大きくする必要がある。

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S9

スリムライン モノリシック マニュファクチュール FC-810MC3S9
スリムライン モノリシック マニュファクチュールでは、SSケースの他に18KRGケースも81本販売される。自動巻き(Cal.FC-810)。19石。28万8000振動/時。18KRG(直径40mm、厚さ11.38mm)。3気圧防水。世界限定81本。198万円(税込み)。11月発売予定。

 対してモノリシック オシレーターには、重い棒状の錘(素材は非公表だがシリコンではない)が別部品として取り付けられた。そのため、オシレーターを大きくすることなく、慣性の調整が可能になったのだ。割れやすいシリコン素材に別部品を取り付けるのは極めて難しいが、なんとフレデリック・コンスタントは、それを実現してしまったのである。あるメーカーの技術者が「どうやって取り付けたのか分からない」と述べたのも納得だ。なお、2本の錘による精度調整の幅は1日約120秒。実用時計としては十分だろう。

 このモノリシック オシレーターは、フレデリック・コンスタントとオランダのフレクサス社が共同開発したもの。この取り組みにより、フレクサス社はユニークなシリコンプレートの量産に成功しただけでなく、フレデリック・コンスタントが目指す「手の届きやすい価格」(コースラグ)をも実現した。新しいモノリシック オシレーターを載せたスリムラインモノリシック マニュファクチュールの価格は、SSケースでアンダー60万円。極めて革新的な内容を考えれば、この値付けは極端に戦略的だ。

モノリシック オシレーター

心臓部であるモノリシック オシレーターには、遅れ進みを調整する錘が取り付けられる。難しそうに見えるが「シリコンの弾力を使うので、圧入だけで固定できる」とのこと。なお、すべてのシリコン部品には表面の平滑さと強度を高めるため、酸化処理が施される。加温しても残った部品は耐久性に優れている、とコースラグは述べる。

モノリシック オシレーター

モノリシック オシレーターには、十分な耐衝撃対策が施されている。ピンセットでつままれているのは、オシレーターの上に被せるカバー。衝撃を受けてオシレーターが傾いても、カバーに設けられたガードに接触することで、部品が歪んだり、破損しないようになっている。実用性への細やかな配慮は、いかにもフレデリック・コンスタントだ。

 フレデリック・コンスタントの面白さは魅力的な価格に加えて、このオシレーターをベーシックなスリムラインのケースに収めたことにある。今までの調速脱進機(脱進機とテンプ)と全く異なる構造を持つモノリシック オシレーターは、そう言って差し支えなければ、機械式時計の歴史を約350年ぶりに塗り替える、革新的なメカニズムだ。他のメーカーならば、その新しさを強調するため、モダンなケースやデザインを与えたに違いない。対してフレデリック・コンスタントは、この新型オシレーターを、あくまでも「普通」の時計に採用したのである。遠目から見ると、そのデザインはテンプを文字盤側に見せた「ハートビート」にそっくりだ。あえて普通を装ったのは、モノリシック オシレーターを普及させようとする、フレデリック・コンスタントの意志の表れではないか。

 驚くべき未来を、手の届く価格とオーソドックスなパッケージにまとめてみせたスリムライン モノリシック マニュファクチュール。仮にこのオシレーターが普及したなら、機械式時計の在り方は、大きく変わっていくかもしれない。

コンパクトなオシレーターならでは 開発者が語る利点とは?

ピム・コースラグ

ピム・コースラグ[フレデリック・コンスタント/マスター・ウォッチメーカー]
1981年、オランダ生まれ。クリエイティブ・アート・スクールを卒業後、エンジニア学校に入学。在学中、フレデリック・コンスタントの創業者であるピーター・C・スタースと出会い、自社製ムーブメントの開発に協力。2004年には自動巻きの「FC-910」を完成させた。卒業後はジュネーブに移住し、フレデリック・コンスタントのムーブメント開発を指揮する。

マスター・ウォッチメーカーとしてフレデリック・コンスタントの陣頭指揮を執るのが、ピム・コースラグだ。「モノリシック オシレーター開発のアイデアは今から3年前に始まりました。オシレーターを普通のテンプやヒゲゼンマイと同サイズに収めたのは、4つの理由があるからです。まずは軽いほど衝撃に強くなること。そして慣性モーメントを小さくできる結果、弱いトルクでオシレーターを動かせること。また、DNAであるハートビートのデザインを踏襲できるうえ、価格を抑えられるのです。理論上、より高い精度を与えることは難しくありません。しかし、手の届くラグジュアリーを実現するため、あえて抑えています。それに、このオシレーターは安定性が極めて高いため、実際の携帯精度が悪くなりにくいのです。またオシレーターは軽いうえ、対称の形状を持つほか、重心がちょうど真ん中に来るようになっています。その結果、姿勢差誤差も起こりにくくなっています」。



Contact info: フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988
スリムライン モノリシック マニュファクチュール 特設サイト


徹底討論!! フレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」とは?

https://www.webchronos.net/features/69962/
動画で解説、フレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」

https://www.webchronos.net/features/69963/
フレデリック・コンスタント「スリムライン モノリシック マニュファクチュール」のすべて

https://www.webchronos.net/special/frederiqueconstant/