永遠の中に息づくエレガンス、パテック フィリップ「インライン永久カレンダー Ref.5236P」

FEATUREその他
2021.10.26

4枚のディスク

 前述したように、視認性は、小宇宙を閉じ込めた機械である永久カレンダーにとっての要である。直径と厚さが限られた腕時計の中で最高の視認性を実現するために、技術者たちは月と曜日に1枚ずつ、そして日付に2枚(ひとつは10の位、もうひとつは1の位)の、合計4枚の独立したディスクからなる革新的なシステムを開発した。その目的は、数字やその他の表示を可能な限り大きくしながら、パテック フィリップ・シールの規定に沿ってシステムの長期的な信頼性を最大限に高めることであった。

 キャリバーの厚みを抑えるため、永久カレンダー機構は特別に設計された地板の上に組まれた、別組のモジュールとなった。4枚のディスクの採用により、従来の永久カレンダーの表示システムに比べ、部品のパーツ点数は118個増えている。全ての情報が同じ平面上に重なりなく表示されるよう、パテック フィリップの設計者と時計師たちは、同一平面上のボールにふたつの小さなボールベアリングを組み込んだディスプレイ方法を考案し、特許を取得した。

Cal.31-260 PS QL

自動巻きキャリバー31-260 PS QLは、部品総数503個で構成されている。

 この永久カレンダー機構については、さらにふたつの特許出願がなされている。ひとつは、31日から1日への日付変更を実行するための装置に関するものであり、31の歯のうち2枚を取り除いた日付歯車の考案によって日付が31日から1日に変更する時に1の位(数字の1)はそのままのポジションに留まるというものである。もうひとつの特許は衝撃吸収装置に関するもので、日付表示の安全性を高めると同時に、2枚のディスクの完璧な同期を実現させている。これにより衝撃があった場合や調整中の予期せぬ日付のジャンプを回避することができるのである。これは非常に重要な考慮である。なぜならば仮にユニットが時間軸とずれてしまった場合、唯一の解決策としては時計をメーカーに戻すしかないからだ。

 一瞬でジャンプするのではなく、徐々に変わっていく表示法を採用しつつ、これらのカレンダー表示(曜日・日付・月)には4時位置に閏年表示、8時位置にデイ/ナイト表示のふたつの小さな丸い窓がある。このふたつの小窓は、カレンダーを調整する際に非常に便利で、ケースサイドに設置された3つのコレクターを使って簡単に調整することができる。4つ目のコレクターはムーンフェイズに関するもので、6時位置のスモールセコンドダイアル中央の開口部に極めて正確に表示される。

Ref.5236P

曜日、日付、月、閏年、昼夜を窓表示。

動力の最適化

 このカレンダーモジュールには、2011年に発表されたアニュアル・カレンダー・レギュレーターRef.5235の旧キャリバー31-260 REG QAをベースにした新キャリバー31-260 PS QLが搭載されている。この新しい自動巻きムーブメントでは、マイクロローターを埋め込み式にすることで厚さを5.8mmに抑えている。このムーブメントがエネルギーを大量に消費する永久カレンダーを駆動させるためには、パテック フィリップの最新の技術革新を取り入れる必要があった。そのため香箱のトルクを20%向上させ、マイクロローターの巻き上げ効率を高めるために、従来使用されていた22Kゴールドよりも質量の大きいプラチナをローターに採用した。また、カレンダーディスクを駆動する輪列のベアリングをルビーにしたことも、エネルギーの最適化に貢献した。

 さらに新キャリバー31-260 PS QLには、シリコン系の独自素材「Silinvar®(シリンバー)」を使った「Spiromax®(スピロマックス)」のヒゲゼンマイとともに、手巻き時に自動巻きメカニズムを切り離して摩耗を防ぐ減速車が搭載されており、これはパテック フィリップが2019年に特許を取得したものである。

 最後に触れておきたいのが、脱進機とスイープセコンド針のためのふたつの特徴的なブリッジを備えたムーブメントの新しい外観だ。この複雑なレイアウトは、時計師にとっては悩ましいものであるが、時計愛好家にとっては、構造と惜しみなく仕上げられたパーツが、サファイアクリスタル製ケースバックを通して一望できる眺めを提供してくれる。

Ref.5236P

プラチナ製偏心マイクロローターを含め、卓越した仕上げ装飾の施されたムーブメント。

永久カレンダーに必要なもの、それは時代を超越した美しさ

 永久カレンダーに必要なもの、それは時代を超越した美しさだろう。そしてこれこそが、Ref.5236Pの文字盤とケースから伝わってくるものなのである。面取りとポリッシュ仕上げが施されたベゼルがブラック・グラデーションのブルーダイアルを取り囲む。パテック フィリップのプラチナモデルの特徴として、ケースサイドの6時位置にはダイアモンドがセッティングされている。3つの表示が一列となった永久カレンダーは白地に青字で表され、完璧さを具現化する一方、レイルウェイミニッツトラックと6時位置の(超高精度ムーンフェイズを囲む)サブダイアルがテクニカルな要素を付加し、そこにホワイトゴールドのバトンスタイルの針とアワーマーカーがアクセントを加えている。

 流れるような構造、端正な文字盤、完璧なプロポーションのプラチナケースが、何年、何十年、何世紀にもわたってカレンダーを動かしていくように宿命付けられたタイムピースを完成させている。「インライン永久カレンダー Ref.5236P」はまさに永遠を宿した時計なのである。

Ref.5236P

プラチナ仕様。 サファイヤクリスタル・バックと通常のソリッド・ケースバックが共に付属する。



Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
Tel.03-3255-8109


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