バーゼルよりロンドン!? 示唆に富むイギリス人ジャーナリストの仰天提案

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2021.10.31

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

2021年6月23日(現地時間)、突如として、2022年の「復活」を発表したバーゼルワールド事務局。だが、その会期が「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」と完全に重なるため、今なお、その開催に懐疑的な目を向ける関係者は多い。そんな中、海外の時計専門サイト「WATCHPRO」に、バーゼルワールド開催に関して興味深いコラムが掲載された。ジャーナリストの渋谷ヤスヒト氏が、そのコラムを深読みする。

渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
(2021年10月31日掲載記事)

今回取り上げた「WATCHPRO」(www.watchpro.com)のロブ・コーダー氏による10月20日掲載のコラム記事(下記URL参照)。
https://www.watchpro.com/corders-column-london-preferred-to-basel-for-a-global-spring-watch-fair/


海外の時計専門サイトが放ったユニークな提案(!?)が呼ぶ波紋

 海外のウェブサイトには、ときどき時計に関する、日本では滅多にお目にかかれない面白いコンテンツやコラムが載ることがある。先日のこの連載で書いた「世界一“気の毒な”時計ブランド『ロレックス』について改めて考える」でも紹介した、アメリカの「Yahoo!ファイナンス」の、いわゆる「ロレックス陰謀論」に関するコンテンツもそのひとつだ。

世界一“気の毒な”時計ブランド 「ロレックス」について改めて考える

https://www.webchronos.net/features/70429/

 そして筆者のような時計業界の人間にとって目が離せないのが、海外の時計専門サイト。今回取り上げる「WATCHPRO」も、そんな時計専門サイトのひとつだ。イギリスから発信されている「時計業界紙」的な時計のプロフェッショナル向けのウェブサイト。あくまでイギリス中心だが、新作時計はもちろん、イギリス時計業界の景気や時計業界のトップインタビューまでさまざまな記事が掲載されている。

 去る10月20日、このウェブサイトに日本の時計ウェブサイトでは絶対に書かれることがない面白いコラムが公開された。タイトルは「春に時計フェアをするなら、バーゼルよりはロンドンだ(原題:London preferred to Basel for a global spring watch fair)」。この中身がかなり刺激的で面白いので、今回はこのコラムを紹介したい。

 このコラムを書いたのは「WATCHPRO」の主筆、ロブ・コーダー氏。コラムのテーマは、2022年に復活する「バーゼルワールド」だ。

 すでに参加を表明したブランドもあるが、前途多難で、その成否にはまだ疑問符が付いている。このあたりの事情と状況について、「バーゼルワールドの復活」を海外ジャーナリストがどのように見ているのか、このコラムからはよく分かる。わざわざ英語で読むのは面倒、という人のために、以下にその概要をご紹介しよう。


バーゼルワールドへの静かなるアンチテーゼ!?

 同コラムはまず、コーダー氏が自分のLinkedIn(ビジネスパーソン向けのSNSサービス)のフィールドで行った「時計愛好家と時計業界のエグゼクティブによるオンライン投票」の結果紹介から始まる。

 投票のテーマは「2022年春に大規模な時計フェアを開催するのに適切な候補地はどこ?」というもの。これに対し、コーダー氏のフォロワーから118人が投票。そして投票の結果は、バーゼル、ニューヨーク、ドバイを抑えて、ロンドンが1位になったというのだ。その詳細はぜひ「WATCHPRO」でご覧いただきたい。ちなみに、コーダー氏はLinkedInに7500人のフォロワーが居るそうだ。

 そしてコーダー氏は「バーゼルで時計フェアをやるなら、会場は歴史のある旧市街であるべき」という積年の持論を展開した上で、いよいよ本題に入る。

「自分はバーゼルワールドを応援する準備はあるが……」と述べた上で、この投票結果を根拠に「もし開催できないようなら、『ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022』に出展できない他のブランドのために、ジュネーブに引き続いて、ロンドンで時計フェアをやってはどうか?」と提案するのだ。

 コーダー氏はこの「提案」と共に、バーゼルワールドの事務局ばかりでなく、バーゼル市や周辺地域のホテルなどが長年続けてきた、フェア来場者に対する「特別なおもてなし」に対する静かな怒りを、わずか数行で、イギリス人らしい皮肉を込めて静かに爆発させている。

バーゼルワールドに長年通った経験のある時計ブランドのスタッフや、百貨店や時計店のバイヤーの皆さんには、この部分をぜひ読んで笑ってほしい。

バーゼルワールドのオフィシャルサイトのトップページ。2021年8月末、「GENEVA WATCH DAYS」の初日にYouTubeで配信された、主催者であるMCHグループCEOとフェアのマネージングディレクターであるミシェル・ロリス-メリコフ氏の対談風景の画像が使用されている。


ジュネーブの次はロンドン!?

「ジュネーブのウォッチズ&ワンダーズの次はロンドンでウォッチ・フェアを!」というこの提案。本気とも冗談とも取れるもの。

 だが、時計ブランドのファクトリーこそないが、イギリスにはスイスに負けない時計の伝統がある。イギリスにはグリニッジ天文台など、時計の歴史を語る上で欠かせない歴史的な施設があるし、大英博物館の時計コレクションも素晴らしい。飛行機ならジュネーブからバーゼルと、ジュネーブからロンドンへの移動時間に大きな差はない。

「バーゼルよりロンドン」の可能性は、あながちゼロではないかもしれない。それにしても、何と挑戦的なアンケートだろう。こういう投票をやってしまうところが、なんともイギリス人らしくて面白い。

 最後にコーダー氏は「近々、バーゼルワールド事務局から重大発表があるという噂がある」と意味深なことも書いている。ただ、それがどんなものかについての記述はないし、このコラムを書いている2021年10月28日の時点では、まだバーゼルワールド事務局から「重大発表」はない。

 もし、この噂の重大発表があるとしたら、やはり会期の変更か、それとも延期もしくは中止……。いずれにせよ、バーゼルワールド「復活への道」は「いばらの道」であることは間違いない。

 さて、バーゼルに通ってきた時計業界の関係者の皆さんは、このコラムを読んでどんなことを思うだろうか? またバーゼルワールドや時計フェアについて今、どんな意見や感想をお持ちだろうか?

 できれば、Zoomなどを使って年末にでも、ぜひ時計業界の皆さんの時計フェアに対する気持ちやこのコラムに対する感想を聞いてみたいと思う。時計店やバイヤーの方など、筆者とは違うさまざまな経験や思いをお持ちの方がいらっしゃると思うので。



世界一“気の毒な”時計ブランド 「ロレックス」について改めて考える

https://www.webchronos.net/features/70429/
バーゼルワールド「突如復活」の裏事情とは? ―傲慢なノスタルジーの行方―

https://www.webchronos.net/features/69736/
突如、2022年の「復活」を発表! バーゼルワールドはカムバックできるか?

https://www.webchronos.net/features/66968/