グランドセイコーの「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」出展が証す世界で認められたという画期的な意義

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2021.12.23

名実ともに高級時計の祭典

 ところで、「グランドセイコー」が初出展する、2022年3月30日から4月5日までジュネーブの国際見本市会場「パレクスポ」で開催される「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」とはどんなイベントなのか。

 このフェア(の前身)が始まったのは今から30年前の1991年。“高級時計にふさわしいラグジュアリーな空間で高級時計の新作を世界に向かって披露する”という目的から、カルティエなど、現在のリシュモン グループ傘下の高級時計ブランドが、世界最大の時計宝飾フェアであった当時の「バーゼル・フェア」とは別にスタートさせ、「サロン・インターナショナル・オート・オルロジュリ(国際高級時計展、略称SIHH、通称ジュネーブ・サロン)」として2019年まで開催してきた。コロナ禍のために、残念ながら2020年、2021年はオンラインで開催されたが、2022年は再びフィジカル(リアル)な時計フェアとして開催を目指している。

 出展する時計ブランドの数は少ないが、その分、ラグジュアリーでハイエンドな時計ブランドばかりなのが、このフェアの最大の特長だ。

 その中核が、1991年にこのフェアをスタートさせたリシュモン グループ(当時はヴァンドーム グループ)傘下のカルティエ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ジャガー・ルクルト、ピアジェ、A.ランゲ&ゾーネ、IWC、ロジェ・デュブイ、モンブラン、パネライ、ボーム&メルシエだ。さらにケリング・グループ傘下のジラール・ペルゴ、ユリス・ナルダン。加えて、現代を代表する天才時計師が設立したパルミジャーニ・フルリエ。高級時計に本気で取り組むエルメスも出展してきた。特にケリング・グループの2ブランドとエルメスは、ラグジュアリーな世界を求めてバーゼルワールドから出展先をわざわざ変更して参加したブランドだ。

 そして、グランドセイコーが初参加する2022年からは、バーゼルワールドの中核だったトップブランドも初参加する。何と言っても最大の話題は、世界で最も人気の高いロレックスの参加だ。加えて、時計愛好家やコレクターが愛するパテック フィリップやショパール。時計作りに本気のシャネル。身近な価格で驚きの品質と機能を実現して時計のプロフェッショナルも絶賛するチューダーである。

 さらにLVMHグループ傘下のウブロ、ゼニス、タグ・ホイヤー。中堅ブランドから一流ブランドに進化したオリス。リシュモン グループ傘下の宝飾ブランドであるヴァン クリーフ&アーペルも久々に出展する。

 セイコーウオッチの広報部に取材したところ、フェアへの参加は事務局からのオファーに応えたようだ。つまりグランドセイコーは、このフェアを主催してきたスイスのハイエンドなブランドから、肩を並べる存在として認められ、迎え入れられたのだ。

 そのような扱いを受ける理由は、日本ではほとんど知られていないが、世界でも中国と1、2を争う時計市場であるアメリカでグランドセイコーがロレックスと肩を並べる圧倒的な人気を獲得しているからだ。

 ある調査によれば、アメリカではグランドセイコーは2020年、5000ドルから7000ドル(約56万円〜80万円前後)の価格帯で、ロレックス、オメガに次ぐ第3位の人気を獲得している。

 筆者が観た、アメリカの「時計YouTuber」が公開しているコンテンツの中には、「ロレックスとグランドセイコー、どっちが良い時計か」という対決企画で「断然、グランドセイコーの勝ちだ」と主張するものもある。

 これは2017年に発表されたグランドセイコーの独立ブランド化と、2021年4月1日にセイコーウオッチの社長に就任した内藤昭男氏が、2016年から2020年春まで在籍した米国現地法人時代に取り組んだ、コアな時計コレクターに対して、グランドセイコーの技術力や製造工程の状況をアピールする斬新なブランドPR戦略、販売戦略の成果だ。

グランドセイコー GPHG

2021年の「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ」の授賞式にビデオ出演したセイコーウオッチの内藤昭男社長(2021月11月4日)。

 そして、内藤社長がグランドセイコーを中心に、アメリカに続いてラグジュアリービジネス拡大の最大のターゲットとしているのが、スイス時計の牙城であるスイスを始めとするヨーロッパ各国である。名門宝飾時計メゾンが集うパリのヴァンドーム広場に直営ブティックをオープンしたのはそのためだ。

 すでにヨーロッパ各国の時計ジャーナリストやコレクターは、機械式ムーブメントの主ゼンマイ、ヒゲゼンマイからネジ1本まで、すべて自社内で開発・製造するグランドセイコーの価値を認めている。

 しかしスイスをはじめヨーロッパでは、アメリカのようにその認知が一般の人々にまで浸透しているわけではない。残念ながらまだ知名度は高くない。

 セイコーは1960年代末から、アジアの時計ビジネスの中心地だった香港を筆頭に、アメリカやヨーロッパ各国、さらに中南米にも現地法人を設立し、海外展開を積極的に行ってきた。

 そして1969年に世界で初めてクォーツ腕時計を製品化し、発売。基本特許を確立したクォーツ腕時計をきっかけに世界の時計市場を席巻した。現在では総売上額が世界のトップ10に入るビッグブランドとなっている。

 ただ売れ筋の主力製品は5000ドル未満で、しかも低価格帯が中心だった。そのため、特に高級時計の本場であるヨーロッパやアメリカでは、「セイコー=低&中価格帯の時計ブランド」というイメージが定着していたのだ。

 もちろん、セイコーはこのイメージを打ち破るべく、過去に何度も挑戦を続けてきた。1979年には高級時計ブランド「クレドール」を創設。さらにこの年、超薄型ムーブメントの開発で知られるスイスの時計ブランド「ジャン・ラサール」の販売部門を買収。このブランド名で翌1980年からこのブランドで海外展開を行った。1985年から国内販売も行ったので、このブランド名を憶えている年配の方もいるだろう。しかし2000年前後にスイスの同社は清算され、現在は存在しない。

 また「クレドール」ブランドでの高級時計の海外展開も行われてきた。だが残念ながら、成功しているとは言えない状況であった。

 その意味でも、今回のグランドセイコーのジュネーブの時計フェアへの初参加・出展は、ブランドの知名度アップには最善の方法で、またの最良のタイミングであり、これ以上はないほど大きな飛躍のチャンスだ。

 2020年に発表した最新型ムーブメントが、時計技術者や時計ジャーナリストなど、時計のプロから圧倒的な高い評価を得ていることもあり、グランドセイコーの価値は、この参加・出展が起爆剤になってヨーロッパでも認知されるだろう。

セイコー ヴァンドーム広場

上は、2020年3月、パリのヴァンドーム広場にヨーロッパ初の「グランドセイコーブティック」をオープンしたことを告知するセイコーのプレスリリース。
https://www.grand-seiko.com/jp-ja/news/pressrelease/20200123


日本の時計から世界の時計へ

 1960年に「グランドセイコー」ブランドを創設した人々の夢が、それから約60年を経て、ついに時計王国スイスとヨーロッパで大輪の花を咲かせようとしている。2022年、ジュネーブで発表される新作に大いに期待したい。



グランドセイコーがジュネーブの時計フェア WATCHES & WONDERS GENEVA 2022に初出展!介

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