洋食ビストロ TŌYAMA(西麻布)/この世ならぬ美味のクリエイター

LIFEIN THE LIFE
2022.05.22

“大人の洋食”をコンセプトに掲げた、西麻布に佇む温かな一軒。各地で腕を振るってきた遠山忠芳氏の料理を求め、夜な夜な足繁く通うゲストでにぎわう。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2022年5月号掲載]

洋食ビストロ TŌYAMA

天草大王と春野菜のロティ 熊本産アオサのソース
熊本県の地鶏「天草大王」のモモ肉とムネ肉を、表面は芳ばしく、中はしっとりと火入れ。鶏出汁と生クリームを合わせたアオサのソースと、赤ワインマスタードが鶏の旨味を際立たせる。ソテーした菜の花と芽キャベツ、赤キャベツのマリネを添えて。2種類あるコースのいずれでも3皿ある前菜の一皿として提供。熊本ワインの菊鹿シャルドネと共にぜひ。


想いが生みだす居心地の良さ

遠山忠芳

遠山忠芳(Tadayoshi Tooyama)
1971年、熊本県生まれ。専門学校卒業後、福岡県で料理人の道に。熊本のホテルでフランス料理の研鑽を積み、料理長に昇格。2012年より京都へ拠点を移し、「ビストロセプト」「洋食おがた」でシェフを務める。17年、上野に「洋食遠山」を開業。20年11月より現職。

 熊本、福岡、京都、そして東京に拠点を移し、厨房に立ち続ける遠山忠芳シェフ。この道30余年。

 一昨年オープンしたこちらでは、自身の故郷である熊本を主軸とした九州の食材をメインにもてなす。朝4時に熊本の田崎市場から直送される鮮魚の数々は、ディナータイムには優美な姿となってゲストの目の前に。看板食材である「天草大王」は、8年以上使い続ける熟知した地鶏だ。「海の近くの養鶏場で海藻を食べて育てられているので、ミネラル豊富で旨味が強く、柔らかな肉質が特徴です。ポテンシャルの高さから、タルタルやタタキ、ローストなど幅広い調理法に適しています」。

 季節を感じる仕立ての「天草大王と春野菜のロティ 熊本産アオサのソース」は、ソースとの相性の良さは天草大王の特徴からも想像に難くないが、肉に海の素材を合わせるというクラシックなフランス料理の技法に裏打ちされたメニューだ。「生ウニを添えるのもおすすめですよ」と遠山氏。

 料理に合わせるアルコールも熊本のワインから地酒まで選択肢の自由度が高いラインナップで、ゲストがその時に飲んでいるものに寄り添うようソースをアレンジするなど、瞬時に最善の味わいへと導く。

 初めて訪れたならコース料理がおすすめだが、5枚にも及ぶアラカルトのメニューの多さに、驚かされると同時に心を奪われる。半分でも十分に多く目移りしてしまう数だが、一切の妥協を許さず、手間暇を惜しまないのは、訪れる人の希望に応えたいという思いが遠山氏の根底に強くあるが故。

 フランス料理で研鑽を積んだ後、洋食へと舵を切った理由を遠山氏はこう語る。「相手の立場になってどうしたいのか?を考えた時、フランス料理よりも洋食の方が、ニーズを叶えられるのです」。その想いが、料理やサービス、空間のすべてに反映されている。だから、居心地がいい。西麻布の小さな一軒に、これまでの店で出会った人々が遥々訪ねて来てくれるというエピソードも頷ける。


洋食ビストロ TŌYAMA

洋食ビストロ TŌYAMA

西麻布の交差点から徒歩数分。シェフが調理する姿が描かれた外観が目印。6席のシェフズカウンターと3つのテーブルからなる客席には、厨房から匂いや音が伝わってくる。

東京都港区西麻布1-11-13
Tel.03-6804-3969
日曜・月曜定休
17:00~23:00(L.O.22:00)
※状況により変更する場合あり
コース8800円、1万2500円、アラカルト780円~


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