ロジェ・デュブイ「エクスカリバー モノバランシエ」大胆な革新性の秘密

FEATURE本誌記事
2022.06.06

今やモダンスケルトンの名手にして巧者として知られるロジェ・デュブイ。そのロジェ・デュブイの新作が「エクスカリバー モノバランシエ」である。複数のテンプを搭載した複雑ムーブメントを取り揃えるマニュファクチュールだからこそ、テンプがひとつのモデルを「モノバランシエ」と表現するあたり、すでに凡百のウォッチメーカーとは一線を画すが、この新作が採用した新型ムーブメントは、審美性が高められただけでなく、性能面においても大きく進化を遂げている。常に革新し続けるロジェ・デュブイの秘密に迫る。

エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド
(左)2021年に発表された「エクスカリバー モノトゥールビヨン」のデザインコンセプトを盛り込んで刷新されたオートマティックスケルトンの最新作。ロジェ・デュブイが特許を取得した退色しにくいイーオンゴールドをケースに採用。Ref.RDDBEX0954。自動巻き(Cal.RD720SQ)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kイーオンゴールド(直径42mm、厚さ12.7mm)。10気圧防水。962万5000円(税込み)。
(右)裏側から見ると、スケルトナイズされたムーブメントの徹底ぶりが一層際立つ。文字盤側の星型の受けにはショットブラスト仕上げが、裏側から見られる地板にはヘアライン仕上げが施され、エッジはいずれも面取りされる。ダークグレーのカラーリングはNACコーティングによる。スケルトンウォッチの先駆けであるロジェ・デュブイでは、10年前から新たな潤滑油の開発に取り組み、2年前より紫外線に強いまったく新しい潤滑油を採用している。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年7月号掲載記事]


現代スケルトンの最高峰

エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

片方向巻き上げ式のマイクロローターは、従来のタングステン単体から、タングステンとゴールドのバイマテリアルに変更され、より華やかに。自動巻きの巻き上げ効率は、同じ片方向巻き上げ式のETA7750をベンチマークにしたというから手堅い。

 新型キャリバーRD720SQのポイントは大きく3つ。パワーリザーブを従来の約60時間から約72時間へと延長した点。緩急針を廃したフリースプラングテンプの採用。最後が、機械式時計の心臓部である脱進機を構成するガンギ車とアンクルの爪石にシリコン素材を採用し、かつそれぞれの形状を最適化することで脱進機の動力伝達効率を約50%向上させた点だ。

 実は、パワーリザーブを延長できた理由には、さらに革新的な改良があった。同メゾンにおいてプロダクト開発全体を統括するグレゴリー・ブルタンは次のように明かしてくれた。「動力源である香箱に収められた主ゼンマイを薄くすることで、同じスペース内で主ゼンマイを長くすることができ、パワーリザーブの延長が可能になった」。もちろん、脱進機のシリコン化、ガンギ車と輪列の歯型の最適化、新規開発の潤滑油の採用など、さまざまな改良の積み重ねの成果であることは間違いないが、大本の動力源である主ゼンマイにまでその〝カイゼン〞が及んでいたとは徹底している。

エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

ロジェ・デュブイが初めて採用したフリースプラングテンプ。テンプの慣性モーメントの調整は、テンワ外周に配されたマスロットを回して行う。
エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

オープンワーク化された香箱からは、従来よりも薄くすることで巻き数を増やし、長くできた主ゼンマイがのぞく。パワーリザーブを約72時間に延長できた一因だ。

 大胆な革新はそれだけではない。ガンギ車とアンクルの爪石にシリコンを採用していることは既知の情報であるが、その表面にダイヤモンドコーティングを施すことで、シリコン特有の青みがかった色味を改善している。いかにもシリコン然としたパーツのカラーは、ロジェ・デュブイの審美性にはそぐわないというわけだ。

 ブルタンはシリコンパーツに関する新情報も開示してくれた。他社が採用するシリコン製脱進機は、爪石を持たない一体型のシリコン製アンクルである。対して、ロジェ・デュブイではアンクルの爪石のみをシリコンに置き換えた。その理由は、爪石先端の形状の最適化にあたり、従来のルビー(人工サファイア)は硬すぎて、彼らが望む形状に加工するのが困難だったからだという。ロジェ・デュブイは爪石とガンギ車の接触時の摩擦を低減するため、爪石先端の斜面に曲面を与えることを考案した。だが、硬いルビーではその加工に困難を極めたため、容易かつ精密に成形できるシリコンを選んだのだ。一体パーツではなく、爪石だけをシリコンにした理由は調整が利くため。

エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

規格の形状ではなく、独自の歯型を輪列に採用することで、歯車とカナの噛み合いを改善し、動力の伝達効率が高められた。結果、テンプの振り角もより安定した。
エクスカリバー モノバランシエ イーオンゴールド

脱進機を構成するガンギ車とアンクルの爪石にはダイヤモンドでコーティングしたシリコンが採用される。軽量化に加え、より精密な形状に成形できるため摩擦が低減され、脱進機効率が約50%も向上。

 メゾン初の採用となったフリースプラングテンプについても、グレゴリーは異なる見地を与えてくれた。テンプの安定性を高めるために慣性モーメントを2倍に増やしたいが、既存のムーブメントと同じスペースしかテンプには割くことができない。その最適解こそが、マスロットをテンワ外周に載せることで慣性モーメントを高めるフリースプラングテンプの採用であった。

 自社開発ムーブメントを持つウォッチメーカーは、特に新型ムーブメントの発表に際して、いかに革新性を盛り込んだかを訴求することに心血を注ぐものだ。だが、モダンスケルトンの嚆矢であり、今や他社の追随を許さないロジェ・デュブイにとっては、大胆で革新的であることこそがモットーにほかならない。故に、類を見ない圧倒的な独創性と審美性の周知に注力する。ブルタンが明かす同メゾンの革新性こそ、真のマニュファクチュールが一目を置くべき価値があるのだ。

エクスカリバー モノバランシエ ダイアモンド

エクスカリバー モノバランシエ ダイアモンド
イーオンゴールド製のベゼルにダイヤモンドを配したRef.RDDBEX0953。他の2モデルの地板と受けにはNACコーティングが施されるが、このモデルではピンクゴールドコーティングで仕上げられ、一層華やかに仕立てられる。自動巻き(Cal.RD720SQ)。32石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約72時間。18Kイーオンゴールド(直径42mm、厚さ12.7mm)。10気圧防水。1050万5000円(税込み)。
エクスカリバー モノバランシエ ブラックセラミック

エクスカリバー モノバランシエ ブラックセラミック
ラインナップに追加されたブラックセラミックケースを採用したRef.RDDBEX0955。地板と受けに施されたNACコーティングによるダークグレーのカラーリングは、精悍な印象のブラックセラミックスの外装とよく似合う。自動巻き(Cal.RD720SQ)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブラックセラミックス(直径42mm、厚さ12.7mm)。10気圧防水。836万円(税込み)。

Contact info: ロジェ・デュブイ Tel.03-4461-8040


2022年 ロジェ・デュブイの新作まとめ

https://www.webchronos.net/features/78642/
ロジェ・デュブイ エクスカリバー〝モノバランシエ〟始動

https://www.webchronos.net/features/77463/
ロジェ・デュブイ、掟破りのフライングトゥールビヨン

https://www.webchronos.net/features/62133/