ローマン・ゴティエが語る 今、マイクロメゾンが熱い訳

FEATURE本誌記事
2022.08.04

世界的にホットなジャンルとなったマイクロメゾン。立役者のひとりは、間違いなくローマン・ゴティエだ。かのフィリップ・デュフォーに時計作りを学んだ彼は、エンジニアであり、工場経営者でもあり、MBAホルダーでもある。彼はその情熱と非凡な洞察力をもって、ローマン・ゴティエに成功をもたらしてきた。
その当事者に、成功の理由と、マイクロメゾンが注目を集める理由を語ってもらおう。

Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年9月号掲載記事]

「COVIDの前から人々は本物の価値とは何かを考えるようになった」

 マイクロメゾンが伸びているのは、COVID(によるパンデミックが原因ではありません。それより前からだと思っています。いくつかのブランドの価格は投機的に上がってしまい、そんな中で時計愛好家の人々は本物の価値を考えるようになりました。ですからCOVIDの前から多くのコレクターたちは私たちの名前を知り、時計を見て、あるいは購入したわけです。

 今、一部のブランドの時計は価格が上がっていますが、それは投機的で、債券のようなものです。そんなレベルの価格には付き合えない、お金を使うならば投機的なものではなく、本当に価値のあるものに使おう、と時計好きは考えるわけです。そして世界中にいる多くの素晴らしいコレクターたちが、「あの(投機)ゲームはもう好きじゃない」と言うようになったんですね。お金を払うなら、本当に価値のあるものを手に入れよう、ということです。

ローマン・ゴティエ

ローマン・ゴティエ
1975年、スイス生まれ。ジュウ渓谷に育った彼は、工業高校と高等技術学校を経て、サプライヤーのフランソワ・ゴレイに就職。後に時計作りに魅せられ、フィリップ・デュフォーに弟子入りし、時計作りの手法を学んだ。ゴレイに工作機械を借りてムーブメントを完成させた後、05年に独立。併せて時計メーカーに高品質な部品を提供するようになった。経営、エンジニアリング、そして時計作りを理解する、スイスでも稀有な人材のひとりだ。

 過去10年にはいろいろなことがありましたが、ヴティライネンやグローネ・フェルドといったスモールニッチブランドは残っています。私たちも同様で、2005年の創業からここまで17年かかりました。3年や5年ではなく、17年ですよ。今コレクターたちは開眼し、そして残ったニッチブランドの将来についても確信を持てるようになったと言えるでしょう。2020年は私たちにとって最良の年でした。21年もそうでしたし、22年はさらに良いでしょう。

 私は人々が、より希少なものを探すようになったと理解しています。そして、私たちの作る時計は工業生産された、どこでも見られるものではありません。コレクターが探しているのは、多くの人が欲しがるものではなく、より数が少なく、特別なもの。別の言い方をすると、人が知らないような贅沢なものです。ですが、オートオルロジュリーという言葉はもう響かないでしょう。もはや質を意味するものではないから。私たちはもうこの言葉を当てにはしません。

 今と昔とでコレクター層は変わったのか? 変わっていないと思っています。ハイエンドなコレクターの方は、常に美しいものやクラフツマンシップを求めています。でも若い世代のコレクターは増えました。彼らはブランドの1本目に10万スイスフランを出すことには抵抗があるけれど、4万スイスフランならOKを出す。今、大メーカーもそれぐらいの価格の時計を作っていますからね。新しいコレクションの「コンティニュアム」というのは私たちのブランドにとっての入り口ですね。プライスポイントがこれまでと違うのです。

インサイト・マイクロローター

ローマン・ゴティエ「インサイト・マイクロローター」
表裏両方向のブリッジによって軸を支え、安定性と効率性を高めたマイクロローターがアイコニックなモデル。直列配置のふたつの香箱によって、高い精度とロングパワーリザーブを誇る。コンパクトなケースにグラン フー エナメル製ダイアルを配し、その周りを磨き込まれたブリッジが飾る。自動巻き。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt(直径39.5mm、厚さ12.9mm)。5気圧防水。世界限定10本。1364万円。問スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650

 コレクションをオートクチュールとプレタポルテに分けるという構想は、昨年から始まっていました。前者は年産数60本、後者は200本程度でしょうか。前者は芸術的な曲線美を追求し、後者は現代的な直線の美しさを表現しています。そのためコンティニュアムとは、私のビジョンのDNAと解釈、そして現代的なアプローチを盛り込んだ、よりコンテンポラリーなコレクションです。今までとは違うアプローチですが、ラッパーもいいし、古いオートクチュールもいいでしょう?

 私たちのコレクターは、自分で手にする以外のものは購入しません。トレンドに合わせた買い方をしないのです。一般的なコレクターたちは、マズローのピラミッドのように、ある集団の一員になることを求めているのかもしれません。それがピラミッドの底辺なのか頂点なのかはさておき、一員になりたいと考えている。では私たちはどうなのか。別のところにあるピラミッドなのです。彼らは自分のために買っているのであって、見せるために所有するのではありません。そして、自分が何をどんな理由で買うのかを本当に理解している。なぜならばよく知り、また好きだからでしょう。


Contact info: スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650


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