オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT」内製化がもたらした比類なき統一感

FEATURE本誌記事
2022.10.21

ロイヤル オークと言えば、入手困難なモデルの代名詞的存在だ。しかし、驚くほどの人気にもかかわらず、オーデマ ピゲは会社としてのスタンスを何ひとつ変えていない。それを示すのが、2000年以降に進んだ内製化だ。ムーブメントに加えて、ケースやブレスレットも自製する。多くのメーカーが質に注力したのに対して、オーデマ ピゲは、むしろ時計としてのまとまりを重視してきた。その集大成が本作である。

ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


マニュファクチュール化の狙いは質の向上以上に審美性の追求だった

ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT

 2000年代に入り、まずはムーブメント、続いては外装の内製化に取り組んだオーデマ ピゲ。その狙いはふたつあった。ひとつは言うまでもなく、クォリティの向上である。ロイヤル オークを例に取ると、ケースやブレスレットの完成度は、数年前のモデルに比べてさえ、明らかに向上した。

 もっとも質の向上は、最終的な狙いではなかった。オーデマ ピゲが目指したのは内製化により、時計全体に統一感をもたらすことだった。つまりは、ムーブメントと外装が高度に融合した時計づくり、である。

 オーデマ ピゲと他社の大きな違いは、おそらくこの点だろう。同社は、はるか以前から、時計の内外装に一貫性を与えようと試みてきた。一例がスケルトンウォッチである。極薄のムーブメントを可能な限り肉抜きし、そこに控えめな外装を合わせる。さまざまなメーカーがスケルトンウォッチの製作に取り組んだが、内外装に統一感があった点で、同社のプロダクトは頭ひとつ抜きんでていた。ちなみに、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)を創業したジュリオ・パピも、当初はスケルトンウォッチの製作を行っていた。ひょっとして同社は、スケルトンウォッチの製作を通して、内外装をまとめる重要性を知ったのかもしれない。

 そんな同社が、ムーブメントに続いて、ケースやブレスレットの内製化に取り組んだのは必然だった。その融合のサンプルとなったのが、スケルトンウォッチである。「ロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワーク」は2枚重ねのテンプを文字盤側に露出させたモデルだ。ユニークな2枚重ねのテンプに目線を集めるべく、意図的にテンプの周囲をスケルトン化し、テンプ受けもゴールドに改められた。加えて、針とインデックスをゴールドにすることで、ロイヤル オークの角張った外装と、丸く肉抜きされたムーブメントに巧まぬ統一感を与えた。

 この手法を、自由度の高い複雑時計に転用したのが、この「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT」である。内外装に用いられるグレー、バーガンディー、ゴールドといった色は完全に同じであり、つまりはケースとムーブメントの内製化が成功したことを物語る。さらに、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ」で成功を収めたシンメトリーな造形は本作も同じである。もっとも文字盤側を見ると、単なるシンメトリーではなく、9時位置のテンプを強調するようなデザインとなった。角張ったムーブメントの造形と仕上げは、やはりエッジを強調したコンセプトの外装とハーモニーをなし、時計全体の塊感を誇張している。

ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT」
一層の洗練を得た24時間表示GMT付きのフライングトゥールビヨン。造形だけでなく、色調を揃え、デザインを阻害する要素を省くことで、時計としての統一感がより強調された。2000年以降に進んだ内製化の集大成でもある。滑らかなリュウズの操作感や、適度に角を落としたケースなど、感触も比類ない。手巻き(Cal.2954)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約237時間。Ti(直径44mm、厚さ16.1mm)。100m防水。時価。

 審美性への配慮は、裏蓋側を見れば一層明らかだ。上下には長いパワーリザーブをもたらすふたつの香箱がシンメトリーに配置され、それを幾何学状にくりぬかれた地板が支えている。加えて、トゥールビヨンキャリッジには、隠すための「蓋」が設けられた。メンテナンスの際にキャリッジにアクセスしやすいよう、そして複雑機構を強調するため、かつてのモデルはキャリッジがむき出しだった。対して本作は、裏側にカバーを設け、キャリッジの存在を隠してしまったのである。蓋の色はやはりバーガンディー。近年の同社製複雑時計に同じく、夾雑物になりかねない要素を、デザインから入念に省いたのだ。同社が、スケルトンではなく、同じ手法を使いながらも「透けない」、つまりは余計な要素を見せないオープンワークに至ったのは当然だろう。

 現在、さまざまなメーカーが、内外装の融合を試みるようになったし、それらの中には、見事なパッケージングを備えるものも少なくない。しかし筆者は、ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMTほど成功したモデルを、他に知らない。オーデマ ピゲが進めてきた内外装の内製化は、果たせるかな、驚くべき実りをもたらしたのである。



Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


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